プロローグ:「封印の男」
プロローグ:「封印の男」
馬場義則、47歳。
ペットフードの営業マンとして昼間は頭を下げ、夜はコンビニの店長として頭を下げ続けた男。
「は最強の武器」と信じて疑わず、顧客にも上司にも膝を折り続けた結果、膝と腰はボロボロになり、寿命すら削っていた。
──そして、ある雨の日。
深夜帰り道、トラックのクラクションを聞いた瞬間、本能でまた頭を下げてしまった。
「お辞儀すれば許してもらえる……って違うだろがぁ!」
次に目を覚ましたとき、彼は異世界の地下、巨大な玉座に座っていた。
「雷鳴公子ダンジョンマスター、馬場義則殿。貴殿には“ダンジョンマスター技能”を与える」
そう告げるのは、煌めく雷光の女神──いや、ただの管理AIにすぎなかった。
「ダンジョン……完成してるだと……?」
地上にまで続く9層構造の地下要塞。
ゴブリンとスライムのうごめく“1層”を皮切りに、農業・酪農・教育・研究・インフラ維持・軍事──国家そのものを地下で完結させた“雷鳴公子ダンジョン”。
「……引き継ぎよろしくな、馬場くん。
転生特典?そんなもん無いよ。はもう封印しとけ」
それだけ言い残して、女神(AI)は去っていった。
「……いや、待て。これ引き継ぎってレベルじゃねぇだろがぁ!」
彼のダンマス人生が、突如として始まったのだった。
冒険者ギルドでの初登場シーン
馬場義則は、冒険者ギルドのカウンターで静かに頭を下げた。
「冒険者登録をお願いしたいんですが。ダンジョンマスター兼業で」
受付嬢の目が点になる。
「だ、ダンジョンマスター兼業……!?あなた、どこの領主様ですか?」
「いや、俺んとこはダンジョンだから領地じゃないんだよね。
でも“雷鳴公子ダンジョン”のマスターは俺だ。完成品だけどな」
義則はダンジョン許可証カードを静かに差し出す。
──その瞬間、ギルド全体に静電気が走った。
「雷鳴公子……!あの伝説のダンジョンを、あんたが……!?」
「いやいや、そんなたいそうなモンじゃないよ。
俺はただのペットフード営業マンだ。
まぁ、今日からは“冒険者・ダンマス馬場義則”だけどな」
は封印した。
これからは、ダンジョンの「礼」として、正しくお辞儀する男として。
「さあ、雷鳴公子ダンジョンへの冒険者募集も始めるぜ!」
義則の第二の人生が、ついに始動する──。