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上杉龍也シリーズ

作戦コード:夏祭り

作者: 夏川冬道

夏祭り! それは甘美な響きを持つ言葉である!いつもとは違うハレの日の気配に人々は熱狂する!


「お兄ちゃん、綿あめ買って~」

「ちょっと待ってろ……買ってやるから」

 上杉龍也は小学生の妹、美那の付き添いで夏祭りにやってきたのだ。兄としての責務を果たすべく甲斐甲斐しく妹のエスコートをする龍也は兄の鑑だ。上杉兄妹は人ごみをかき分け綿あめ屋台に向かった。

「いらっしゃい、お嬢ちゃん…何の柄にするんだい」

 綿あめ屋台の主人が美那に綿あめが何がいいか聞いてきた。

「え~っと、じゃああの『フェアリーナイトリリピュア』の奴がいい」

「じゃあ『フェアリーナイトリリピュア』の綿あめをください」

 フェアリーナイトリリピュアは女児向けアニメでちょっと背伸びしたいお年頃の子供にバカ受けするアニメだった。

 龍也はお金を綿あめ屋台の主人に渡し、フェアリーナイトリリピュアの柄が描かれた綿あめを美那に受け取らせた。

「美那、綿あめを落とさないようにな」

 龍也は美那に注意を促す。美那は「もうお兄ちゃんは子ども扱いしないで」と頬を膨らませた。

「デイジーベルのパフォーマンスの時間までまだあるな……たこ焼きと焼き鳥とトロピカルジュース、あとたい焼きを買いに行くか」

 デイジーベルは地域密着型ダンスチームである。龍也の知人がデイジーベルに所属していて祭りのステージに出演するから行くなら見に来いよと誘われたのだ。

「お兄ちゃん、そんなにいっぱい買って大丈夫なの」

「あぁ、二人で一緒に食べような」

 笑いながら龍也と美那は夏祭り会場を歩いていった。


◆◆◆◆◆◆


  夏祭りの屋台ゾーンから少し離れた河川敷公園。ここでは特設ステージが設営されてあり、地域有志のバンド演奏やダンスなどが催されていた。まばらながらも椅子とテーブルも設置しており、屋台ゾーンの喧騒から離れ、少し落ち着いた気分でステージを見られるようになっているのだ。その片隅で密かに密談をする影があった。

「副官のジョージよ…… 本当にこのお祭り会場に難波逸郎がやって来るというのか?」

 悪そうな男が副官ジョージに訝しげな表情を見せる。

「確かな情報筋によりますと、今夜確実にこのお祭り会場にやって来るとのことです。情報の裏も取れてあり、確実に難波逸郎はやってきます」

「そうか。難波逸郎がのこのことお祭り会場にやって来るのか……ここが難波逸郎の死に場所となることを知らずにな」

 悪そうな男はニタニタと見る者を背筋を凍らせるような笑みで笑った。

「えぇ、難波逸郎の祖先は罪のない漁民を虐殺して回った血も涙もない海賊……そんな穢れた難波家の血が流れている男を生かしておいてはおけませんね」

 副官ジョージは無表情に答えた。

「天におわす神様よ……我が神罰の剣の鋭さが増し、敵対者を速やかに地獄に送れますように。アーメン」

「アーメン」

 副官ジョージと悪そうな男に神に祈りをささげた。その姿を住民は遠巻きに見つめていた。この人たち何をやっているのだろうかと思いながら。


◆◆◆◆◆◆


さて上杉兄妹はたこ焼きとトロピカルジュース、焼き鳥などを買っていた。次はお好み焼きを買うためにお祭り会場を移動していた。デイジーベルのパフォーマンスの時間もあるので人込みをかき分けながら迅速に移動していた。とはいえまだ時間に若干の余裕がある。慌てて移動する必要はない。上杉龍也は少し前のヒット曲をハミングしながら美那をエスコートしていた。

「あっ、ここにいるのは上杉くんだ!」

 龍也を突如呼び止める声がした。振り向くとそこにはクラスメイトの錫川若菜が待っていた。若菜の両親がペン習字教室をやっていて文字がとてもきれいなことで評判のクラス名と出会った。

