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「ぼくの使い魔なんだけど、ぼくがうまく魔法が使えないから、まだ成獣になれないんだ」
リチャードが手を伸ばすと、肩から降りてくる。胴体が10センチ、しっぽが10センチの合計20センチくらい。ちょうど前腕に乗るくらい。
言われてみれば、ちょっと幼い顔をしている気もする。あんまり爬虫類のいかつさがない。顔も丸いし、カパッと開いた口には小さい歯がならんでいるけれど、噛みつかれる感じがしない。
くりっとした金色の目は口のすぐ上にあって、両端に離れている。それで、首を傾げたりするから、妙に人懐っこくて愛嬌がある。
ウーパールーパーっぽい。でもよく見れば、うっすらと透明なうろこに覆われている。
「ペンドラゴンっていうんだ」
名前がカッコよい。
いやいや。そうじゃなくて。
「まほー?」
「うん、魔力自体は強いんだけれど、どうも使い方が下手らしい」
「……へえ」
キャパオーバーだ。リンは考えるのをやめた。うん、そのほうがいいな。無理やり納得させた。
ペンドラゴンはリチャードのガリガリ君を狙ってちょろちょろしている。
「おなか空いてるのかな?」
「ああ、そうかもしれない……」
ドラゴンってなに食べるんだろう。リンは立って冷蔵庫を開けた。
卵、牛乳、ヨーグルト。ハムにチーズにソーセージ。
玉ねぎがダメなのは犬だったかな。
ああ、これでいいか。手に取ったのはちくわ。犬も猫も人間もみんな大好きちくわ。
「きみにはちくわをあげよう」
鼻先に突き付けたら、すこしだけふんふんと匂いを嗅いでから、ぱくっと食いついた。もぐもぐと口を動かし呑み込むと、またぱくっとひとくち。
なんかかわいい。休むことなくあっという間に一本ぺろり。
気に入ってくれてよかった。
「……ちく……わ?」
リチャードは不思議そうに見ていた。西洋風の王子さまにはなじみのないたべものだろう。
「魚のすり身を焼いたヤツだよ」
「魚? なぜこんな筒のようになるのだ?」
「たぶん、棒に巻きつけて焼くんだと思う」
そのへんはリンもあやふやだが。
「……棒。どうして棒に巻きつけるのだ?」
あまりツッコまれると困るのだ。
「……火が通りやすいように、かな」
「火」
どうかもう勘弁してください。わたしはちくわ屋さんじゃないので、くわしいことは知りません。
そう思ったときだった。
がちゃっと玄関が開く音がした。リチャードがびくっとした。
よかった。助かった。
「お兄が帰ってきた」
「おにい?」
「兄です」
「ただいまー」と言いながらリビングのドアを開けたレンは、その場で固まった。
リチャードは立ち上がって、レンが動き出すのを待っている。しばらく時間の止まったリビングだったが。
「お兄」
「……どちらさまで」
リンとレンが同時に口を開いた。
「リチャードだよ」
「へえ。どちらのリチャードさん?」
「あー、ええっとナントカ王国?」
「フォックスホール王国です」
リチャードは胸に右手を当てて軽くお辞儀をした。左手にはガリガリ君。
「ふぉ」
「フォックスホール王国です。ぼくは王太子のリチャード=グリーンヒルズです」
「おーたいし」
レンはバカになったのか。オウム返しを繰り返す。
「兄のレンです」
先に進まないので、リンが紹介してやった。
「レン殿。どうぞよろしく」
「いやいや。殿はいらないよ」
「では、レンと呼んでも?」
「はい、どうぞ」
「ではぼくのこともリチャードと呼んでください」
「お、おお。リチャード」
「はい」
「よろしく」
「こちらこそ、よろしくおねがいします」
あっさり、まとまってよかった。
「おれもガリガリ君食べようっと」
3人で各々すわってガリガリ君を食べる。ちくわが忘れ去られてよかった。
「で、リチャード。肩に乗っかってんのはトカゲ?」
やっぱり気になるらしい。
「いや、ドラゴンだよ。まだ幼獣だけれど」
「……ドラゴンていうと、あのドラゴンか?」
どのドラゴンだ。
「7つの球を集めると出てくるという……」