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ナフタリンの香り

作者: なと


どうして青い色は

孤独の色をしているのか

シュールレアリズムのお化けが

其処の柱時計にこっそり隠れている

軒の下に雨が隠れているように

闇人が人の魂を集めながら提灯をゆらゆら

あの言葉胸に刺さったまま

刻を重ねて仕舞いました

背中から飛び出した悲しさの小骨は

まだ光っているだろうか


春の夢は

蟲毒の香り

櫻の花びらを

魔法瓶に閉じ込めて

永遠に腐らないといい

妹は兄と禁断の関係になって

父親と母親の死体の眠る桜の木の下

里には老人ばかりが集まって

次の生贄を捧げる話し合い

狂っているんだ

なおよし

少年は

自我に目覚めて

櫻の美しさに気が付くだろう

櫻の季節







裸電球は夢を見るか

便器の中に地獄がある

糞便を食べる夢は吉兆とはいえない

海の生き物は夢を食べて光ってる

青空を泳ぐ隣のクラスの子

夏に取り憑かれて祈祷師の処へ連れて行かれる

宿場町は病人の住む処

木星の処を右に曲がるといつものバーがある

ちゃぶ台には過去に戻るスイッチがついている







孤独を拾って宿場町

秋刀魚泥棒の足跡を追っていたら

ぼっとん便所の壁を伝って

天井にまで足跡はついていた

首吊りが巷では流行っていて

台所の隅で

小鬼がお正月のするめを齧っていた

壊れかけの鉱石ラジオは

葬式の秘密を教えてくれなかった

彼岸花の秘密を知って

明日は三途の川へ連れて行かれる





昭和は息をしていないけど

博物館の中で蟲毒をまき散らしている




夏のトンネルの中は

ざわざわと風になびく木々の様

夏の空気を纏って懐かしいあの人に

逢える場所のように思える

自転車に乗ってあの坂道を

何処までも登って行こう

向日葵畑で見失った兄も

片っぽの靴を川に流してしまったあの子も

したたり落ちる汗のように

眩しい太陽を瞳に焼き付けて

幻夏を






土踏まずの裏には神様とか魔物とか

そういうものが棲んでそう






紫陽花は憂鬱な表情をして雨に打たれている

濡れてしまった煙草の端は

だいぶ前にゴミ箱の中で咳をしている

父いらずを昨日台所に仕掛けました

毒物をそっと鞄に隠しこんで

通り魔をいつまでも待ち構えてます

今、通り過ぎた人を急に神様だと思えて

空を見上げたら今でもB29が空襲してくる幻






魂が液体になるという夜は

稀に訪れる夜のさざ波の幻聴のように

静かな夜に針と糸を

掌に小さな小鳥を買おう

今年はもうすぐ終わりだから

玄関の前に飾ってあった

凶日は吉日なりという看板を

鈴の音が鳴りやまない蔵へ戻そう

父親のふんどしに故郷を感じる

忘れたと思っても

不意に思い出す経文のよう







夕暮れの町を歩こう

夢の中まではあの黒い影も追いかけてこれまい

お婆さんの皺を数えている内に

お湯が沸騰してしまった

天井の染みにあっぷっぷ

腕の皮の下に鱗がうっすら見えるから

今夜は灯台の処へ行って蛍烏賊を取ってこう

発光する躰は電波塔で工事しなければ

街角の転がっているマネキンは






朝焼けは

確かな生命の匂いがする

小さな鳥は朝焼けの中で

癒えない孤独を悟った

丁度顔を洗っていた私は

あっと迷路の出口の糸口を見つけたみたいに

メビウスの輪は下町の迷宮のまま

過去を忘れない旅人だけが彷徨うことができるのだ

それは狂った時計のように

時間に支配される前に

古町に逃げよう






夢うつつ

蔵の中の鈴の音が鳴りやまない

娘は紙を真っ黒に塗ってこれは神と云う

