3. 外交の舞台
第12章 外交の帳簿
3. 外交の舞台
数か月後。
周辺大国が山都谷帝国の急膨張に警戒し、代表団を派遣してきた。
会議室の空気は重苦しい。天井から差し込む光も、どこか陰鬱に見える。
代表団の長が厳しい声で切り出す。
「貴国の軍事拡大は周辺の平和を脅かす」
「5か国を呑み込んでおいて“平和”などと……」
重々しい抗議と非難が、部屋の壁に反響する。
一触即発の空気。王侯たちの視線は鋭く、圧力の矢が降り注ぐようだ。
その瞬間、陽光はゆったりと立ち上がった。
肩の力を抜き、微笑を浮かべ、声のトーンは穏やかに保つ。
「皆様、まずはお集まりいただき感謝いたします」
部屋の緊張が一瞬で止まる。
陽光の動作と声の柔らかさには、計算された心理的戦略が隠されていた。
分身リーマンたちが翻訳マニュアルに基づき、王侯の性格や心理傾向を整理している。
「この代表団はプライドが高く、威圧には反発する。だが、論理的根拠と利益を示せば心を開く」
陽光は帳簿を取り出し、交渉フローを頭の中で復唱する。
第一のステップは、非難の言葉を認めつつ、事実と意図を整理して提示すること。
「確かに、私たちは軍事力を整備してまいりました。しかしその目的は、平和の維持と周辺諸国の安定にあります。侵略の意図など、一切ございません」
代表団は眉をひそめる。
「では、我々の不安をどう解消するのか?」
ここで陽光は第二のステップ、利益誘導と心理的緩和を組み合わせる。
「貴国の安全保障と繁栄も、我々の戦略にとって重要です。互いに協力すれば、共通の敵や不測の事態に備えることができます」
分身リーマンたちは、王侯ごとの心理トリガーを帳簿に沿って整理し、陽光にリアルタイムで指示を出す。
「左の王侯には、尊厳と権威を強調した表現を追加してください」
「右の王侯には、利益と安定の数値を提示して安心感を与えます」
陽光は静かに頷き、手元の帳簿に沿って言葉を変える。
「例えば、貴国の商港の安全を保障し、交易利益を維持することを確約いたします。さらに、合同訓練や情報交換により、突然の危機にも迅速に対応可能です」
部屋の空気は次第に変化していく。緊張の糸が少しずつ緩み、代表団の顔にも驚きと好奇心が混じる。
陽光はさらに、第三のステップとして“選択肢の提示”を行う。
「我々は貴国の提案も歓迎いたします。条件を調整し、双方にとって最適な合意点を見つけましょう」
重圧を受けていた王侯たちは、初めて微笑みを見せる。
数字と権威のバランス、心理的誘導、利益の可視化――すべてが計算された動きだった。
分身リーマンたちは静かに頷く。帳簿に基づく戦略が、現実の外交の舞台で正確に機能していた。
陽光は会議の終盤、最後の詰めとして、相手の顔色を見ながら柔らかく提案する。
「この合意により、双方の領土と民の安寧を保障し、貴国の尊厳を損なうことなく協力を進めることができます」
代表団の長は一瞬の沈黙の後、深く息をつく。
「なるほど……貴国の誠意は理解した。よろしい、これを正式に協議事項として受け入れよう」
陽光の微笑みが部屋に広がる。
外交の舞台で、心理戦と戦略、そして帳簿に記された知識が、初めて具体的な成果を生んだ瞬間であった。
分身リーマンたちはささやかに拍手を送り、帳簿をそっと閉じる。
陽光はその光景を見ながら、胸の奥で確かな手応えを感じる。
「これで、山都谷帝国は平和を保ちつつ、周辺諸国と協力する道を示せた」
外交の舞台における一つの勝利。しかし陽光の視線は次の課題に向けられていた。
帳簿に記された戦略は無限ではない。次なる交渉、未知の相手、予期せぬ展開……すべてが待ち受けている。
だが、陽光には確信があった。
「知識と戦略を帳簿に落とし込み、心理を読み解く限り、どんな交渉も導くことができる」
こうして、山都谷帝国の外交の舞台は、古代PCと分身リーマン、そして陽光の卓越した戦略によって、未来への新たな道を切り拓いていった。




