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第20章 商人ギルドとの裏協定


第20章 商人ギルドとの裏協定


夜。王宮の玉座の間は、昼間の喧騒を嘲るかのように静まり返っていた。月明かりが高い天井のステンドグラスを通して床に淡く散り、古びた石の冷たさを際立たせる。王は玉座に座り、額にわずかな皺を寄せながら、来るべき危機の布石を静かに考えていた。


「来たか」


低く、しかし命令の色を帯びた声に応じて、扉の向こうで控えていたスパイ頭領がゆっくりと歩みを進める。黒革の装束は夜闇に溶け込み、足音はほとんど聞こえない。だが王の目は細かな動きも見逃さなかった。


「お呼びでしょうか、陛下」


頭領は深く一礼する。玉座の間には、王の補佐官も側に控えていたが、その視線は緊張に満ちていた。王は補佐官に軽く目を向けると、静かにうなずき、再び頭領に視線を戻す。


「商人ギルドは、成長を続けている」王の声は低く、しかし重みがある。「かつては我が国の経済を支える存在であったが、今やその規模は国家を凌ぐほどになった。ギルドの富が国家を凌駕すれば、権力は金に取って代わられる」


頭領はその言葉に静かに頷いた。王の目には冷たい光が宿っていた。単なる経済政策の話ではない。国家の存亡に関わる深い策略の始まりである。


「完全に潰すこともできるが、それは経済の死を意味する」王はゆっくりと手を組み、玉座の肘掛けに体重を預けた。「ならば、どうするか――」


一瞬の沈黙の後、王は声を潜める。「半独立を許しつつも、我が国の鎖で縛るのだ。表面上は自由、だが裏では完全に掌握する。そう、裏協定という形でな」


頭領の心臓は一瞬高鳴った。この提案は単なる取引ではない。国家の安全と経済の均衡、双方を保つための危険な策である。だが、彼は決して恐怖を顔に出さず、ただ深く頭を下げた。


「裏協定、承知しました」


その瞬間、王は微かに微笑んだ。計画はすでに半分、成功したも同然であった。頭領は王の指示に従い、ギルドの代表たちに接触する日を待つ。表向きは友好的な商取引、裏では国家の目と手が常に届く契約を結ぶのだ。


夜はさらに深まり、玉座の間に静寂が戻る。だがその静けさの中で、王の脳裏には数々のシナリオが巡っていた。ギルドの長たちはどの道を選ぶか。従う者もいれば、裏切る者もいるだろう。しかし、すべては王の掌の上に置かれるべき駒である。


翌日、頭領は秘密裏に行動を開始した。まずは情報網の整備だ。ギルドの商人たちの動向、支配層の利害、隠された借金や取引の記録を洗いざらい調べる。小さな不正も見逃さず、脅しや甘言に使える情報として蓄える。王の意図は明確だ。ギルドの自由を許しつつも、決して国家の上に立たせない。そのための鎖は目に見えぬものでなければならない。


数週間の調査の後、頭領は第一の接触を果たす。夜、灯の少ない路地で、ギルドの影の長が待っていた。互いに警戒の目を向けつつも、言葉は慎重に選ばれる。表面上の会話は貿易や税制の話だが、双方が真意を察する目配せがそこにある。裏協定への第一歩は、こうして静かに、しかし確実に進んでいた。


王は玉座に戻り、静かに策の成否を見守る。国家と経済の間に引かれた微妙な均衡、その上に築かれる裏協定。成功すれば王権はさらに強固となるが、失敗すれば国家そのものが揺らぐ危険もある。それでも王は迷わなかった。危険の中にこそ、王の真価は問われるのだ。


夜が明け、城下町に朝の光が差し込む頃、王の計略は次の段階へと移る。商人ギルドとの取引は、表の顔と裏の顔を巧みに使い分ける必要がある。自由を装いながらも、巧妙に縛られる。国家の未来をかけた、この危うくも鮮やかな策略は、まだ序章に過ぎなかった。


玉座の間に残るのは静寂と、王の冷静な決意だけである。裏協定は、王の布石であり、国家の命運を握る小さな歯車。誰も知らない夜の陰で、国家の大河はゆっくりと動き始めた。




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