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約束だけは叶えられますように。

作者: ヨスガ


 有能すぎた息子、つまり俺を、王は疎んじた。

 何度も戦場に送られて、何度も暗殺されかけて。

 だから俺はもうただただ疲れていた。


 ドラゴンを討伐せよと、何の悪さもしていない山の王を討てと。

 それは生きて戻るなとの命だ。

 俺はいつも通り恭しく頭を下げて拝命し、命知らずの何名かの部下だけをつれて山へ向かった。


『何用だ人間』

「ここで退屈してはいませんか、山の王」

『ん?』

「我が国にいらっしゃいませんか。人の国でしたら知らない事が沢山あるでしょう。暇をつぶせますよ」


 背後から部下たちの殿下連呼が聞こえるが綺麗に無視して眼前の巨体をただただ見つめた。


『なるほど。で、お前に何の得がある』

「得でございますか」

『見返りは何を望む』


 何年生きているのかは知らないが、賢い竜だ。けれど今俺は自棄になっているだけだ。特段何を考えてこう言っているわけでもない。

 だからふと、思いついたままを口に乗せた。


「私の子を産んで頂けませんか」

『ほ?』

「我ら王家に尊きドラゴンの血が混ざる、これほど喜ばしい事がありましょうか」


 また背後から殿下連呼が聞こえるがどうでもいい。にこりと微笑んでドラゴンを口説く事に専念する。


「ヒトのかたちをとって頂ければ美味なる物も食べ放題ですよ。ヒト型でしたら観劇などにもお供出来ます。珍しい書物も綺麗な宝石も。貴方が望む全てを捧げましょう」


 そんな物に興味があるのならば、だけれど。

 竜は考え込んでいるようだ。背後の部下に今のうちに逃げろと指示を出すべきだろうか。


『お前のそれに嘘が見えんな』

「本心ですから」

『ふむ。いいだろう』


 そう言うとドラゴンはぱっと光輝き――次いで、少女の姿になった。

 全裸の。


「ふむ。雌になるのは初めてなんだがこんなものか?」

「ああ、失礼しました男性だったんですか」

「いや?我に性別は無い。仔を成した事も無いが作れん事も無い」

「……では?」

「うむ。お前の求婚に応えてやろう!」


 うははは、と豪快にわらうドラゴン――全裸の少女にマントをかけてやりつつ、背後を振り返れば部下が泡を吹いていた。



 それから。

 月の物の重さにげっそりするドラゴンを見てはじめて女性は大変なんだと知ったり、ドラゴンなのに卵生ではなくちゃんと営みから人の子を成してくれようとしている彼女を尊敬してみたり、屈託なく笑ったり感動したりする彼女から目が離せなくなってみたり。


「うおーやっと生まれたなあ」

「お疲れ様でした。ありがとうございます」

「なかなかできんしどうなるかと思ったわい」

「いやでも、貴方そんなに体小さいですし」

「我ドラゴンだぞ?なりが小さかろうが関係ないぞ?」

「それでも抱いた感触壊してしまいそうで毎回怖かったんですよ」

「ンンン、融通のきかん奴だな!我とてこの体型なのはお前の好みに合わせてだな」

「えっ私別に幼児体型が好みなわけでは」

「だが熟れた女を恐れているだろう」


 継母の事だろうか。父王と共に俺を疎みあの手この手で殺そうとして来た、あの女の。


「……貴方が貴方であるなら、みかけは何でもいいですよ」

「そうか?まあ、今更変えるのも面倒だしこれで良いだろう」


 そう言って彼女は子に微笑みかけている。ああ。これで本当に家族が出来た気がする。

 俺だけの、大切な。


「さてでは、そろそろ本格的に王位を狙いますか」

「ん、どうしたどうした物騒だな」

「いえ、今のままでは私だけではなく子まで狙われる事でしょうから」

「まあ手っ取り早いといえばそうだが、べつにこの子とお前くらい我のちからで守ってやるぞ?」

「妻と子を守るのは夫の役目なんですよ。どうかやらせてください」

「そういうものか。わかった、守られてやろう」


 恐れ入ります、と愛しの伴侶にそう告げて、信頼できる部下をひっそり呼び出した。


 そうして。ありがたいことに俺は王位につき子にも恵まれ幸せな一生を送ったのだった。


「なんだ未だ迷っているのか」

「だって天に登ってしまったら貴方に会えないじゃないですか」

「さっさと生まれ変わればいいだろうに」

「だって生まれ変わったら貴方を忘れてしまうじゃないですか」

「この馬鹿。どれだけ我に執着しているんだ」

「だって愛しているんですよ。それに貴方が山に帰ってしまうかもしれないし」

「帰らん帰らん」

「え?」

「我にせっかく子が出来たんだ。家族と離れてなんとする」

「ではこれからもずっと私たちの傍に?」

「ああ。まあカタチは変わるかもしれんが、我はずっとここに居る」

「ああ良かった。じゃあ私さくっと生まれ変わって来るのでまた一緒になってくださいね」

「ンンン??急だな?」

「だって家族って言ってくれたじゃないですか。私もまた貴方の家族になりたいんです」

「ははは。わかった任せろ。お前がどんな姿だろうとまた見つけ出して我の伴侶としてやろう」

「約束ですよ」

「ああ。約束だ」


 そうして今度こそ俺の生は終わる。大事な人と大事な約束を交わして。

 どうか全てを忘れても、次の俺がこの約束だけは叶えられますように。


END

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