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2. 楽天の品





2. 楽天の品


塔の高台で蒼い光に照らされた鉄の軍団を見下ろしながら、陽光は静かにため息をついた。異変の兆候――巡回経路の逸脱や兵士同士の小競り合い――それはわずかだが、無視できるものではなかった。鋼の子らの秩序は、王国の安定の根幹であり、ほんの小さな歪みも積み重なれば、予期せぬ混乱を生む可能性がある。


「……人間の知恵だけでは限界か」


そう呟くと、陽光は手元のマジックボックスを起動した。光の中に浮かぶ画面は、現代のインターネットに直結していた。彼は冷静に検索窓に文字を打ち込む。


【内部トラブルマニュアル 軍隊・組織向け】


瞬時にヒットしたのは、分厚いファイルと電子マニュアルのセットであった。タイトルは多岐にわたる。


「危機管理ハンドブック」「コンフリクトマネジメント」「不満分子処理フロー」「チームダイナミクス最適化」――いずれも、現代の組織論や軍事心理学に基づいた高度な資料だ。


陽光はその内容をスキャンし、必要な対策を即座に分析した。巡回経路の逸脱、兵士同士の小競り合い、環境への過剰反応――これらすべては、人間の組織でいう「内部不満」や「局所的摩擦」と同じ構造である。鋼の子らは忠誠心こそ絶対だが、性格のランダム性や環境条件により、微細な秩序の乱れが生じているのだ。


「完璧な秩序など幻想か……いや、現代の知恵を組み合わせれば可能だ」


彼は即座に決断する。検索結果に表示されたマニュアルとファイルを、「1,000セット」そのまま購入するボタンを押した。支払いは王国の準備金から10兆円――桁外れの額である。しかし、陽光にとっては金額など些細な問題であった。秩序を守ることに比べれば、紙切れ同然の数字である。


「即日納品……だと?」


マジックボックスは応答した。現代の物流網は、この世界においても驚異的なスピードで機能する。電子マニュアルは即座にサーバーに送信され、分厚い物理的ファイルは翌朝には王城地下の倉庫に到着する段取りとなっていた。


陽光はファイルの到着を待つ間、鉄の軍団に目を向けた。整列する兵士たちは無言で任務を遂行しているが、微細な異変の痕跡は確かに存在する。巡回パターンのわずかなずれ、目線の交錯、短時間の停滞――それはまるで、人間の職場における「小さな不満」のようであった。


ファイルが到着すると、陽光はすぐに精査を始める。内部トラブルマニュアルには、次のような戦略が記されていた。


1. **巡回ルートの動的最適化**

個々の性格特性や環境条件に応じ、リアルタイムで巡回経路を微調整するアルゴリズム。

2. **局所的衝突の予防**

小規模な行動データを分析し、潜在的な対立や衝突を事前に予測、回避行動を自動的に命令するシステム。

3. **秩序維持の心理的強化**

鋼の子らに模擬的な「報酬と認知」を与えることで、忠誠以外のランダム性による逸脱を補正する手法。


陽光は微笑む。古代の知恵によるアンドロイド兵士の創造、現代の知識による秩序維持――これこそが、王国の鉄の軍団を完全無欠にする鍵だった。紙と電子データが揃うだけで、彼の頭の中には秩序の全体像が鮮明に描かれた。


「これで、秩序は再び完璧になる」


彼は迅速に命令を打ち込む。巡回経路の再編、局所的衝突の回避、秩序維持プログラムの適用――すべてが即座に実行され、鋼の子らの行動は再び完全な統制下に置かれた。微細な異常は消え、整列する兵士たちの動きはより精密かつ規則正しくなった。


塔の高台から眺める街と兵士たち。民衆は変わらず安心して生活を送り、鉄の軍団は無言でその秩序を守る。だが陽光の瞳は冷静であり、さらなる未来を見据えていた。


――秩序は設計できる。秩序は維持できる。

――そして、王国の鉄の軍団は、現代の知恵と古代の力を融合させることで、誰にも揺るがぬ存在となる。


陽光はマジックボックスを閉じ、微かな笑みを浮かべた。世界を統べるための設計図は完成に近づいている。そして次なる展開――秩序を拡張し、王国の影響力をさらに広げる準備が、静かに始まろうとしていた。



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