3. 古代の知識
第8章 古代図書館の扉
3. 古代の知識
古代図書館の内部は、想像をはるかに超える光景だった。扉の向こうに広がる空間は、長い年月の間、王家の血によってのみ封印されていた知識の宝庫。天井は高く、漆黒の壁には無数の古代文字と不思議な紋様が浮かび上がり、微かな光を反射して輝いている。
書架には書物と巻物が整然と並んでいた。しかしそれは、従来の羊皮紙や紙の書物ではなかった。透明な板のような素材に文字や図像が刻まれ、光の加減で内容が浮かび上がる。文字は古代の魔法の力で固定されているようで、手に触れただけでは消えず、しかし目に見える範囲でのみ情報が浮かび上がる。
その中央には、不思議な光を放つ装置が鎮座していた。形状は四角く、数十センチの厚みを持つ板状で、表面には文字や記号が次々に動き、光の波紋が走る。陽光はそれを前に立ち止まり、息を呑んだ。
「これは……完全に現代よりも進んだ、失われた文明だ」
言葉には、驚きと興奮が混じる。胸の高鳴りを抑えきれず、手のひらがわずかに汗ばむ。長年追い求めてきた知識、それも王国の未来を根本から変えられる可能性を秘めた知識が、ついに目の前に現れたのだ。
陽光は深呼吸を一度行い、冷静さを取り戻す。すでに分身スパイたちは周囲に展開し、空間の安全を確保している。だが、この瞬間の主役は陽光自身であり、古代図書館の知識の開拓者としての役割を果たすのは彼しかいなかった。
「リーマン、来い」
陽光は静かに呼びかけた。応じて現れたのは、彼の分身リーマンである。小柄で知的な姿は、普通の人間のように見えるが、情報収集と整理においては陽光自身の知略を忠実に再現する存在だった。
「整理と解読を始めろ」
陽光の命令に、リーマンは即座に作業を開始する。透明な板を一枚ずつ取り上げ、光の反射と文字の動きを解析しながら、情報を複製し始めた。書物の一部は簡単に翻訳できるが、多くは未知の言語や数式、魔法的符号で構成されており、完全な理解には時間を要する。しかしリーマンは的確に分類し、優先順位をつけて処理していく。
「翻訳可能なものから片っ端に写せ。農業、建築、医学、すべてだ」
陽光は目を輝かせ、未来の王国を頭の中で描き始める。透明板に刻まれた情報は、現代科学の理論よりも洗練されている部分もあり、王国の経済や技術を飛躍的に向上させる可能性を秘めている。新しい灌漑技術、精密な建築構造、効率的な医療体系……これらすべてを取り入れることができれば、王国は中世の制約から解放され、革新的な繁栄の道を歩むことになる。
図書館の奥には、さらに複雑な装置や文字の壁が並んでいる。古代PCのような板に向かう陽光の視線は鋭く、脳内で次々に分析を行う。どの知識を優先して取り入れ、どの順序で王国に導入するか――すべては計算され、王国の利益に直結する戦略として組み立てられる。
リーマンが淡々と報告する。「陛下、農業と医療に関する資料はすでに分類完了しました。建築と都市計画も、初歩的な翻訳が可能です」
陽光は頷き、手元の古代装置を指差す。「よし、翻訳可能なものはすべて記録し、王都に送れ。現場の改革を即座に始められるように準備するのだ」
透明板に刻まれた情報は、ただのデータではない。魔法的エネルギーが刻印と同期し、触れる者の理解力を拡張する仕組みが組み込まれている。リーマンはそれを最大限に活かし、翻訳作業を驚異的な速度で進めていく。
陽光は深く息を吸い、周囲の書物を見渡した。無数の透明板、巻物、そして古代PC……これらすべてが、王国の未来を変える可能性に満ちている。胸の高鳴りは恐怖ではなく、確信による昂揚だ。
「よし……始まったな」
静かに呟き、陽光は最初の透明板に手を伸ばす。その指先が触れる瞬間、光が微かに脈打ち、まるで情報そのものが歓迎しているかのように感じられた。王国の未来を塗り替える冒険は、今まさに始まったのだ。




