5. 未来への布石
5. 未来への布石
ある静かな夜、城の玉座に腰を下ろした陽光は、月明かりに照らされた広場の遠景を思い浮かべながら、分身スパイたちに指示を下した。
「各村に十台ずつゲームを配れ。特に若い者に触れさせろ」
その言葉に、分身スパイたちは瞬時に行動を開始する。村々の路地、学校、広場、商人の集まる市場まで、木製の盤と駒、サイコロ、木札で構成された「金貨流転」が運ばれていく。分身リーマンたちが手際よく説明し、民衆に遊び方を伝える。
ゲームはすぐに子どもたちの間で人気となった。駒を進め、投資マスで出資し、収穫や損失を経験する中で、遊びながら金の回り方、協力と競争、損益分配の原理を自然と学ぶことになる。
「なるほど……金を貸して利息を取るのではなく、みんなで出資して育てるのか」
ある少年がつぶやく。隣で遊ぶ友達と資金を出し合い、事業を共に育てる経験を通じて、金融の基本的な概念を理解していく。
各地の村でも同じ光景が広がる。
農夫の子どもたちは畑の収穫イベントに夢中になり、商人の息子たちは港や市場の駒を動かして戦略を考える。成功の喜び、失敗の悔しさ、協力による利益――すべてが遊びの中で自然に学習として吸収される。
陽光は夜の玉座で小さく呟く。
「これで下地はできた……次は――現実の無利子金融だ」
単なるゲームで終わらせるのではない。遊びの中で培われた概念を、現実世界の金融制度に応用する計画である。利息を取らず、共同で事業に出資し、利益と損失を共有する――この思想を民衆が自然に理解することが、次なる政策実施の布石となる。
分身スパイたちは、王の意図を理解し、細部にまで気を配る。ゲームの普及は慎重に行われ、特に若い世代に触れさせることで、次世代が無利子金融の概念を自然に受け入れるように仕向ける。子どもたちが理解すれば、その親世代も影響を受け、徐々に社会全体に新しい金融感覚が浸透していく。
市場では、子どもたちの笑い声が響く。
「俺の投資が成功したぞ!」
「えー、干ばつで大損だ……!」
笑い声の中に、自然と経済の原理が溶け込んでいる。陽光は、民衆が楽しみながら学ぶ姿を静かに見下ろし、心の中で次の施策を思い描く。
この布石は、単なる教育や娯楽ではない。将来の経済政策を滑らかに受け入れさせるための社会的な準備であり、民衆の価値観や行動を段階的に変える戦略でもある。民は自ら学び、協力し、競争を体験することで、無利子金融という新しい概念に抵抗なく向き合える準備を整えていく。
陽光の計画は静かだが確実である。城の高台から見下ろす村々、広場、学校――子どもたちが駒を進めるたびに、未来の国家の姿が少しずつ形を成していく。ゲームを通じて育まれた経済感覚は、やがて現実の商売や投資、金融活動に自然に反映される。
王の改革は、子どもたちの笑い声と共に静かに、しかし確実に進行していた。遊びを通じて培われた概念が民衆の心に根を下ろし、やがて国家全体の経済構造を変える力となる。陽光はその先を見据え、未来の国家像を心に描く。
「民が理解する準備は整った……次は現実の世界で、この概念を形にする時だ」
夜の城から見下ろす無数の灯火、広場の子どもたちの笑顔、駒の動きの一つひとつ――それらすべてが、王の未来戦略の一部となる。無利子金融の理念は、まず遊びを通じて民衆に浸透し、その後、社会全体を変革していく。陽光は玉座に座り直し、静かに微笑んだ。
「これが……未来への布石だ」
こうして、王の改革は民衆の教育と娯楽を通じて、静かに、しかし確実に始まっていた。金貨流転の木駒は、単なる遊びを超え、国家の未来を形作る布石となったのである。




