2. マニュアルの翻訳
第12章 外交の帳簿
2. マニュアルの翻訳
分身リーマンたちは即座に要点をまとめ上げた。
「陛下、このマニュアルは現代のビジネス交渉術そのものです。
しかし相手は中世の王侯。
応用すれば、彼らにはまさに“魔法”のように映るでしょう」
陽光は微笑む。
「よし、次の外交会議から即導入だ」
分身たちはさっそく作業に取りかかった。古代PCのデータを基に、現代用語や戦略論を中世の王侯が理解できる形に翻訳するのだ。
「利害関係を表す“株式”や“市場シェア”は、領地や貢税に置き換えましょう」
「『コンフリクト・マネジメント』は、『諸侯間の揉め事の処理法』として簡略化できます」
陽光は傍らで、翻訳の精度をチェックする。単なる言葉の置き換えではなく、王侯の心理に響く例えや寓話を交えることが重要だ。
「中世の王侯は誇り高いが、数字や契約に弱い。利益の見える化と権威の保持を両立させるんだ」
分身リーマンたちは、翻訳したマニュアルの試作版を陽光に提示した。ページをめくるたび、彼らの創意工夫が光る。
「第一章:利害の見える化――城や領地の収入を数値化して提示する」
「第二章:交渉時の時間稼ぎ――饗宴や狩猟行事で相手の判断を緩やかに誘導する」
「第三章:利益誘導と妥協点――爵位や爵位特権の譲渡で合意を引き出す」
陽光は頷く。
「完璧だ。これなら中世王侯も納得する。いや、感動すら覚えるだろう」
#### 3. 試験運用
翻訳マニュアルはまず、宮廷内の小規模な外交会議で試験運用されることになった。
分身リーマンたちは、陽光の指示のもと、王侯の思考や性格に応じたカスタマイズを施す。
「この王侯は誇り高く、外部からの指示に反発するタイプです」
「ならば、利益を提示する際は彼の権威を称える言葉を添えること」
陽光はその指示を帳簿に書き込み、仮想シナリオをチェックする。画面上の予測では、従来型の交渉では合意まで数日を要する案件も、翻訳マニュアルを応用すれば半日で結論が出る。
「まるで魔法のようだ……」陽光は独りごちる。
#### 4. 心理と戦略の融合
翻訳作業で最も重要なのは、戦略を単なる理論に終わらせず、王侯の心理に落とし込むことだった。
マニュアルには「理性的判断」と「感情的誘導」の二層が組み込まれており、分身たちはそれを王侯の言語や慣習に翻訳する。
「例えば、相手の不満を数字や物品で満たすと同時に、彼の名誉を称える言葉を添える」
「取引条件を提示する際は、対価と栄誉のバランスを見極めること」
帳簿には、この心理戦のフローが図解され、各王侯ごとの対応策が一覧化される。
陽光はページをめくりながら、自分の直感と照らし合わせる。
「完璧だ……データと直感がここまで融合するとは」
#### 5. 実践への移行
数日後、いよいよ本番の外交会議が開かれた。
陽光は翻訳マニュアルを手元に置き、分身リーマンたちと共に席に着く。王侯たちの表情は警戒と好奇心が入り混じる。
陽光はゆっくりと資料を広げ、最初の交渉の言葉を選ぶ。
「我らが領土の発展のため、共に手を取り合うことを提案します――ただし、各々の名誉と権威は尊重されます」
王侯たちは一瞬の沈黙の後、興味深そうに身を乗り出す。
その反応は、マニュアルの予測通りだった。
「うむ……これは新しい手法だな」
陽光は微笑む。帳簿に書き込んだフローに従い、相手の心理を丁寧に操作していく。
数時間後、難航が予想された条約は、滞りなく成立した。
分身リーマンたちは控えめに頷き、陽光はその成果を静かに帳簿に記す。
「これが、翻訳されたマニュアルの力……いや、私たちの力だ」
外交の帳簿に新たなページが加わった瞬間である。
この成果は、単なる条約成立に留まらず、未来の外交戦略における羅針盤となる。