「こんばんは、錫川さん。ひょっとしてキミもデイジーベルのパフォーマンスを見に行くのかい?」

 龍也は当然の疑問を聞いてきた。あの先輩は大々的にデイジーベルのダンスパフォーマンスを夏祭りのステージでやることを宣伝したのだ。

「まぁ、そんなところだね。でもこんなところで会えるなんて奇遇だね」

「実は美那に夏祭りに連れて行ってくれとうるさくてね。両親が忙しいのでお目付け役やったわけなのさ」

 龍也はこれまでの経緯を説明した。

「いやぁ、お互い大変だね」

 そう言って若菜は笑った。

「美那ちゃん。こんばんは。龍也お兄ちゃんに何か買ってもらった?」

「フェアリーナイトリリピュアの綿あめを買ってもらったの」

「それはよかったね」

 若菜はこの年頃の子供の扱いがとてもうまかった。

「ねぇ、上杉くん。ここで会ったのは何かの縁だから一緒に河川敷公園まで歩かない?」

 そう若菜は笑顔で提案した。

「まぁ、ここに出会ったのも何かの縁だしな! そうしようか」

 龍也も断る理由もないので了承し。三人で河川敷公園に向かって歩いていったのであった。


◆◆◆◆◆


 河川敷公園のステージでは地域有志バンドの演奏がしめやかに行われており、それなりに盛り上がっていた。それを遠巻きに見つめている二人の男がいた。難波逸郎とそのボディガードの柏木武である。彼らはお忍びで夏祭り会場にやってきたのだ。

「デイジーベルのパフォーマンスはもうすぐか」

 厳粛な口調で武に確認する逸郎は普段の姿とは違うまるで岳父のような表情であった。

「えぇ、もうすぐ出番のようです。お孫さんの活躍が見られますよ」

 そう、和やかな会話をしながら武は周囲の警戒を怠らなかった。どこからか殺気が漏れているのだ。自然と警戒態勢に入っていた。

 逸郎と武は雑談をしながらデイジーベルのパフォーマンスの時間を潰しているとうっすらと邪悪な二つの影が近づいてきた。悪そうな男と副官ジョージである。難波逸郎暗殺の為に接近したのだ。武は逸郎に目くばせするとしめやかに河川敷公園の特設ステージ付近から離れた。一般客に危害に巻き込まれるの回避するためである。

 最終的に逸郎と武と暗殺を狙う悪そうな男と副官ジョージは河川敷公園内の人気のない場所にたどり着いた。

「キミたちは何者なのだ。その目的は? なんのために私を殺そうとする?」

 難波逸郎は毅然とした態度で邪悪な暗殺者に問いかけた。

「お前の血筋がいけないのだよ……お前は穢れた血を持つ悪魔崇拝者だ。神様の命によりお前に断罪の剣を与えに来た」

 悪そうな男はどこか狂気が見え隠れする口調で逸郎の暗殺を宣告しに来た。柏木武は逸郎をかばうように立ち上がる。

「ほう……やるのか。俺たちは強いぞ?」

 そう言うと悪そうな男がすっと剣を抜く。その剣は禍々しい光を放っていた。これでは防刃ジャケットも大して役に立たない。嗚呼、この世に血も涙も存在しないのか!


 次の瞬間! 突然閃光弾が投げ込まれた。敵味方関係なく目をつぶってしまう!

 閃光が収まるとそこには黒衣の剣士の姿があった。

「人にあだなす悪鬼羅刹よ……お天道様が許しても私が許さん!」

「お前が噂の退魔剣士か……我が力に宿る鬼の力を見せてやろう」

 悪そうな男は鬼の力を解放する。黒衣の退魔剣士と鬼の戦いが始まる!


◆◆◆◆◆


 上杉兄妹と錫川若菜は河川敷公園のテーブルで屋台ゾーンで買った品物をのんびりと食べていた。

「お兄ちゃん、焼き鳥、美味しいね」

「錫川さんが持ってきた、フライドオレオは凄いジャンクな味がする」

「デイジーベルのパフォーマンスの時間まではあと30分くらいだっけ……」

 デイジーベルのライブパフォーマンスまでの時間を思い思い過ごす三人。河川敷公園の向こう側の騒ぎはまるで気づいていないようだ。

「お兄ちゃん、喉が渇いたから飲み物買ってきてー」

「はいはい、錫川さん、ちょっと美那の様子を見てくれ」

 そういって龍也はドリンクを買うためにテーブルを離れた。ちょっと行って飲み物を買って戻ってくればちょうどデイジーベルのパフォーマンスに間に合うはずだ。夏祭りは妹のお守りで大変だが来たかいはあったなと龍也は思った。遠くの方では花火らしき音が小さく聞こえてきた。盛夏真っ盛りの夜は賑やかなパフォーマンスの音で盛り上がっていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 楽しい夏祭りの裏側では 小説一本できそうな因縁の戦いが…という対比が面白かったです。
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