第7話:「ダンジョン総動員──雷鳴公子の迎撃作戦」
# 第7話:「ダンジョン総動員──雷鳴公子の迎撃作戦」
ダンジョンコア暴走事件から数日後──
雷鳴公子ダンジョン全層に、再び緊急アラートが響き渡った。
「マスター、偵察班から報告です!
地上から未知勢力の軍隊、約3万──
“雷鳴公子ダンジョン制圧”を宣言しています!」
アリスの報告に、馬場義則は目を細めた。
「来やがったか……“異端の成功例”を潰しに来る既得権益どもが」
無課税経済圏。名誉報酬主義。自由エレベーター。
雷鳴公子ダンジョンの仕組みは、既存国家の利権を破壊する“異物”だった。
「だったら、迎え撃つだけだ。“全層総動員迎撃作戦”を発令する!」
義則が静かに一礼する──その瞬間、全層の士気が爆発的に上がった。
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【作戦フェーズ1:2層・農業層「食糧兵站封鎖作戦」】
「外部軍の食料供給路、こちらで全て封鎖します!」
農業層の農夫たちは“腐らず保存できる干し野菜”と“発酵保存食”を使い、
外部軍の兵站ルートを逆封鎖する。
「包囲された連中が飢えるのを待つんじゃねぇ。
“こっちの食料を買いに来る”まで追い込むんだ!」
彼らの農業技術は、侵攻軍の補給部隊すら取り込んでしまう。
“現場の現物支配”が、静かに包囲網を完成させていった。
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【作戦フェーズ2:5層・科学層「無血制圧サイバーフェーズ」】
「マスター、敵指揮系統に“名誉プロファイル”を流し込みます」
5層の科学者たちは、敵軍指揮官の評判スコアに
“ダンジョンを攻撃すると名誉ポイントが下がる”処理を仕掛けた。
「金で動く傭兵には効かねぇが、“名誉を誇りにする軍人”には効くぞ」
ダンジョンの名誉システムが、敵軍の精神的支柱をじわじわと侵食していく。
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【作戦フェーズ3:6層・ダンジョン街「情報攪乱・宣伝戦」】
「ダフ屋潰しの時にやった情報拡散戦術、今度は敵軍相手だ!」
商人たちは、敵軍の情報網に“デマ”と“真実”を混ぜ込んだ超高速情報戦を展開。
「このダンジョンを攻撃すれば、“無課税経済圏”の恩恵が消えるぞ!」
「雷鳴公子は占領軍にも“自由経済権”を約束するらしい!」
「攻撃に加担した者は、次の選挙で“利権独占派”として名指しされる!」
情報が錯綜し、敵軍内部に疑心暗鬼が広がっていく。
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【作戦フェーズ4:8層・軍事層「雷鳴迎撃陣形」】
「マスター! 精鋭1万、即応体制完了!」
真田砕心率いる8層精鋭部隊は、エレベーター制圧ルートに“低姿勢ダッシュ迎撃陣形”を展開。
彼らの戦術は、“敵が踏み込むその瞬間”に制圧ラインを敷くという異様な速さを誇った。
「“武力衝突”はしない。だが、“礼”で心を折る。
これが雷鳴公子軍の迎撃スタイルだ!」
──エレベーターに一歩でも踏み込めば、そこには低姿勢で深々と礼をする兵士たち。
“戦う意思すら折る”無言の迎撃陣形が完成した。
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【作戦フェーズ5:マスター権限「雷鳴公子、演説モード」】
最後に義則が選んだのは、“戦わずして勝つ”究極の営業手法──
ダンジョン全層を繋ぐ“マスター演説”だった。
「全軍、全兵士に通信を繋げ──“俺の声”を直接届けろ」
──義則の演説が、敵味方を問わず、全戦場に響き渡る。
「俺は、戦争を望まない。
だが、“現場を潰しに来る奴”には、俺たちの“現場力”で返す」
「俺はかつて、食えない営業マンだった。
自分の首を絞めるような納期に追われ、寿命を削って現場に立っていた」
「だが今は違う。俺は“お辞儀”で戦えるようになった。
現場で、誇りを持って働けるようになった」
「このダンジョンに来れば、誰もが誇りを持って仕事ができる。
──だから、戦わずに来い。
戦いたいなら、“仕事”で戦え!」
静寂──
そして、侵攻軍の一部が静かに武器を置いた。
*
──数時間後。
外部侵攻軍は、戦闘行為を放棄し、
“雷鳴公子ダンジョン経済圏”への合流という形で降伏した。
ダンジョン街は無傷。
軍事層は武力を使わずに勝利し、
農業層は兵站支配で侵攻軍の胃袋を掌握。
科学層は名誉システムで敵軍の指揮系統を崩壊させた。
義則は全層の仲間たちに向き直り、深々と礼をした。
「これが“現場力”で戦うダンジョンだ。
……ありがとう、皆」
“ではない”、誇り高き勝者の礼として。
*
「マスター、次は“ダンジョン経済圏の国際連盟統一案”が舞い込んでいます」
アリスの報告に、義則は微笑む。
「なら、次は“世界交渉”の現場だな。
──“現場叩き上げの外交”ってやつを、見せてやろうか」
雷鳴公子ダンジョン、次なる舞台は“異世界全土”──
現場主義の拡張戦が、始まる。
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