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第2章「不満分子の台頭」



即位式から数日後、王宮内の空気は一見、平穏を装っていた。しかし、玉座の背後では、静かなる不協和音が芽生え始めていた。王宮の北翼、重厚な石造りの一室に老臣と大司祭がひそひそと集まり、互いの視線を交わしながら口を開いた。


「やはり……第一王子を退けるなど、前代未聞だ」

老臣の声は低く、しかし怒りと疑念が滲んでいた。長年、王宮で権力の中枢に君臨してきた彼にとって、王の行動は慎重であるべきものだった。第一王子は確かに軽薄で無能だが、老臣たちにとっては操りやすく、既得権を維持するうえでは都合の良い存在だったのである。


大司祭も静かにうなずく。「そうだ。第三王子が“急に覚醒”したなど、信じられるものか。民を騙せても、我らは納得せぬ」

彼の声は冷静だが、その眼差しは鋭く、玉座に座る新王・陽光への不信を隠せなかった。神田陽光の即位は、彼らにとって既存の権力構造を根底から揺るがすものであり、王宮内に潜む不満分子たちの危機感を刺激していた。


「第一王子の方が、我らにとっては操りやすかった」

老臣の口から再び不満が漏れる。軽率で無能であることは、彼らにとってはメリットでもあった。政策の重要決定や人事の操作は、第一王子の軽薄さに紐付けて容易に行えたのだ。だが今、玉座に座るのは前世の合理主義者として覚醒した第三王子。自ら計算し、合理的に判断する王の存在は、彼らの思惑を通さず国政を動かす可能性を秘めていた。


大司祭は小さく息をつき、慎重に言葉を選んだ。「我らの既得権を脅かす存在だ。民衆は新王に熱狂しているが、王宮内部での支持は別問題だ。ここで手を打たねば、我らの影響力は削がれる」


老臣は眉をひそめ、机を軽く叩く。「確かに……このままでは、我らは従属するしかない。王位簒奪の理由を掲げ、行動を起こすべきかもしれぬ。だが、民の目は厳しい。無策では反発を招く」


二人の間に沈黙が訪れる。静かではあるが、緊張は張り詰めていた。王宮の外では、民衆は陽光の即位を祝う歓声に包まれていた。しかし、重臣と宗教界の中枢では、王位を奪われたことへの不満が密かに芽吹き、陰謀の種となっていた。


大司祭が指を軽く組み、机の上に置く。「まずは情報収集だ。王宮内の忠誠心の弱い者、陰で不満を抱く者を洗い出し、結束を図る。民や新王に露見しないよう、密かに行動せねば」


老臣は小さくうなずき、微かに笑む。「そうだな。王位簒奪の計画は、表向きでは決して明かせぬ。我らの目的は明確だ。既得権を守り、王宮内の力を取り戻すこと。そのためには、冷静な策謀と時間が必要だ」


二人の間に不気味な沈黙が流れ、重厚な石壁にその空気が反響する。窓の外には、王宮庭園を吹き抜ける風の音がかすかに聞こえるだけ。外の世界の祝祭とは対照的に、室内は陰謀の香りに満ちていた。


老臣はふと、壁に掛けられた古い肖像画を見上げた。歴代王の顔が並ぶ中、自分たちが守ってきた権力の歴史が映し出される。陽光が王となった今、歴史の秩序は覆され、彼らの既得権は危うくなる。


「この国の秩序は、王だけでなく我らの手によって守られてきた」老臣の声には、誇りと焦りが混じる。「民は新王を支持しているかもしれぬ。しかし、王宮の真の権力は、我らの手の中にあるべきだ」


大司祭は静かに息を吐き、低くつぶやく。「ゆえに、行動の時は近い。だが、焦りは禁物だ。王宮内での支持を削ぐことが先決。民の目には、陰謀の影など映らぬように」


二人は机の上に書類を広げ、密かに計画を練り始めた。王位簒奪の理由、支持者の取り込み方、王宮内外の情報操作。どれも一朝一夕で成し遂げられるものではないが、計画が具体化するほど、重臣と宗教界の不満分子たちの動きは現実味を帯びていく。


不満分子たちの台頭は、王宮の平穏を脅かす新たな危機の兆しであった。民は陽光の即位を祝福し、外見上は秩序が保たれている。しかし、王宮内部では密やかな策略が動き出し、王位を守る陽光にとって、次なる戦いの幕開けとなる。


二人の老臣と大司祭は視線を交わし、微かにうなずく。計画はまだ初期段階だが、確実に行動の歯車は回り始めていた。王宮の陰影の中で、静かに、しかし確実に、王位簒奪を目論む策謀の火種が燃え広がっていく。


この日から、神田陽光の治世は外の祝祭とは裏腹に、陰謀と策謀との戦いに満ちたものとなる。民の前での即位は王の誕生を祝う瞬間だったが、王宮内では不満分子の台頭により、目に見えぬ緊張の糸が張られていた。


こうして、表向きには平穏を装いながらも、王宮内の老臣と大司祭たちは、王位を巡る密かな反発の策を練り始めたのである。陽光が王としての威厳を示す中、王宮内部の真の戦いは静かに幕を開けた。


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