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ラノベ世界の桃太郎に転生したのかもしれん

9月14日、文学フリマ大阪13に出店します。

サークル名…未完系。

ブース…えー51



「あっ、やべ、座標ズレた」

 そんな声が聞こえて、俺の意識は覚醒した。


 なんだここ、暗くて狭い…しかもなんか…運ばれている?

 試しに両手足を伸ばしてみるが、すぐに柔らかいものに押し返されてしまう。

 狭くて暗くて暖かくて柔らかい…なんだこの最上級のベッドみたいなところ。

 車の中でまどろんでいるような丁度良い振動が心地よくて、俺はまた、意識を手放してしまった。



「選択の巫女よ、そなたが選んだのがこの果実であるというのだな」

「はい、女王陛下」

 先ほどとは違い、くぐもった声が聞こえてくる。二人の女性が話しているようだ。

「よろしい、ならば中を改めるがいい」

 感じる浮遊感。そして少しの間があって、まぶしい光が差し込んだ。


 暗闇から急に光が目に突き刺さり、俺は思わず泣き叫んだ。

「女王陛下! 中になにかおります!」

「これは…赤子です!! 男の赤子が中に!」

「なんという…選択の巫女よ、モモーの果実より子が産まれたぞ、これをどう解くか」

「もうしわけありません女王陛下、私めはただ神の意志を選び取るだけの者、読み解くことはできませぬ」

「そうであったな。ならば巫女よ、そなたのもとに赤子を預ける。そなたの選択の行く末を、その目でしかと見届けるがよい」

「はっ」

 まあそんな会話がされていたわけだが、俺は暖かくて暗くて静かなところからいきなり寒くて明るくて賑やかな所に放り出されたので、ひたすら叫んでおりました。なんなの?




 と、そんなことがあってから五年ほど。

 俺は立派な少年に成長しました。事情も大体わかってきた。


 女王陛下が治めるこの国では、「選択の巫女」という職がある。巫女は天界に連なるという川に時折ながれてくる果実や花のなかから一つを選び、女王陛下に届ける。女王陛下はそれをみて今後の運勢を占ったりする。

 俺を拾ったばあちゃんは、長年「選択の巫女」をやっていて、たまたま拾った実である「モモー」の中から俺が出てきたので、女王陛下の命令で育てることになったと。

「ばあさま、チャロ、今帰ったぞ」

「ああ、おかえりなさいじいさま」

「やれやれ、今日も山は死体でいっぱいだ」

「埋葬お疲れさまでした」

 今帰ってきたのがじいさま。山の管理人をしているのだが、最近は魔物たちがこの国にやってくるようになり、山の中は殺された人や動物でいっぱいだという事だ。


 なるほどなるほど。

 おばあさんは川で選択を、おじいさんは山で死ばかり、と…。


 いやそれどんな桃太郎!?


 しかも俺はモモーの実から出てきた男の子、ということで「モモー・チャロ」と呼ばれている。チャロっていうのはこの国で一番よくある男の名前だそうだ。

 いやもうまんま桃太郎じゃん!?ナニコレ異世界転生ってやつなのか!?


 そんなツッコミを入れたくもなる毎日だったが、下手に活動したら鬼退治に行くことになりそうだし、何にも知らない無垢な赤子としておとなしく過ごすことにした。幸いにもじいさまとばあさまは平民の中では裕福な方だったし、なによりとてもいい人たちだったので、俺は異様な生まれにも関わらず穏やかな日々を送っていた。


 強制力が働いたのは、俺が16になった時の事だ。

 いつもの通り仕事から帰ってきたばあさまが、こんな話をした。

「チャロ、今日は不思議なことがあったんですよ。勿論、お前を拾った日以上のことはありませんでしたけれどね」

 それは良かった。今度は竹からかぐや姫でも出てきたのかと思ったよ。

「今日はキヴィの実が流れ着いてので、それを女王陛下の元に持って行ったのですけれどもね、中には美しく輝く宝珠が三つも入っていたのですよ。女王陛下には三人の娘がおられるでしょう? 宝珠は娘たちの事を指すのか、それとも年々激しさを増す魔物たちに一矢報いることができるという導きなのかと悩んでおられたわ」

 ふーんそっかあなるほどねえ。キヴィの実から出てきた三つの宝珠ね。宝珠ってあれね、まんまるでおだんごみたいなやつね。なるほどね、お腰に付けたキヴィ団子か…。


 やっぱり桃太郎じゃねえか!

 俺か!?

 俺が行くの!?キヴィ団子もって鬼退治に!?


 正直自信はなかったけれど、魔物たちがいつ襲ってくるかわからない、そんな毎日に嫌気がさしていたのも事実。

「ばあさま、俺、女王陛下に会えるかな」

 もし俺が本当に桃太郎なら、鬼退治に行っても死なねえだろ!

