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2. 血統開錠




第8章 古代図書館の扉


2. 血統開錠


扉の中央には、赤く光るくぼみがあった。小さく、しかし不思議な存在感を放つその穴は、ただの装飾ではないことが明らかだった。光は脈打つように微かに赤く揺れ、見る者に古代の力の存在を感じさせる。陽光はその前に立ち、周囲の重臣たちと分身スパイたちの緊張した視線を感じながら、ゆっくりと短剣を握った。


「これが、王家の血で開く鍵……」

陽光の声には震えはなく、静かな確信が宿っていた。彼の手元で短剣が冷たく光り、刃先が指先に触れる。小さな痛みが走り、血が滴り落ちる瞬間、彼の中に古代の力と王家の血脈が共鳴する感覚が走った。血の滴がくぼみに触れると、赤い光が一瞬にして強く脈打ち、扉全体に広がった。


「開け」

低く、力強く、命令のように口に出す。その言葉に応えるかのように、扉は轟音とともに震え始めた。古代文字が赤く燃え上がり、まるで生き物のように動き出す。光の波動は、周囲の空気を振動させ、重臣たちは思わず後ずさる。


「ま、魔術か……!」

「神の奇跡だ……!」

誰もが口をつぐむ間もなく、光は増幅し、扉の厚い黒曜石を赤い炎のように染め上げる。重臣たちは息を詰め、分身スパイたちは警戒の目を光らせるが、陽光は動じない。血統によってのみ触れられる力を、彼自身が体現しているのだ。


微かな振動が指先から腕、そして全身へと伝わる。その感覚は、単なる力ではなく、王家に代々受け継がれてきた意志と知恵の共鳴のようだった。陽光の瞳には、過去の王たちの声が聞こえるかのように映る。凡庸な先代とは異なり、彼には知恵と決断力がある。今、彼の血が扉の魔力を認めた瞬間だった。


やがて、重厚な扉がゆっくりと左右に開き始める。黒曜石の壁が裂ける音が、岩肌に反響し、静寂の夜に轟く。その隙間から、冷たい風が吹き込み、長い間封じられていた空気を攫っていく。風は新鮮で、かつ神秘的な香りを帯び、古代の知識と魔力の息吹を運んでくる。


「見よ……」

陽光は軽く息を吐き、扉の奥に広がる光景を見渡す。無数の書物、巻物、魔法的装置が整然と並ぶ巨大な空間。天井には古代の星座が描かれ、壁面には不可解な紋様と記号が浮かぶ。そのすべてが、古代の知識の精華として息づいている。


重臣たちは思わず声を失い、分身スパイたちは息を呑む。誰一人として、この光景を事前に知る者はいなかった。古代図書館は、長い時を経て初めて、王の血によってその扉を開いたのだ。


陽光は一歩前に踏み出し、冷たい風に触れながら、慎重に足を進める。床に散らばる埃や古代の符号が光に照らされて煌めき、空間全体が生命のように感じられる。彼は書物の一冊に手を伸ばす。その瞬間、古代魔術の波動が掌から全身に広がり、知識と血統が融合する感覚が訪れる。


「ここから始まる……王国の新たな時代」

低くつぶやく声には、恐怖も迷いもなく、確信だけが宿っていた。長年封じられていた知恵は、今、陽光の手によって解き放たれる。王都の未来、民衆の繁栄、制度の再編――すべてを変える力が、この瞬間から現実となるのだ。


冷たい風が再び吹き抜け、扉の向こうで古代図書館の光が脈打つ。赤く光ったくぼみは徐々に消え、血は魔力と融合して跡形もなく吸い込まれていく。その残像だけが、王家の血によって成し遂げられた奇跡を証明していた。


陽光は深く息を吐き、周囲を見渡す。重臣たちも、分身スパイたちも、恐怖と畏敬の入り混じった目で彼を見つめている。しかし、王としての陽光には迷いはない。扉が開かれ、未知の知識と力が手の届く場所に現れた瞬間、彼の確信は揺るがなかった。


「さあ、進もう……」

静かに、しかし力強く、陽光は古代図書館の奥へ歩を進める。その背中を、長年眠り続けた知識と魔力が照らし出していた。夜の静寂の中、冷たい風と古代の光は、王国の新たな章の幕開けを告げていた。


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