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「陽光の策」



玉座に戻った神田陽光は、広間に静かに座り、重厚な玉座の背もたれに体を預けた。光の差し込む窓から見下ろす王宮庭園には、祝祭の残り香がわずかに漂っていたが、玉座の上の王の表情は微塵も祝祭の喜びを示さなかった。


「いいだろう……まずは連中を“利益”で縛る」


低く呟く声には冷徹な決意が宿っている。前世のサラリーマン時代、無数の会議と交渉の場で培った戦略的判断と心理掌握の技術が、今、王としての政治手腕と結びつき始めていた。派閥争いや陰謀、重臣たちの忠誠心の揺れを制御するには、単に威圧や権威を振るうだけでは不十分である。必要なのは、彼らの利害を王の手に取り込み、抵抗するよりも従属するほうが合理的であると感じさせることだった。


陽光の手には、王の絶対権力がある。決裁権、土地と財産の分配権、人事権、軍事権――あらゆる権力が手中にある。しかし、権力だけでは必ずしも人心を掌握できない。ここで重要なのは、目に見える利益で重臣たちの忠誠心を具体的に形作ることだ。彼は内心で計算を巡らせ、誰にどの利益を与え、誰を切り捨てるかを即座に決める。


「まずは、老臣の派閥だ」

陽光は心の中でリストを整理する。公開討議で口を挟んだ老臣たちは表向き従順を装うものの、心の奥底では反発の種を抱えている。ここで重要なのは、彼らに『従うことが得策である』と確信させること。権力を握るだけでなく、利益と安心を同時に提供し、心理的に縛り付けるのだ。


次に、宗教界の大司祭との関係を計算する。先日の駆け引きで曖昧な態度を示した大司祭は、まだ完全には服従していない。だが、金銭的・物質的利益や、王が掌握する権威を巧みに提示すれば、信仰と政治の間で揺れる心を王側に取り込むことは可能である。信仰者の心に刺さる名誉と権威を提供すること。それこそが王としての粘り強い統治術の第一歩である。


「そして、10兆円のマジックボックス……」


陽光は呟きながら目を細める。前世の知識に基づき、国家予算と王の特権で操作可能な資源は膨大である。戦略的に配分することで、重臣たちを懐柔し、民衆の支持をさらに増幅させることができる。インフラ整備、農民救済、交易促進……目に見える形で利益を与えれば、反発は自然と弱まり、忠誠は金銭的・心理的に縛られる。


陽光はその全てを頭の中でシミュレーションする。誰にどの資金を、どの土地を、どの役職を与えれば最も効果的か。切り捨てるべき者は誰か。情報網と分身スパイから得たデータを組み合わせれば、各重臣の心理や派閥構造、隠れた野心まで正確に把握できる。


「つまり、王としての最初の戦いは、粛清と取り込みだ」


冷静に呟くその声には、王としての決断が凝縮されている。玉座の上から見下ろす王宮内は、表面上は静かであるが、重臣たちの心は動揺と警戒に揺れている。陽光の手中にあるのは、権力だけではなく情報と利益という二重の武器である。


彼はまず、最も影響力の強い派閥をターゲットに定める。説得と懐柔、あるいは切り捨てのタイミングを慎重に計算する。表向きは忠誠を求める姿勢を見せつつ、裏では確実に彼らの心理を制御し、王の権威を絶対化する戦略を練る。


陽光の目は鋭く光る。玉座の上の微笑みの裏で、王宮内の権力構造は静かに変動し始めている。派閥や不満分子がどのように動くか、どの情報を先に流すか、どの利益を与えて心を縛るか――全ては王の手の内にある。


「これが、王としての最初の一手……」


陽光は深く息を吐き、心の中で作戦を最終確認する。王としての権力と前世の経験を組み合わせ、粛清と取り込みを同時に進める――これこそが、王として国を統治するための合理的かつ冷徹な戦略であった。


こうして、王として最初の「粛清と取り込み」は静かに幕を開けようとしていた。民衆の目にはまだ祝福と安定の景色が映っているが、玉座の上では、陽光が王としての真価を示す戦いの火蓋が切られたのである。王宮内の力の均衡は、この瞬間から王の意志によって少しずつ書き換えられ始めた。




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