3. 民衆の熱狂
3. 民衆の熱狂
最初に共同資金庫から融資を受けたのは、王都近郊の小麦農家だった。陽光の宣言を受け、農民たちは長年夢見ていた水車の導入に踏み切る。従来、資金が不足し、手作業でしか行えなかった収穫が、これによって大幅に効率化されるのだ。
水車が設置され、川の水の力を借りて小麦の粉を挽き始めると、農家の人々は目を輝かせた。刈り取った穀物が例年の倍以上になり、倉に積まれる収穫を見たとき、農民たちは自然と歓声を上げる。
「おお! 去年の倍だ!」
「王様の言う通りだ、利息なんてなくても金は回る!」
その声は村中に広がり、他の農民たちも関心を示す。利息の負担を恐れることなく、出資を受けて農作業の改善や設備投資に挑戦できる喜びは、これまでにない感覚だった。村の広場では、農民たちが水車の仕組みや収穫量の増加を語り合い、新しい経済の可能性を肌で感じていた。
この成功は瞬く間に王都や周辺の村に広まり、他の職人や商人たちも共同資金庫に列を作るようになる。鍛冶屋は工房の増設資金を求め、革職人は作業場の改修に出資を利用する。商人は商品の仕入れ資金や市場拡大のための資金を集める。民衆は口々に囁いた。
「利息を取らない王の仕組みは、公平だ」
「借金で苦しむ必要がなくなる」
「これなら誰でも挑戦できる」
共同資金庫を通じて、利益を出せば出資比率に応じて分配され、損失が出ても皆で負担する――この公平で協力的な仕組みが、民衆の信頼を一気に陽光へと傾けた。従来の高利貸しや商人ギルドに対する不信感は薄れ、王の政策を支持する声が広がっていく。
農民や職人だけではない。商人たちも資金庫を活用し始め、これまで個別に行っていた取引が協力型の共同出資に変化していく。遠方の町との取引でも、利息に依存せず、リスクと利益を共有する形が普及し始め、王国全体の経済循環に変化の兆しが見えてきた。
さらに、民衆の間では自然に情報が共有され、融資の成功例が語り草となる。小麦農家の水車の話は職人の工房や商人の倉庫に伝わり、他の地域でも同じ仕組みを取り入れようという動きが出始める。民衆の間で「利息なしで金を回す」という概念が理解され、共通の価値観として根付き始めるのだ。
広場では子どもたちも遊びを通じて経済の基本原理を学ぶ。協力して資源を集め、分配するゲームの中で、自然に出資や利回りの概念が体験される。遊びながら学んだ原理は、将来の実生活に直接役立つ教育の一環となり、次世代にも無利子金融の理念が浸透していく。
陽光は王城の高台から民衆の様子を見守る。歓声、笑顔、期待に満ちたざわめき――そのすべてが、王都での政策が確実に成果を上げつつある証拠だった。分身リーマンたちが監督することで秩序も維持され、反対派の権益者は行動の自由を奪われ、王の経済網に組み込まれている。民衆の熱狂は、秩序と信頼の循環を同時に作り出していた。
「金は、利息ではなく、協力で回すものだ」
陽光は心の中で静かに呟く。民衆が信頼し、熱狂し、行動に移すことで、無利子金融の理念は単なる理論ではなく、生活の中に根付きつつある。農民の水車、職人の工房、商人の交易――小さな成功が連鎖し、王国全体の経済構造に新しい潮流が生まれ始めた。
民衆は喜びに包まれ、信頼と協力を通じて自ら経済を動かす実感を得ていた。共同資金庫の列は日に日に長くなり、人々の期待は王都の空に満ちていく。利息に縛られず、損失も皆で分かち合う――その新しい秩序は、王国の未来を力強く照らす光となっていた。
王都の空に響く歓声と笑顔の中で、無利子金融はついに民衆の熱狂と共に幕を開けたのだった。




