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第11章 秩序の設計図  1. 不穏な兆候




第11章 秩序の設計図


1. 不穏な兆候


征服から数か月が経過し、山都谷火山王国は未曾有の秩序と安定を享受していた。民衆は安心し、都市や農地は無傷で守られ、鉄の軍団は忠実にその任務を遂行しているように見えた。しかし、その安定の裏で、わずかな異変が芽生え始めていた。


「陛下、報告です。昨日、哨戒任務を命じた兵が、勝手に巡回経路を変更しました」


陽光は眉をひそめる。忠誠は絶対であるはずの鋼の子らが、なぜ自己判断のような行動を示したのか。続いて別の報告が届く。


「こちらでは、兵同士で口論が絶えず、殴り合いになったとの報告があります」


性格はランダムに設定されている――忠誠心は揺るがぬが、個性の微細な揺れが顕在化しているのかもしれない。鋼の子らは人間の思考や情動を模倣して作られている。忠誠は絶対だが、それ以外の性格や感情の揺らぎは、長期間の活動や環境変化によって表面化する可能性がある。


「……鉄の軍団にも、限界があるか」


陽光は静かに呟き、マジックボックスを開いた。これは古代図書館から持ち出された、現代の科学知識が詰まった万能の情報端末である。彼は数分間、報告書とデータを高速で分析した。異常行動の頻度、巡回経路の変更の傾向、兵士同士の衝突のタイミング――すべての情報を統計化し、原因のパターンを割り出す。


「性格ランダム設定に加え、任務環境の単調さと長期間稼働が、微小な秩序の乱れを誘発している……なるほど」


陽光は考えた。忠誠心が絶対である以上、反乱や裏切りの危険はない。しかし、秩序が乱れることで統率が効かず、任務遂行に齟齬が生まれることは十分あり得る。無数の鋼鉄兵士が僅かな歪みを積み重ねると、長期的には大規模な混乱を招く可能性があるのだ。


彼はデータを手元で可視化すると、巡回経路の変更や小競り合いの発生地点をマップ上にプロットした。結果は一目瞭然だった。特定の環境条件、例えば都市部の狭隘な通路や長時間の単独哨戒が重なる場所で、秩序の乱れが顕著に現れていたのだ。


「……これは現代の知恵で解決する」


陽光の瞳に決意が宿る。古代の技術だけでは、鋼の子らの秩序維持は完璧ではない。現代の知識、統計学、心理学、制御工学――それらを組み合わせることで、アンドロイド兵士の秩序を安定化させることができる。


まずは、巡回パターンの最適化アルゴリズムを導入することを考えた。個々の兵士の性格差や環境条件を考慮し、巡回経路を微調整することで、衝突や勝手な行動を未然に防ぐ。さらに、兵士同士の情報共有ネットワークを強化し、局所的な異変が全体に波及しないようにする。


陽光は微笑む。科学的手法と古代の知恵を融合させれば、鉄の軍団の秩序は永続的に維持できる。彼の頭の中では、未来の戦略設計図が描かれ始めていた。忠誠心と秩序の完全な制御、それこそが王国の防衛力を無限に拡張する鍵となる。


塔の高台から街を見下ろすと、整列した鋼の子らの瞳が光を反射して揺らめく。微細な秩序の乱れは存在するが、それは制御可能な範囲である。陽光は冷静に指示を出し、修正プログラムを投入する準備を整えた。


――秩序は設計できる。秩序は守られるべきだ。

――鉄の軍団は、忠誠と知識のもとで完璧な秩序を保つ存在となる。


異変の兆候は、もはや危機ではない。陽光は心の中で確信した。現代の知恵と古代の技術を組み合わせれば、鉄の軍団はただの兵士ではなく、未来を支える絶対的な秩序の具現となる。


そして、彼の目は遠くの国境や未踏の領土に向けられた。秩序を維持し、拡張し、世界の未来を設計する――それが陽光の新たな野望であり、鉄の軍団を支配する究極の目的であった。


地下室の蒼い光が脈打つ中、陽光は冷静に指示を打ち込み、秩序の設計図を実行に移す準備を整えた。鉄の軍団は再び完璧な整列を取り戻すだろう。そして王国の秩序は、新たな時代の設計図に従い、さらに強固なものとなる。



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