2. 鉄の進軍
2. 鉄の進軍
陽光は冷静に作戦を練った。隣国アヴェロンは人口2万、軍はわずか3千。戦力の差は圧倒的であった。人間の兵士が有する士気、食糧、休息、夜明けと日没――これらすべての制約を凌駕する存在が、今、王の命令を待っていた。
夜明け前、深い霧が国境を覆う中、鉄の軍団は静かに移動を開始した。鎧の金属音はほとんどなく、槍や剣が闇に溶ける。数万のアンドロイド兵士が、まるで影のように無音で国境を越えた。補給線も食糧も不要、夜昼の区別もなく、限界を知らない行軍。歩みは整然としており、指揮系統の混乱も一切存在しない。
アヴェロンの国境警備は、最初は何の異変も感じなかった。だが数時間後、異様な静寂と規則正しい足音の気配に、警備隊は異常を察知する。しかしその瞬間には、すでに数千の鋼の子らが前線に姿を現し、城門に向けて一直線に進軍を続けていた。
「兵士が……眠らない!?」
前線の指揮官の叫び声は、恐怖に震える隊員たちの耳に響いた。矢を放っても、槍で刺しても、鋼の子らは倒れない。防御力と耐久力を兼ね備えた鎧は、あらゆる攻撃を受け流し、全ての動きを正確に維持する。敵兵は戦う意志を失い、恐怖に顔を歪めた。
昼夜を問わず進軍は続く。疲労を知らぬ兵士たちは、絶え間なく国境を進み、わずか三日でアヴェロンの首都を包囲した。城門の防衛は数時間も持たず、城内は混乱に陥る。指揮官たちは状況を理解するや否や、降伏を余儀なくされる。
「降伏……陛下、我らには抗えぬ……」
王族は捕らえられ、城の高塔に幽閉された。市民は驚きと恐怖で街中に散らばり、動揺の声が街全体に響く。鉄の軍団は民衆に危害を加えることはなく、秩序を保ちながら兵力を維持するだけだ。しかし、その冷酷な完璧さが、アヴェロン国民に深い絶望を与えた。
陽光は高塔を遠目に見つめながら、全軍に告げた。
「民を傷つけるな。我々は力を見せるために来たのだ。忠誠と秩序の価値を示すのだ」
鋼の子らは整然と列を組み、民衆や捕虜に対して一切の暴力を振るわず、統制された態度を崩さない。その無機質な冷徹さこそ、敵国に恐怖を植え付ける最大の武器となる。
陽光は心の中で次の一手を思案した。アヴェロンを占領するのではない。支配ではなく、圧倒的な力の示威だ。鉄の軍団の存在を知らしめることで、他国の指導者たちに無言のメッセージを送る。忠誠と力を兼ね備えた王国の威光――それを一瞬で理解させるための行動だった。
城下町に響く金属音と整列する兵士たちの姿は、民衆の間に新たな秩序を生み出した。恐怖と敬意が入り混じる街の空気の中で、鉄の軍団は一歩も乱れず、その場に立ち続ける。人間の限界を超えた兵力は、戦争という概念そのものを変えつつあった。
三日目の夕暮れ、首都の中心に陽光は立つ。高塔に幽閉された王族の視線を感じながら、冷静に命じる。
「城の管理と秩序を維持せよ。我々は勝利を示すが、統治は安定と秩序を尊重する」
鋼の子らは沈黙のまま頷き、忠誠を示す光を瞳に宿す。夜空に映えるその整列した姿は、まるで王国そのものの象徴であるかのようだった。
そして陽光は内心で静かに告げる。
――人間の軍隊は恐怖と疲労に縛られる。だが、鉄の軍団は違う。忠誠だけを持ち、限界を知らぬ兵力――これこそ、王国の防衛、拡張、そして抑止力の根幹となる。
アヴェロンの首都は無血に近い形で制圧され、王族は幽閉された。民衆の生活は乱さず、王国の力は確かに示された。鉄の軍団は、ただ静かに次の命令を待ち、地下から昇る蒼い光のように、王の意志を体現し続ける――それが、この新たな時代の戦争の姿であった。
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