5. 支配の裏側
第13章 交易の帝国
5. 支配の裏側
山都谷火山王国の市場は、表向きには繁栄を謳歌していた。
民衆は飢えから解放され、商人は利益を上げ、諸侯も分配された利益に満足している。
だが、陽光の目は、その表面的な繁栄のさらに奥深く――**支配の裏側**――を見据えていた。
「有力な得意先以外の商人は、静かに干せ」
陽光は分身スパイに低く命じる。
「王国に従わぬ諸侯は、市場に入れぬよう仕組め」
その言葉には冷徹な計算が含まれていた。
表面上は、交易利益の50%が帝国、50%が得意先に分配される「均等ルール」が適用されている。
しかし実際には、**帝国に従う者だけが繁栄し、従わぬ者は排除される**仕組みが巧妙に仕込まれていたのだ。
分身スパイたちは、各市場と交易路を監視する。
得意先の商人には特別な優遇措置を与え、商品供給を安定させ、利益を保証する。
一方、忠誠心に欠ける者や従わぬ諸侯には、流通ルートを制限し、商品供給を遅延させ、自然と市場から干されるように仕向ける。
「見せかけは均等でも、実際は我らが完全支配だ」
陽光は帳簿を前に淡々と呟く。
帳簿には、各商人や諸侯の取引量、利益分配状況、供給ルートの優先度が詳細に記録されている。
その数字の鎖は、目に見えぬ力として、全交易圏に影響を及ぼす。
例えば、東方の穀物市場では、主要商人ギルドに優先供給を行うことで利益を保証する一方、反抗的なギルドは配送ルートを削減され、販売機会を失う。
南方の港では、医薬品と高級物資の供給を忠実な諸侯に集中させ、従わぬ者は輸入量が制限される。
「数字と流通の鎖で、各国は気づかぬうちに王国に縛られていく」
陽光の言葉通り、帝国の交易網は、**表面上の自由市場を装いながらも、実際には帝国の意志に従わざるを得ない構造**となっていた。
分身スパイは、各市場での微妙な変化を帳簿に記録する。
利益の偏り、取引量の減少、商人の不満――すべては帝国の制御下で計算され、次の介入策に活かされる。
「陛下、この調整で、反抗的な諸侯も自然と従うようになります」
陽光は頷く。
「完全支配は、一度に力で押さえる必要はない。金と流通の鎖で、知らぬうちに縛るのだ」
帝国の支配は、軍事力に依存するものではなかった。
護衛商隊が交易路を守り、直轄市場を通じて物資と情報を制御し、帳簿に従って利益配分を操作する――
それだけで、諸侯や商人は自然と帝国の意向に従わざるを得なくなる。
陽光は、窓の外に広がる市場の熱気を見つめる。
商隊は往来し、荷車は市場に物資を運び、交易は日々活発さを増している。
だが、そのすべてが**帝国の見えざる手によって動かされている**ことを、誰も意識していない。
「これが、支配の本質だ」
陽光は静かに帳簿を閉じる。
「目に見えぬ鎖で縛る。表面上は自由で、実際は従属。
これこそ、交易による帝国支配の真骨頂だ」
分身スパイたちはそれぞれの任務に戻り、各市場や交易路の監視、忠誠度の評価、干すべき対象の特定を進める。
帳簿には、介入の効果、忠誠度の変化、取引量の増減すべてが詳細に記録され、次の戦略に反映される。
こうして、山都谷火山王国の交易圏は、表面的には繁栄しつつも、**数字と流通の鎖で完全に帝国の支配下に組み込まれていく**。
諸侯も商人も、利益を得るためには帝国の意向に従わざるを得ず、反抗的な勢力は自然と市場から消える。
陽光は帳簿を胸に抱き、淡々と呟いた。
「交易の中心を掌握すれば、剣を抜かずとも世界を動かせる。
目に見える繁栄の裏で、帝国の支配は確実に広がっていく……」
市場の熱気は、繁栄の証であると同時に、帝国支配の目に見えぬ証拠でもあった。
そして、陽光は確信していた――**この支配は永続的なものになる**と。




