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「大司祭との駆け引き」



会議後の王宮は、一見静寂を取り戻したかのように見えた。だが、玉座の背後では見えない緊張が張り巡らされている。王の即位を疑い、第一王子の幽閉を不当と感じる者たちの動向は依然として陰湿であり、王宮内の権力均衡は微妙に揺れていた。そんな空気の中、王室礼拝堂に静かな足音が響いた。


重厚な扉をくぐり抜け、厳かな雰囲気の中で一人の人物が王に近づいてくる。その人物は王国最高位の宗教者、大司祭であった。長い白衣をたなびかせ、玉座から少し離れた場所で立ち止まると、低く、しかし明瞭な声で言葉を発した。


「陛下、神々は血筋を重んじます。正統な継承を無視すれば、信仰を揺るがすことになりますぞ」


その声には忠誠心と敬意の色があるが、同時に微かな牽制が含まれていた。大司祭にとって、王位継承は単なる政治問題ではなく、信仰と国家秩序の問題である。第一王子こそが血筋の正統性を持ち、神々の意志に沿う王であると信じたい。しかし今、玉座に座るのは第三王子、前世の記憶を持つ覚醒者であり、血筋だけでは語れない力を示している。


陽光は静かに礼拝堂の中央に立ち、手を軽く組みながら大司祭を見つめた。その表情は穏やかだが、目の奥には冷徹な光が宿る。声を落とし、しかし確実に重みをもたせて答える。


「では神に問おう。愚者に国を託せと、本当に仰るか?」


その問いは、単なる反論ではない。王としての論理と信念を兼ね備えた挑発であり、宗教的権威を持つ大司祭の心に直接働きかける言葉だった。血筋と正統性を重視する宗教的立場と、国家の安全と民の幸福を最優先する合理的立場──二つの価値観の衝突を、陽光は巧みに表現したのだ。


大司祭は目を細め、しばらく沈黙したまま玉座の上の王を見つめる。その視線には疑念と警戒、そして計算が入り混じっていた。彼は即答せず、陽光の意図を慎重に見極めようとしている。王がどこまで自らの権威と合理性を駆使するか、そして神に従うべき信仰者としての立場をどう折り合いをつけるか──その駆け引きが、二人の間で静かに交わされていた。


やがて、大司祭はゆっくりと口を開く。「……陛下のお言葉、確かに神前で聞き届けましょう」


その言葉には、一種の曖昧さがあった。表面的には王の言葉を神に伝えると宣言しているが、内心ではまだ完全に服従していないことを示している。つまり「様子を見よう」という意味も含まれ、王に対する牽制でもある。陽光にとって、これは完全な勝利ではない。だが、公開討議で老臣を制した後でのこの微妙な優位は、王としての権威をさらに強化する材料となった。


陽光は微笑を浮かべながら、内心で冷静に分析する。大司祭の曖昧な言葉は、彼の権威と影響力がまだ完全に掌握できていないことを示している。ここで焦って圧力をかけると、宗教界との関係が悪化しかねない。しかし、この微妙な均衡を利用すれば、大司祭の力を逆に王の支配の補助として取り込むことも可能だ。


「わかりました。神々に問うことは賢明です」

陽光は柔らかく言葉を添え、重みを和らげながらも確実に主導権を握る姿勢を示す。大司祭はわずかに息を吐き、表情を整えるが、その瞳には慎重さと警戒心が残る。


二人の間には沈黙が戻るが、その沈黙は緊張感と同時に計算の時間でもあった。王としての陽光は、宗教的権威と政治的実務を天秤にかけ、最小の摩擦で最大の権力掌握を目指す。大司祭とのこの駆け引きは、王宮内での力の配分を見極める重要な試金石であり、今後の政策や内政改革にも深く影響する。


礼拝堂を出る大司祭の背中を見送りながら、陽光は小さく微笑む。表向きには「神前での承認」を約束させたことで、一歩前進した。しかし心の中では、次にどのように宗教界の影響力を制御し、内政改革を円滑に進めるかを冷静に計算していた。


王宮内にはまだ、不満分子の影がちらつく。老臣たちは公開討議で従ったが、内部での結束はまだ揺らぎ、宗教界も完全には掌握されていない。だが、陽光にはすでに情報網があり、分身スパイを通じて重臣や司祭の動きを把握できる。王としての権威と合理性を武器に、次の一手を打つ準備は整っていたのである。


こうして、大司祭との駆け引きは表向きには穏やかに終わったが、王宮内の力関係は微妙に動いた。陽光は冷静な微笑の裏で、宗教界の牽制を力に変えるべく、戦略を練り続けていた。王としての真価は、権威を示すだけでなく、微細な心理戦と駆け引きを制することで初めて発揮される。


王室礼拝堂を後にする陽光の背中には、鋭い自信が宿っていた。これから始まる内政改革や王宮内の権力掌握において、大司祭との駆け引きは最初の試練に過ぎず、王としての試練はさらに深く、そして広がっていくのだ。


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