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それはドラゴンじゃなくて龍だな。しかも青いヤツだ。これは白い。
「じゃあ、魔法学校の上空を飛んでるやつだ」
それは、合っているかもしれないが、ちょっと違う気もする。
「ふつうのドラゴンじゃないんだよね」
「ふつうじゃないドラゴンて、どんなドラゴンだ」
「ああ、ペンドラゴンはぼくの使い魔です」
「使い魔ってなに?」
そうだ、さっきリンはうっかり聞き流してしまったのだ。いろいろと情報が多くて処理しきれていない。
「魔法使いが契約して使役する動物や精霊のことだよ。ドラゴンは魔獣だね」
魔法使いに精霊に魔獣。……………………? レンはしばらく動かなかった。たぶん頭の中で、円がくるくるしている。
「そうか」
レンはいろいろとすっ飛ばすことにした。無理無理。理解不能。
「で、なまえが?」
「ペンドラゴン」
「カッコいいな!」
「うん!」
リチャードはすっごくいい笑顔で笑った。使い魔でも褒められるとうれしいらしい。ペンドラゴンもキュキュッと鳴いた。
「よろしくな、ペン」
ニックネームが決まった。ペンちゃんもキュッと鳴いた。納得したらしい。
「そんで、リチャードはフォ、なんとか王国からどうやって来たんだ?」
「それがね、上から降って来たんだよ」
リンが答えた。
「なんだ、飛行機から落ちちゃったのか? ケガしなくてよかったな!」
そんなわけあるか。
「ケムシ公園の十字路のところで。空中に穴が開いてそこから出てきたの」
「魔法陣を踏んでしまったんだよ。巧妙に隠してあったから、気が付かなかったんだ。たぶん罠にはまったんだ」
罠に魔法陣……。
「……そのう、フォなんとか王国ってどこにあるのかな? そこではみんな魔法が使えるの?」
レンが急に論理的になった。
「フォックスホール王国。東の大陸の中央にあるんだ。魔法は使えるものと使えない者は半々くらいかな。特に魔力が強いものは、魔導士として訓練をして魔法院に所属するんだよ」
「あー、あれだ。ハリーポッターみたいなことだ」
レンは、うんうんとひとりうなずいた。ちょっと違うとリンは思う。
だいたい、東の大陸ってどこから見ての東なんだ。日本から見た東の大陸はアメリカだが、アメリカから見た東はユーラシアだ。
名前が英語だから、ユーラシアで合っているのか。ヨーロッパのどこかに、超マイナーな王国があるんだろうか。魔法が使える。
???
「異世界ってやつじゃない?」
「そっちかー」
どっちか。
「あのー」
リチャードがおそるおそる聞いてきた。
「ここはなんていう国ですか?」
……はっきり言ってしまおう。そのほうがいい。リンは思った。レンもちょっとだけ神妙な顔をした。
「ここは日本です」
「……にほん。聞いたことがない」
でしょうね。
「たぶん、リチャードのいた国とは違う世界だよ」
「違う世界?」
聞き返したリチャードはひどく心細そうだ。そんな顔をしないでほしい。こっちもつらくなる。
「うん。だってここには、魔法がないもの」
リチャードはしばらくだまっていた。それから、話し始めた。
「うん、そんな気がしたんだ。だってなにもかもが違いすぎる。こんな建物見たことがないし、あんなに硬くて平らな道路も見たことがない。馬がいないのに走る箱なんてぼくは知らない。
これでも外国のことは知っているんだよ。王太子だからね。たくさん勉強した。砂漠の国も大きな島国も年中雪と氷に覆われた国のことも。でもここには見たことも聞いたこともないものばっかりだ。もしかしたら、そうかなってちょっと思っていたんだ。
……そうか。ぼくは異世界に飛ばされてしまったのか」
愕然としたリチャードに、なんてことばをかければいいのかわからない。
「……飛ばされた?」
どうやって? リンは首を傾げた。リンが見たのは、空中の穴から吐き出されるように飛び出してきたリチャードだ。
「どういう仕組み?」
聞いたらリチャードは首を横に振ってだまってしまった。
「よくわからないんだ」