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5. 王の思惑




5. 王の思惑


山都谷教が経済圏と民衆の心に深く根付いた夜、玉座に座る陽光は静かに夜空を見上げた。月明かりに照らされた玉座の広間には、壁に掛けられた太陽神の象徴が柔らかく光を反射している。王は沈黙の中で呟いた。


「宗教とは、剣よりも深く人の心を縛る。我らの経済圏を守る盾であり、時には矛となるだろう」


その声には、単なる宗教的熱意だけでなく、戦略家としての冷徹な思考が滲んでいた。民衆の信仰は、都市や村を超えて経済圏全体に影響を及ぼす。山都谷教を通じて人々の心を束ねることは、軍事力や武力以上に大きな支配力を生む。陽光は、光の力を政治と経済に巧みに結びつけることで、無形の「盾」を築いていたのである。


側近の一人が慎重に口を開いた。

「陛下、教祖が陛下その人であることを公表すべきでしょうか?」


その問いに、陽光はわずかに笑みを浮かべた。笑みの奥には計算された静謐さがあり、決して軽々しいものではなかった。


「今はまだ、“光を下ろす王”でいい」

彼は玉座の背もたれに深く寄りかかり、柔らかく視線を窓の向こうの星々に向けた。

「民はまだ、王と太陽神の距離を必要としている。距離こそが、信仰の純粋さを保つ鍵なのだ」


そして、声を低め、さらに意味深に続けた。

「だが、いずれ時が来たら……太陽そのものと呼ばせよう」


その言葉は、単なる予告ではなく、長期的な計画を示す宣言であった。王としての権威を保持しつつ、信仰の中心に自らを据えることで、山都谷教は政治・経済・宗教の三位一体の支配力を手に入れる。民はまだ王を敬う者として見るが、やがて光そのものを体現する存在として崇めるだろう。


陽光は深く息をつき、玉座の広間に静寂が戻るのを感じた。目の前に広がるのは、単なる宗教の広がりではない。経済圏と民衆の生活、既存宗教との共存、そして未来に向けた信仰の統合――すべてが、王の手の内で光として形を成しているのだ。


「剣よりも深く、人の心を縛る……そう、光こそが最強の支配力」

陽光はそう自らに言い聞かせ、静かに微笑んだ。夜の闇は濃いが、彼の内にある太陽の光は、すでに世界の隅々を照らし始めていた。


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