皆既日食に悪戯電話が止まずに

家が火事で跡形もなく

母親の首には絞められたような跡が

魚の鱗の様なものが腕に生えて

緑色の錆びが顔を覆いつくす

二階の開かずの部屋からうめき声

空が青ければ青いほど

透き通ってゆく







凍りそうな古町は考え込んでいる

どうしたら孤独の日々を終わらせられるか

旅人が小さな林檎をこれは地獄の色だというから

僕らは赤に呪われた世代

町は静かに魔物の様に僕らを

過去の世へと連れてゆく

其処には楽園があった

ダダイズムとシュルレアリズムが軒の下で

どっちが上かと喧嘩をしている






雨が降ってこれば遠くの人を想う

掌に折り鶴をのせて

これが私の命と言ってみる

かすかな故郷の灯が今日の私を生かす

誕生日に人魚の肉を知らない人から貰って

旅をする八百比丘尼とは私のことだ

古きを求め、どんどん過去へ戻るこの躰は

外法を求めて

仏壇から堕ちた僧侶のようだ

何時か罰を喰らう







秋の夕暮れは神社にお供えをしに行きたくなる

夕べの夢を転がした座敷の上には

友禅染の着物の匂いを嗅いでいる田山花袋

書斎には地蔵を抱え込んだ芥川龍之介の幽霊

明日は祭りだから大黒様を生贄にするんだ

鬼めはお風呂場で鼻歌を歌い

僕は洋服に張り付いた磯巾着を

なんとか海に戻そうとしている






つむじをじっと見つめている

闇人が部屋の隅に居る

蝸牛はこうすると死ぬんだよ

とひだまりに甲羅を転がして

宿場町の遊びは八百八町ほどある

煙管の煙をむずがる赤子に吹きかけて

大黒様が神棚の上で怒っている

母親のお腹を触りながら眠る夜

父親は軒の下に逃げてきた雨と

サイダーの瓶の事を相談だ






眠れる土地、宿場町

カキ氷を砕いた後に現れる瓦屋根

獏を抱いた夢人が恋しがる格子戸

恐怖新聞はあの家の郵便受けに入ったか?

エコエコアザラクは押し入れの中に

辛酉年生まれの娘の家の二階には

蛇の抜け殻が座敷の上にばら撒かれている

此処は古き風の吹く古町

不思議が彷徨っている







どうして青い色は

孤独の色をしているのか

シュールレアリズムのお化けが

其処の柱時計にこっそり隠れている

軒の下に雨が隠れているように

闇人が人の魂を集めながら提灯をゆらゆら

あの言葉胸に刺さったまま

刻を重ねて仕舞いました

背中から飛び出した悲しさの小骨は

まだ光っているだろうか







何故空は夢を見たりしないのか

孤独の指先をぽろっと落とした神社の泉

白蛇の美しい子供が戸棚に入ってゐる

拾うと歌舞伎の香りがした

何処までも続く道を潮が柔く覆ってゆく

電信柱の警官は月の化身

寂しい時に唄う曲がある

背中とお腹の間に骨は幾つあるでしょうか

ただ漠然と問いだけが増えてゆく





熱燗でも如何です

黄昏の空は髄膜の裏側

ナフタリンの香りのする着物を

ずっと黒い影が縁側で抱きしめている

そんなにいい匂いがしますか

芥子の花は何も知らないと煙草の灰を捨てる

夢うつつ

夕暮れ時は押し入れに隠れてゐようと思う

やがて夜になると怪人黒マントが

闇夜を跋扈する

宿場町の片隅にて















凍りそうな古町は考え込んでいる

どうしたら孤独の日々を終わらせられるか

旅人が小さな林檎をこれは地獄の色だというから

僕らは赤に呪われた世代

町は静かに魔物の様に僕らを

過去の世へと連れてゆく

其処には楽園があった

ダダイズムとシュルレアリズムが軒の下で

どっちが上かと喧嘩をしている


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