私は皐月
私の名前は工藤皐月。
父親が早くに亡くなり、母親と二人で生活してきた。
経済的に余裕はなかったけど女二人なんとか食べてきた。
あの時代女性には珍しく奨学金で四年大学に努力して入り教師になった。
結婚の話はあったけど、仕事をし続けたいと希望を言うと周囲があんな可愛げのない女はやめておけと結婚話は流れた。
結局独身を突き通した。
仕事ばかりではなく、趣味も色々と取り組んだ。
無我夢中で生きていたらあっという間に定年の歳になった。
小学校の教師としては今日が最後の現場。
今日、全ての引き継ぎが終わった。
これからどう生きようか。
色々なところからお誘いを受けている。
大半は私を慕って誘ってくれているが、一部はまた私を利用しようとする輩だ。
これまでの生き方に後悔はない。でも、この節目に一度この生活をリセットしたい。
質素に生きてきたから、当分の貯えは心配ない。
教師以外も色々資格もある。こんな初老のおばさん雇わないかもしれないけど。
でも、一度立ち止まり色々考えたい。
明日はお母さんの墓参りに行こう。それから考えよう。
「今日は疲れ過ぎたわ。歳を考えなきゃ。フラフラよ。」と皐月は笑った。
帰宅中歩道橋の階段を降りる時、どこからか声がして呼ばれている感覚がした。声の主を探そうと空をあおぐとバランスを崩し足を踏み外してしまった。
「きゃっ!」
視界がひっくり返る。もうだめだ。この高さから真っ逆さまだわ!
これは死ぬかもしれない。でも、私の人生悔いはないわ。お母さん待っててね…。
皐月は目を閉じた。