1. 王の閃き
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第4章 投資ゲームの誕生
1. 王の閃き
玉座に腰を下ろしたまま、陽光は目を閉じ、過去の記憶を手繰るように考えを巡らせていた。王権は確立した。民も臣下も、恐怖と忠誠の混ざった感情で従っている。しかし、それだけでは国は豊かにはならない。次の課題は経済――交易、税収、資源の循環を掌握し、国を発展させることであった。
そのとき、ある記憶が頭をよぎった。サラリーマン時代、店長研修で体験した経営シミュレーションゲーム。売上を管理し、在庫を調整し、人員を配置する。数字と戦略を直感的に学べる教材であり、研修生たちはゲームを通じて自然に経営の基本を理解したのだ。
さらに子ども時代の駄菓子屋での「人生ゲーム」。サイコロを振り、マスを進め、偶然と計画のバランスで資産を増やす。その単純なルールの中に、利益の計算、リスクの評価、偶発的なイベントへの対応という、経済の基本が自然に組み込まれていた。
「そうだ……」
陽光の目が一瞬輝く。
「遊びにすればいい。民が楽しみながら、経済の仕組みを覚えるように」
王は自らの閃きに微笑む。経済教育は堅苦しい教令や課税だけでは伝わらない。民は楽しむことで理解し、主体的に経済活動に参加するようになる。遊びを通じて経済を学ぶ――それは、遊戯と学習を融合させた新しい統治の形であった。
玉座の背後で、分身リーマンたちが静かに待機している。彼らは陽光の命を受け、すぐに動き始めた。紙と木片、色彩豊かな駒、そして中世風の城や村を模したボード――すべてが民に親しみやすい形で設計される。
「資源の管理、交易、税金の徴収、偶発イベント……すべてをゲーム化せよ」
陽光の声は明確で、指示に無駄はない。分身リーマンたちはそれぞれの担当を決め、設計図を描き、駒やカードの原案を作り始める。木のコマには農民や商人、兵士や商隊が描かれ、ボードには町や港、市場や城が配置される。サイコロやカードによって、民は偶然のイベントや投資のリスクを体験することになる。
「イベントカードには、洪水や旱魃、商隊の襲撃など、予期せぬリスクを盛り込む。そして、利益を増やす投資や交易の選択肢も用意する」
陽光は細部まで考え抜く。ゲームの中で、民は投資の概念、収支のバランス、リスク管理、そして意思決定の重要性を体感することになる。
やがて、分身リーマンたちが完成した設計図を王に差し出す。中世風の木製ボード、色鮮やかな駒、サイコロ、イベントカード……見た目の楽しさだけでなく、経済の原則が自然に組み込まれている。
「完璧だ」
陽光は頷く。これを民に配布すれば、単なる遊戯が国民教育のツールになる。民は遊びながら経済を学び、戦略的に資源を運用することを楽しむだろう。そして、王が定める税や市場のルールも、自然と理解されるはずである。
王の計画はさらに広がる。遊びを通じて民の経済リテラシーを高めるだけでなく、ボードゲームを使った競争によって、民の間に自発的な生産や投資の意欲を芽生えさせることも可能だ。利益を競う民、損失を恐れる民、戦略を練る民……それぞれの動きが、国家全体の経済活動を活性化させる。
陽光は玉座から立ち上がり、窓の外に広がる街を見渡す。
「これが、未来の経済教育の形……いや、国家戦略の一部だ」
民が楽しみながら学ぶゲーム。その中で、経済の仕組みを自然に理解し、王の統治下で活発に活動する。これこそ、陽光が考える理想の経済政策であった。
陽光の目に光が宿る。新しいボードゲームは、単なる遊戯ではなく、民を国家の発展に導く道具であり、同時に王の統治を盤石にする強力なツールとなる。
「さあ、導入の準備を始めよ……」
城内の分身リーマンたちは再び動き出す。材料の調達、駒の制作、ボードの彩色、ルールの印刷……すべてが中世風に整えられ、民に届けられる日を待つ。
遊びながら経済を学ぶ――この発想は、これまでの統治にはなかった斬新な試みであり、陽光は次なる戦略を胸に、静かに微笑むのだった。
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