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影の囁き



第20章(続き) 影の囁き


王宮の深奥、玉座の間の隅に置かれた古代PCの画面が、かすかに青白く光っていた。電子音は静かに響き、暗い室内に独特の冷たさを添える。陽光は椅子に深く腰かけ、その画面をじっと見つめていた。指先は机に触れることなく、ただ静かに空中で動く――目の前に浮かぶ情報を一字一句、心の中で噛み締めるかのように。


画面には、見慣れた文字列が次々と表示される。数値と評価、そして予測が簡潔にまとめられている。


【協定成功:国家安定度 +20】


陽光は眉間に微かな皺を寄せた。国家安定度が大きく向上したことは喜ばしい。商人ギルドとの裏協定は、予想通り国家の安定に寄与している。しかし、次の文字が彼の心を一瞬で引き締めた。


【副作用:商人ギルドの“秘匿技術”が検出されず】


目を細め、画面を凝視する。静かな室内に、わずかな呼吸音だけが響く。

「……検出されず?」


陽光の声は低く、ほとんど独り言だった。手元の指先が微かに震える。つまり、ギルドは国家に報告していない、未知の技術や成果を密かに保持しているということだ。表面上の契約は順守され、利益も分配されている。しかし、裏には国家の目をかいくぐる“秘匿技術”が存在する。


王は静かに立ち上がり、窓の外に広がる夜景を見つめた。街の灯りは平和に揺れ、人々は日常を楽しんでいる。しかし、玉座の間の静寂の中で、王の瞳には一瞬の影が差した。未来は完全に掌握できるものではない。巧妙に組み上げた戦略の網にも、予想外の隙間は存在する。


「つまり、ギルドはまだ、私の知らぬ何かを隠している……」


その言葉は、冷たい決意と警戒を含んでいた。王は知っている。商人たちは野心を持ち、利益を追求する存在である。たとえ半分を掌握しても、残り半分の自由は必ず創意工夫や隠匿を生む。国家の計算通りにすべてが進むわけではない。それが、経済と権力の微妙な均衡を生む条件でもあるのだ。


陽光は玉座の背もたれにもたれかかり、長い沈黙の中で思索を巡らせる。古代PCの画面に表示されたデータは、単なる数値ではない。国家の未来を左右する警告であり、同時に戦略の再評価を迫る囁きでもあった。


「秘匿技術……か」


王は口元に微かな笑みを浮かべた。表面上は冷徹に見えるが、その笑みには計算と興味が同居していた。ギルドが未知の技術を保持することは、脅威でもあり、同時に利用可能な資源でもある。重要なのは、国家の掌握下で、その技術を安全に引き出すことだ。


深い闇の中、陽光は古代PCに新たな指令を打ち込む。ギルドの動向、研究開発、交易のパターン、そして人材の動き――あらゆる情報を解析し、未来を再計算する作業が始まる。光と影が交錯する室内で、王は冷静に、しかし確実に一手一手を読んでいた。


この瞬間、王の心には一つの覚悟が芽生えていた。

「国家は安定している。しかし、未知の力は常に存在する。警戒を怠れば、平穏は一瞬で崩れる」


玉座の間に再び静寂が訪れる。夜の空気は重く、しかし透明で、すべてを包み込むかのようだった。街の灯りが遠くで揺れ、人々の生活が静かに続く。だが、陽光の瞳の奥には、未来の微細な歪みと、影の囁きが確かに刻まれていた。


古代PCの画面は静かに光り続ける。国家の安定度は確かに向上した。しかし、その裏で、商人ギルドはまだ王の掌握を逃れる何かを保持している――その事実は、国家とギルドの間に新たな緊張を生む予兆であった。


王は深く息を吐き、椅子に座り直した。その顔には、冷静な思考と未来を読む者の微かな笑みが交錯していた。影の囁きは、国家の計画に小さな亀裂を作るかもしれない。しかし、陽光は知っていた――すべてを掌握することはできなくても、未知の脅威をも計算の中に取り込むことこそ、王の真の力であることを。



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