 俺はばあさまの伝手で、女王陛下に謁見できるよう手筈を整えた。


「久しいのモモー・チャロ。して、話があると言うがなにか?」

「単刀直入に申し上げます女王陛下。俺にキヴィの宝珠を授けてもらえませんか?」

「ほう?」

 女王陛下の眉がぴくりと動く。俺は構わず話し続けた。

「キヴィの宝珠をお授けいただければ、必ずやウォーニガアイランドの魔物たちを退治してまいります」

 女王陛下はしばらく考えていたが、やがてゆっくりと口を開いた。

「其方もキヴィの宝珠も、天界からの流れ者…。いいだろう、受け取るがよい」


 こうして俺が、キヴィの宝珠を腰にぶら下げ、単身、ウォーニガアイランドへと向かった。


 途中の森には、狼たちが棲んでいる。

 この森の狼は人語を理解すると言われ、人々は決して立ち入ろうとはしなかった。

「普通の犬じゃ魔物に勝てねえだろ」と判断した俺は、狼がイヌ科であることを信じて森へ向かった。


「森を支配する蒼き狼たちよ、よく聞くがいい。我が名はモモー・チャロ。そしてこれは天より授かり師キヴィの宝珠。この宝珠を手にしたものが、すべての同胞を支配する長となるだろう。誰か欲しいものはいないか」

 いくつもの唸り声が聞こえる。俺は動揺を押し隠して叫ぶ。

「手にしたければ俺と共に来い、ウォーニガアイランドの魔物を倒すのだ」

 うおおおおおおおーーーんと遠吠えのような声が幾重にも聞こえる。やがて何匹かの屈強な狼たちが、俺のもとに集まった。


 途中の深い谷底には、巨大な怪鳥たちが棲んでいる。

 怪鳥たちはその爪であらゆるものを引き割くと伝えらえ、人々は決して谷に入ろうとはしなかった。

「普通のキジじゃ魔物に勝てねえだろ」と判断した俺は、怪鳥もキジも鳥の仲間であることを信じて谷へ向かった。


「空を支配する紅き鳳たちよ、よく聞くがいい。我が名はモモー・チャロ。そしてこれは天より授かり師キヴィの宝珠。この宝珠を手にしたものが、すべての同胞を支配する長となるだろう。誰か欲しいものはいないか」

 ばっさばっさと大きな羽音と共に暴風が巻き起こる。俺は動揺を押し隠して叫ぶ。

「手にしたければ俺と共に来い、ウォーニガアイランドの魔物を倒すのだ」

 暴風は静かに収まり、ギラギラとした爪と嘴、それから瞳を持った鳳が数羽、目の前に現れた。


 途中の山には、ゴリラたちが棲んでいる。

 この山のゴリラはデカいうえに知恵も使うとあって、人々は決して立ち入ろうとはしなかった。

「普通のサルじゃ魔物に勝てねえだろ」と判断した俺は、ゴリラもサルも似たようなもんだろと山へ向かった。


「山を支配する白き猿王たちよ、よく聞くがいい。我が名はモモー・チャロ。そしてこれは天より授かり師キヴィの宝珠。この宝珠を手にしたものが、すべての同胞を支配する長となるだろう。誰か欲しいものはいないか」

 ドドドドドドドドと聞こえる音は威嚇だろう。胸を叩くときの手はグーじゃなくてパーって本当だったんだな。俺は動揺を押し隠して叫ぶ。

「手にしたければ俺と共に来い、ウォーニガアイランドの魔物を倒すのだ」

 地鳴りのようなドラミングが鳴り響く。やがて何匹かの屈強なゴリラたちが、俺のもとに集まった。




 こうして、モモー・チャロは青狼、赤鳳、白猿王を仲間にして、ウォーニガアイランドに魔物胎児に出かけました。

 彼らは力を合わせて魔物たちを退治し、国に平和が戻りました。

 女王陛下は大層喜んで、二番目の娘をモモー・チャロの妻として与えました。

 選択の巫女は多額の報酬を与えらえ、山からは死体が消え、皆いつまでも幸せに暮らしましたとさ。



 っていう感じに本にもしてもらって、かわいいお姫様も嫁に来てくれて、俺の異世界転生はハッピーエンドに向かいそうです。

 めでたしめでたし。


女神「魔物たちが暴れるのに人間たち慣れてきちゃったなーツマンネ。今度はキヴィに宝物でも入れてみるかあ。一個じゃインパクト足りないから三つくらい?なんか事件起こるかなー楽しみ…えっなに、あっ昔私が座標間違えてモモーに入っちゃった子じゃん、えっ何この展開胸アツなんだけどー推せる推せるー加護あげちゃうー!」

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