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3. 詐欺の網


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3. 詐欺の網


王都の夜は、依然として表向きの賑わいと裏側の策略が入り混じっていた。城の灯りや通りの明かりに紛れ、もう一人の分身スパイが商人ギルドの建物に向かっていた。彼は若い男の姿に変じ、肩には書類や巻物を抱えている。足取りは自然で、表情には警戒の色も疑念も見せない。まるで何の目的もなく、ただそこに存在するかのような振る舞いだ。


「王は次に新しい貿易制度を導入されます」


分身スパイは、声を潜め、ギルドの重鎮たちの耳元で巧みに囁く。その口調は柔らかく、かつ説得力に満ちていた。言葉は、利権や競争意識に敏感な商人たちの心理に直接作用する。誰もが、目の前の提案を逃すことが損失につながるかのように感じ、理性よりも欲望が先に立つ。


「私を通じて出資すれば、あなた方は優先的に利権を得られる」


商人たちは次第に熱を帯び、競うように金を差し出す。重鎮たちが視線を交わし、互いに計算しながら出資額を上乗せするたび、分身スパイの微笑みはわずかに広がる。声や仕草の端々に織り込まれた魔力が、理性を鈍らせ、判断力を曇らせるのだ。出資の意思は瞬く間に固まり、誰も後戻りできない状態に誘導されていく。


しかし、商人たちが気づかぬうちに、王の意図はすでにその網の中に組み込まれていた。出資金は単なる取引ではなく、王国の管理下に直接吸収される仕組みとなっていた。民衆やギルドの権益者は、表面的には利権を得たつもりで喜ぶが、実際には自らが王の経済網に取り込まれ、自由を奪われつつあった。


「ふむ、これは……面白い」


分身スパイは心の中でほくそ笑む。彼の任務は単に金を集めることではない。商人たちの欲望を巧妙に操り、理性の隙間に入り込み、最終的に王の経済戦略に沿わせることにある。その動きは、表向きには自然な市場行動のように見えるが、背後では計算された魔力と心理操作の網が張り巡らされている。


商人たちは気がついた時にはもう手遅れだった。既に出資金は王国の掌中にあり、契約や約束は撤回不能の魔力によって縛られている。利権を得たという錯覚とともに、彼ら自身の自由意志が制御されている事実に気づく者はいない。理性が戻る頃には、すでに王の計略は完成していた。


ギルド内部には微妙なざわめきが残る。出資の競争による嫉妬や、利権の配分に対する疑念も芽生える。しかし、それらもすべて王の網の中で計算された現象に過ぎない。争いは王の利益に変換され、個々の商人は互いに牽制し合うことで、結果的に王の経済戦略に沿った行動を強いられる。


分身スパイは、静かにその場を離れる。夜の街に溶け込み、目立たぬように闇の中に消える。彼の任務は成功した。商人ギルドの幹部たちは、自らの欲望に従って出資を行い、気がついた時には完全に王の経済網に取り込まれていた。表面上は自由な市場の動きだが、実際には王の意思によって巧妙に制御されているのである。


王都の夜風が石畳を撫でる中、陰影に紛れた分身スパイの微笑みが、静かに王の意志を伝えていた。金貸しや商人ギルドへの一連の策略は、ただの小規模な介入ではない。民衆の遊びの循環、経済の自主性、そして既得権益者の行動――すべてを巧みに絡め取り、王国全体の経済構造に変化を生じさせる第一歩なのだ。


夜の闇に紛れ、分身スパイは次の標的に向かって足を進める。商人たちが気づくことのないうちに、王の策略は静かに、しかし確実に拡大していく。逃げ場のない網が、王都の経済全体を覆い尽くす日も遠くない。


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