3. 民衆の反応
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3. 民衆の反応
初めて市場広場に「金貨流転」が並べられたとき、民衆の表情は半信半疑に満ちていた。色鮮やかな木製の盤、手描きの町や村、個性的な駒たち――見慣れない物体に目を奪われながらも、民の心には疑念が残る。
「盤に駒を置いて……これが遊びになるのか?」
一人の農夫が眉をひそめて呟く。
「博打か?」
隣の職人も、腕組みしながら首をかしげる。
市場の空気は静かで、子どもたちの笑い声がまだ届かない。民は遊びと学習、娯楽と現実の境界を測りかねていた。しかし、その静寂は長くは続かなかった。
陽光が命じた分身リーマンたちが、最初の試みとして子どもたちにゲームの遊び方を示す。サイコロ代わりの木片を振り、駒を進める。止まったマスでは、投資や収穫、偶発的な損失のイベントが発生する。子どもたちは驚きと好奇心で目を輝かせる。
「わあ!俺の小麦畑、大豊作だ!」
歓声を上げ、駒を次のマスに進める子ども。
「うわっ、干ばつで全滅だ……!」
別の子どもが駒を戻し、悔しそうに顔をしかめる。
その様子を見ていた大人たちは、徐々に興味を示すようになった。最初は遠巻きに見ていた商人や職人、農夫たちも、自分の駒を盤上に置き、ゲームに参加し始める。
「お、俺のパン屋が大繁盛したぞ!」
商人は歓声を上げる。資産が増えれば、自分の経済感覚が正しかったことを実感する。
「俺の羊の群れ、疫病で全滅だ……」
農夫は肩を落とすが、駒を置き直し、次の戦略を考え始める。損失を受け止めつつ、リスク管理の重要性を自然に学んでいる。
ゲームは瞬く間に広場の中心を支配した。子どもたちは楽しみ、大人たちは真剣に駒の行く先を考える。出資と共同経営のルールに従い、資産を増やすためには協力も必要だ。商人は農夫に資金を貸して市場を拡大し、農夫は職人に投資して道具を改良する。損益の分配によって、成功も失敗も皆で共有する。これが自然と経済の原則を体感させる仕組みであることに、民はまだ気づかない。
「なるほど……こうやって互いに助け合うと、もっと利益が増えるのか」
職人がつぶやき、隣の農夫と協力して駒を進める。笑い声と歓声が混じり合い、広場全体に明るい活気が満ちる。
陽光は玉座の奥からその光景を静かに見つめる。民が楽しみながら経済の基本を学ぶ――まさに自分の狙い通りだ。恐怖や命令で従わせるのではなく、遊びを通じて自主的に行動させる。民は自らの意思で投資を行い、リスクを管理し、他者と協力することで国全体の富を増やすことを体験する。
「これだ……これが民に経済を学ばせる最も自然な方法」
陽光の目に、民の笑顔と真剣な表情が映る。歓声、驚き、悔しさ、喜び――すべてがこのゲームの中で循環し、学びとなる。
やがて広場は、単なる遊びの場を超えて、人々が自然と経済活動や判断力を磨く学びの空間となった。子どもは楽しみながら計算し、大人は戦略を練る。商人や職人は互いに投資を行い、協力と競争のバランスを学ぶ。損益の分配や共同出資のルールは、民が社会全体での資源運用や協力の価値を体感する教育的要素となった。
初めて見た民は、半信半疑だった。しかし、ゲームの楽しさと戦略性に触れるうち、広場には笑い声と歓声が絶えなくなった。金貨流転は単なる娯楽ではなく、国家戦略の一部として民の心と行動を変える力を持っていた。
陽光はその様子を見て、心の中で静かに微笑む。
「楽しみながら学ぶ……これで民は経済を理解し、国家はさらに繁栄する」
木駒が盤上を進むたび、民の資産も経験も増えていく。笑い声と歓声が広場に響き渡る中、陽光は未来の国家の姿を思い描く。
「これが、我が国の新しい時代の始まりだ……」
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