5. 陽光の笑み
5. 陽光の笑み
王城の執務室は、夜の静寂に包まれていた。石造りの壁に反射する松明の光が、天井や書物棚に揺らめき、不規則な影を落としている。机の上には契約書や報告書が整然と並び、その一角で千の分身スパイからの報告が届くたび、紙の上に印や記録が加わっていく。
陽光は椅子に腰かけることなく、窓の外を見据えていた。王都の街並みは夜の帳に包まれつつも、広場や通りには民衆の活気がまだ残っている。昼間の祭りの熱狂は、夜になっても完全には鎮まらず、民たちは「金貨流転」の競技に夢中になっている。その笑顔や歓声を見つめながら、陽光の唇には自然に微笑みが浮かんだ。
「奴らは己の欲で縛られた」
分身スパイの報告書には、高利貸しや商人ギルドの幹部たちが、自らの欲望と競争心によって王の策略に取り込まれた経緯が詳細に書き込まれていた。報告を読み進めるたび、陽光は満足感を深める。正義や強制力を振りかざすことなく、民衆の快楽や権益者の欲望を巧妙に利用することで、計画は完璧に機能しているのだ。
「正義を語らずとも、利益と快楽で絡め取れる」
その言葉には、冷静さと確信、そしてほのかな優越感が滲む。権益者たちは自らの判断で動いたと思っているが、実際には王の掌の上で踊らされている。彼らの怒りや抗議も、理性の残滓も、すべて計算の範囲内にある。陽光の微笑みは、単なる満足ではなく、社会全体を掌握する確信の表れだった。
執務室の空気は重厚で静かだが、机の上に置かれた書類の山には、王国の未来を動かす膨大な情報が詰まっていた。分身スパイからの報告は、ただの作戦成功の記録ではない。民衆の動向、権益者たちの心理、出資金の流れや契約成立のタイミングまで、すべてが網羅され、王の意思に沿った精密な経済モデルを描き出している。
陽光は窓の外を見やる。広場では子どもたちが金貨流転に夢中になり、大人たちはその騒ぎに混じって歓声を上げる。遊びの中で自然に学び、協力し、金を巡らせる民衆。彼らの喜びは表面的には無邪気だが、実際には王の計画に組み込まれた経済循環の一部として機能している。民衆自身も、まだその構造には気づいていない。
その裏で、反対派の権益者たちは絶望の中にある。高利貸しも商人ギルドの幹部も、自らの財産や利権が王国の名義に組み込まれ、撤回不能の契約に縛られている。叫びや抗議も無駄で、理性の回復も叶わず、彼らは無力に王の策略の中で踊らされるしかない。陽光の目には、その無力な姿も、計画の完成度を示す美しい対比として映っていた。
「この国の未来は、こうして着実に動き出すのだ」
陽光は静かに呟く。分身スパイの活躍、民衆の無意識の学び、そして権益者たちの無力化――すべてが連鎖し、王国全体を新しい秩序へと導く。無利子の世界、金の循環、協力と学びが基盤となる経済構造――その芽はすでに大樹となりつつあり、王の戦略の全貌は完成に近づいている。
夜風が窓を揺らし、松明の炎もわずかに揺れる。王都の街には表向きの平穏が漂うが、実際には精密に計算された策略の網が張り巡らされている。民衆は無邪気に遊び、権益者は知らぬ間に縛られ、王国の秩序は静かに、しかし確実に変わりつつある。
陽光の笑みは、表情以上の意味を持っていた。満足と確信、そして未来への揺るがぬ信念――それは、王都の夜に溶け込み、静かに輝いていた。分身スパイの報告が机に積み重なり、民衆の熱狂が窓の外で続く。そのすべてが、王の意志によって統制され、計算され、完成されているのだ。
「民も、権益者も、すべて我が掌の上で踊る」
陽光はゆっくりと椅子にもたれ、満足げに目を閉じる。王城の執務室に漂う静けさの中で、微笑は深く、確固たるものとして息づいていた。王国の未来は、すでに動き出している。民衆の遊び、権益者の絶望、そして王の策略――そのすべてが、完璧に絡み合い、無利子の世界への道を切り開いていたのである。




