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「マジでー!? 一方通行かよ!」

「ま、魔導士がいればわかるはずなんだけれど」

「魔導士はたぶんいない」

 魔導士のコスプレイヤーならいるかもしれない。


「……なんか、アレだな。ラノベの世界だな」

「……そうだね」

 リチャードが泣きそうだ。どうしよう。ペンちゃんもキューキュー言ってる。


「ほ、ほ、ほら! ペンちゃんもいることだし、探してみよう? ケムシ公園の十字路になにかヒントが隠されているかもしれないし」

「そ、そうだぞっ。脱出ゲーム的ななにかがあるかもしれないぞ」

「そそそうだよ。それにせっかく来たんだもん、ゆっくりしていけば? ほら、ゲームもあるし」

 リンはコントローラーを出してみせる。

「た、楽しいよ? みんなでやろう? あしたから夏休みだし、は、花火とかさ。あっ、海まで徒歩20分で行けるんだよ。海水浴しよう?」


「……海。見たことない」

 リチャードはすっかりうなだれてしまったが、海というワードにわずかに反応した。

「行ってみよう! ちょっと暑いけど。そしてちょっと砂でごそごそになるけど、楽しいから! ビーサンと帽子、貸してあげる! 貝殻見つけたり。ね!」

「……貝殻」

「そうそう! 桜貝とかたまに落ちてるんだよ。ピンクできれいなの。見つけに行こう!」

「……うん、ありがとう」

「今時期なら海の家もあるし、焼きそばとかかき氷とか。食べたことある? 焼きそば」

 リチャードは静かに首を振った。

「だっ、だっ、だよね。食べよう。そんなにおいしいわけじゃないけど」

「おい! まずいものをお勧めするな」

「だって、夏の風物詩だし」

「まあ、そうだな。季節限定で味わっておくのもいいかもな」


 がちゃっと玄関が開いた。

「あっ、ママが帰ってきた」

 午後7時。いつの間にか、そんな時間になっていた。


「まま?」

 リチャードは新たな人物の登場に、身を強ばらせた。

「うちのおかあさん」

「母君がお帰りなのか」

 母君って。そんなお殿さまみたいに……。あ、王子さまか。

「ただのおかあさんだよ。だいじょうぶ、こわくないから」


「ただいまー。お友だち? りっぱな靴ねぇ」

 リビングのドアを開けてママが入ってきた。そしてリチャードを見ると、ぎくりと止まった。

「ハ、ハロー?」

 なぜ、疑問形。


「日本語話せるから」

 リンが言うと、ママは「あらやだ」と笑った。

「緊張しちゃったじゃない、やあねぇ。で、どちらさま?」

 リチャードは立ち上がると胸に手を当ててお辞儀をした。

 「あちら」のお辞儀ってこうなんだな。西洋風だ。


「ぼくはリチャード=グリーンヒルズです」

 さすが王子さま。お辞儀も優雅だ。

「あらまあ、リチャードさん。リンとレンの母です。よろしくね」

 ママも胸に手を当ててお辞儀をした。なぜ。ふつうでいいのに。


「レンのお友だち?」

 ……………………。

「えーっとね。リチャードはフォックスホール王国の王子さまで、空から降って来たんだよ」

「へえーっ。空から。飛行機から落ちちゃったのかしら、ケガしなかった?」

 なぜ、同じことを言う。


「…………え? 王子さまなの?」

 ママはちょっとズレる。

「異世界から来たんだぜー」

 そして、レンはなぜ自慢そうなのだ。

「そう、異世界から。王子さまが。遠いところたいへんだったわねぇ」

 そんな軽いノリか。


「晩ごはん食べていく? 野菜炒めなんだけど、王子さまは野菜炒め食べるかしら。とんかつもあるのよ。今日安かったから」

 じゃーん。と言いながら、ママはとんかつのパックを突きつけるように見せた。

「一枚多く買ってきてよかったわぁ」

 なぜ一枚多く買ったのか。たぶん理由なんてない。なんとなく。そんなところ。聞くだけ無駄。

 ママはそんな人だ。


 スーパーでパートをしているママである。食卓にお惣菜がならぶことはしょっちゅうだ。天ぷらとか唐揚げとか餃子とか。

 しかも思い付きで買ってくるから、バランスなんか考えない。シチューと餃子、カレーと天ぷら、生姜焼きととんかつ。

 アンバランスもいいとこ。


「なんかねー、リチャード帰り方がわかんないんだって」

「あら、たいへんじゃない。羽田から飛行機出てないのかしら。成田の方かしらね。羽田だと近くていいんだけど」

 そもそも飛行機じゃなかったし。


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