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 じっとしていよう。見つからないように。テレビも消した。

 べつにこそこそする必要はないのだが、リチャードはソファの上にちんまりとすわって、やり過ごすことにした。


 ピンポーン。

 もう一回鳴った。

 リチャードはますます小さく縮こまった。

 しーん。

「行ったかな?」

 リチャードがほっと息を吐いたとき。


 がちゃがちゃっ。

 ドアノブを回す音がした。

「えっ!?」

 誰か帰って来たんだろうか。


 外で誰かがなにかしゃべっている。はっきりは聞こえないが、男だ。パパでもレンでもない。


 賊か!

 リチャードはそーっと音をたてないように立ち上がった。それからリビングのドアを開けて、身を隠すように壁際に立ち様子をうかがう。


 かちゃ。

 鍵が開いた。

「誰もいないな?」

「ああ、留守だ」

 やはり知らない男たちの声だ。

「お前は二階へ行け。おれはリビングを探す」

「オッケー」


 ……クマよけスプレー、玄関に置いてちゃダメじゃない? 取りに行けないよ?

 リチャードはとりあえずの武器としてリモコンを逆手に握りしめた。


 ひとりは二階へ上がっていく。もうひとりがリビングへ向かって歩いてくる。

 足音からして侵入者はふたり。外にも見張りがいるのかもしれないが、当面の敵はこちらに向かってくる賊Aだ。

 できれば騒がれないうちに始末したい。


 武器はなんだろう。こちらはほぼ丸腰だ。慎重に行かないと。

 たまに廊下がミシッときしむ。十分に引き付けて……。

 賊Aがリビングに一歩踏み入れたそのとき。


 リチャードは賊Aの後頭部にリモコンを振り下ろした。

 ガンッ!

 賊Aは声を発する間もなくひざから崩れ落ちた。

「あれ?」

 リチャードは思わず声を上げた。あまりにも呆気ない。おとり? おとりかな?

 いちおうナイフは持っているけれど。ナイフって言うか包丁だな。ママがキッチンで使っているヤツだ。

 ……武器でもないな。

 っていうか、全身黒づくめで暑くないのか? 悪目立ちすると思うのだが。


 なんだ、こいつら。ほんとうに賊か?

 あれれー?

「おい! どうした!?」

 倒れる音を聞きつけて、二階から賊Bが降りてくる。

 リチャードは床に転がっている賊Aをまたぎ、階段へと向かった。


 リチャードだっていちおう戦える。剣も格闘もそこそこできるのだ。自分を守るためでもあるし、人を守るためでもある。

 魔物討伐に行ったことだってある。

 だから余計に相手の手ごたえのなさに、驚いた。

 だって他人の家に忍び込むのに、ロクな武器も持たず、戦闘態勢すらできていないなんて。素人にしてもひどすぎる。


 ちょうど階段の登り口で、二階から降りた来た賊Bと鉢合わせした。こっちも黒づくめだ。

「うわっ!?」

 賊Bはひどく驚いた。

「うわあーっ!」

 持っていた包丁をめちゃくちゃに振り回す。リチャードが怯んだ次の瞬間には、玄関に向かって走り出していた。


 おいおい、仲間は見捨てるのか。

 リチャードはすかさず賊Bの襟首をつかんだ

「うわあっ! はなせっ!」

 リチャードは後ろから包丁を持った右手をつかむ。賊Bはめちゃくちゃ暴れるくせに、まるっきり力がない。

 つかんだ右手をくいっとひねったら「痛えっ」と叫んで、呆気なく包丁を落としてしまった。


 なんだ、こいつら。

「全部で何人だ」

 リチャードは聞いた。だが、賊Bはわあわあと喚くばかりで、ロクに答えやしない。


 仕方がないのでそのまま玄関を開けて、賊Bを外に蹴りだした。

 ぽーん。どすっ。

 外にはもうひとり賊Cが立っていたのだ。ふたりは正面からぶつかって、ともに倒れた。

「避けることもできないのか」

 リチャードは呆れたように言った。


「いってぇ」

 半身を起こした賊Cの、あごに思いっきりけりを入れると門から道路に転がり出て「うーん」と唸ったきり、動かなくなってしまった。

「車に轢かれるよ」

 たしか、リンは昨日そう言った。

倒れていた賊Bは、あわあわと四つん這いで逃げ出そうとする。


「ちょっと待て」

 リチャードは賊Bの首根っこを捕まえた。

「どこの手のものだ」

「は? 知らねえ知らねえ。ただのバイトだ」

「ばいと?」

 どうしよう。また知らないことばが出てきたぞ。

 リンが帰ってくるまで留め置いた方がいいのか?


 ばたばたと足音がしたと思ったら、リビングで倒した賊Aが正気を取り戻して出てきた足音だった。


「うわっ、うわっ」

 捕まっている仲間を見てさらにあわてふためく。そしてあろうことか、仲間を見捨てて自分だけ逃げようとした。


「あっ! てめえだけ逃げんじゃねえよ!」

 賊Bが喚く。

「うるせえ! 捕まるやつが悪いんだ!」




「やだあ! あんたたち、なにしてんの!?」

 向かいの家から出てきたおばあさんが叫んだ。ちんまりと小さくて丸顔で、目がぐりぐりと大きくて、鼻がとっても平面的なおばあさん。


 パグばあ。リンはひそかにそう呼んでいる。


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