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5. 兆し



第8章 古代図書館の扉


5. 兆し


静謐な古代図書館の空気を破るように、中央に鎮座していた装置――古代PCが突然、脈動するような光を放ち始めた。書架の透明板や巻物が反射し、空間全体が淡い輝きに包まれる。重臣たちは一斉に後ずさり、分身スパイたちは即座に警戒態勢を取る。


画面の表面に、赤く光る文字が浮かび上がった。


【ユーザー認証:王権血統確認済み】


「……!」

重臣のひとりが思わず声を上げる。言葉を失ったように口をぱくぱくと動かし、額から冷や汗を垂らした。古代の装置が、陽光を“正統な使用者”として認めたのだ。凡庸だった先代では成し得なかったことを、陽光は当然のようにやってのけた。


続けざまに文字が流れる。


【プロジェクト:火山制御技術】


その言葉を目にした瞬間、陽光の瞳は鋭く細められた。

「……火山を、制御するだと?」


室内に緊張が走る。重臣たちは互いに顔を見合わせ、誰もが理解を拒むかのように首を振った。火山――それは王国の名の象徴であり、同時に最大の脅威だった。豊かな鉱石をもたらす一方、噴火すれば都市を呑み込み、民を灰に変える存在。古来より畏敬と恐怖の対象であり、神話の中でさえ“人の手では扱えぬもの”とされてきた。


「火山を制御……そんなことが本当に可能なのでしょうか……」

重臣の声は震えていた。


だが陽光の表情には迷いがなかった。光を映したその瞳は、むしろ歓喜を宿していた。

「古代人は既にやっていた。だからこそ、この装置が存在する。伝承では神々の奇跡とされた力……その正体がここにある」


画面にはさらに細かな情報が流れ始めた。火口の圧力を制御するための地下水路、マグマの流れを変える巨大な導管、岩盤に穿たれた巨大な共鳴装置――まるで工学と魔術を融合させたような図面や数式が次々と浮かび上がる。透明な光のパネルには、制御装置の配置や維持方法までも記されていた。


重臣たちはそのあまりの規模と複雑さに、息をすることすら忘れて立ち尽くした。

「神の御業を……人の手で……」

「これを実行すれば、火山の怒りすら抑えられると……」


陽光は冷ややかな笑みを浮かべ、ゆっくりと手を組んだ。

「王国は火山に守られ、火山に怯えてきた。だが、その均衡は常に不安定だった。もしこの力を掌握できるなら……我が国は誰にも揺るがせぬ」


彼の声は低く、しかし確信に満ちていた。

火山は王国の弱点でもあり、最大の防御でもある。外敵が攻め込もうとすれば、火山の噴火は都市を守る盾となり、同時に民にとっては死の恐怖ともなる。もしその力を自在に操れるならば、王国は絶対的な安全を手にするだろう。


分身リーマンが無機質に報告する。「翻訳可能な技術文書を確認。実行には膨大な資源と人員が必要ですが、理論上は完全に可能です」

陽光は頷き、心の中で素早く計算を始める。必要な資源、労働力、そして秘密保持のための布陣。すべてを統制できるのは王の力のみだ。


「重臣たちよ」

陽光は振り返り、静かに言葉を放った。

「今、我らは選択の岐路に立っている。火山を恐れ続けるか、火山を支配するか。……王国の未来を築くのは、恐怖に震える者ではない」


重臣たちは沈黙した。誰もが頭では理解している。だが心では恐れている。神の領域に踏み込むことへの本能的な畏怖。しかし彼らの前に立つ王は、微塵の躊躇も見せず、冷徹な理性と確信を携えていた。


やがて、重臣たちは一斉に膝をつき、頭を垂れた。

「すべては陛下の御心のままに……」


その声を聞き、陽光は静かに笑った。冷たい風が再び吹き抜け、古代PCの画面はなおも光を放ち続けている。


「これで、この国は誰にも揺るがせぬ」

その言葉は、図書館の広間に深く響き渡り、未来を照らす宣言となった。


古代文明が遺した火山制御技術――それは王国の歴史を塗り替える“兆し”であった。





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