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白馬の王子と黒馬(こくば)の王子  作者: あぷりこっと
王城事件編 第二章 ~書庫で~
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第二章 ~書庫で~

 仕事中にセイブル王子とバッタリ出会うアレク。そのまま、セイブル王子の仕事の手伝いとして、書庫に向かう。

だが、そこで、起きるのは!?


1.報告


 スパイとして潜入してから、もう一週間が経とうとしている。

 雇い主であるバルン王国の国王に、何でもいいから週一で連絡をしてくるように、と言われている。つまり、手紙を書かないといけない。国王と決めた暗号を使って書く。万が一に備えてだ。

 さ~って、何を書こうかな?

 私は机の上に用意した鉛筆を握り、机の上に広げた紙を見ながら、考える。

 う~んっと、まず書くべきなのは「潜入成功」それと、「国王陛下の体調はあまり良くない」ということ、そして・・・「フリッシュ王子は頭が悪い」・・・・・・。

 こんなもんかな?

 私は書き終えた暗号文を眺めた。



2.セイブル王子

「本当に大丈夫なの?」

 使用人全体のまとめ役─使用人頭が言う。ちなみに、使用人のほとんどが女性なのもあって、メイド長とも呼ばれているんだよ。

「はい、大丈夫です、メイド長。こう見えて私、力持ちなので。」

 まぁ、でも、メイド長が心配するのも無理はない。私は両手で、山積みにされた畳まれたタオルを抱えているのだから。その高さは、前があまり見えないくらい高い。

「でも、前が見てないでしょ?」

「大丈夫ですって。気配で大体の人の位置はわかります!」

「でも......。」

「行ってきま~す!!」

 私は心配してくれているメイド長には構わず、タオルを抱えて走り出す。

「あっ、ちょっと、アレクっ!」

 ごめんなさい、メイド長。

 私は心の中で呟いた。

 

 私の使用人としての仕事は主に、洗濯物を一部屋一部屋に届けていくこと。午前中で終わるくらい簡単な仕事ではあるけど、洗濯物を落とすわけにはいけない。案外難しかったりする。洗濯物を落としたときのメイド長の顔といったら......。

 そんなことを考えていると、すぐ横を二人の男性が通る。

トンッ

 その一人の男性が私にぶつかる。

 ヤバい、考えながら歩いてたから、相手が来るのを気づくのが遅れた......!

 私はそのままバランスを崩す。抱えていたタオルがふわっと宙に浮く。

 私はどうにか体勢を立て直すものの、手からタオルが何枚か逃れる。

 私は持っていたタオルの重心を右手へ移動させ、重心のない左手で、手から逃れたタオルを掴む。

 痛っ……。無理して取ろうとして左足に激痛が走る。だが、今は気にしている余裕はない。

 もう少し……!

 あと、一枚だけ掴むことが出来ない。私は必死に手を伸ばすが、ギリギリ届かない。

 そのまま下へ......。

 っと、思ったが、私の予想は外れ、誰かがタオルを掴んでくれる。そして、私の右手の上で山積みになったタオルの上に置いてくれる。

「あっ、ありがとうございます。」

 私は深々と頭を下げる。服からしていい身分の人だろうし、このまま立ち去られるまで顔を上げない方がいいだろう。

 そう思って、そのままの姿勢でいると、いつまで経っても立ち去ってくれないことに気づく。

 あれ? 私の経験上、ここは「次からは気を付けろよ。」的なことを言われるはずなのに。その言葉はいつまで経っても、来ない。

 その代わりに、頭上から意外な言葉が降ってきた。

「アレク・・・?」

 言葉っていうか、名前を呼ばれただけだ。

 だが、普通に考えて、高貴なお方が私の名前を知るはずがない。と、いうか、この声は......

「セイブル王子!?」

「そんなに驚くことか? ここは本城だぞ?」

「それはそうなのですが......。」

 予期せぬ人とぶつかったのだ。驚くのは当然だと思うんだけど......。

「セイブル殿下。」

 セイブル王子の隣を歩いていた男の人が、セイブル王子を呼ぶ。

「あぁ、そうだったな。私は書庫を調べてみる。ハクアは情報網を張っといてくれ。」

「かしこまりました。」

「下がって良い。」

 男の人(多分ハクアさん)は頭を下げ、副城の方へ帰って行く。

「アレク、それはなんだ?」

 セイブル王子が訝しげに言う。

「洗濯物です。各部屋に配って......。」

「それは知っている! 俺が訊いているのは、何故そんなに一人で運んでいるのか だ。下手したら怪我してたぞ。」

 声を荒げられたから何かと思ったけど、心配してくれてたんだ......。

「ごっ、ごめんなさい......。」

 正直、嬉しい。

「いや、俺は謝って欲しいわけじゃなくて......。まぁ、いい。俺も手伝う。」

「いえ、流石に手伝ってもらうわけには......。」

 王子だし。

「いいから。」

 セイブル王子が半ば強引に、私からタオルを半分以上も奪う。

「大丈夫です。自分で持てますから。」

「ダメだ。」

「でも、使用人として、王子にそんなことをしてもらうわけには...。」

 私が言った言葉を聞き、セイブル王子は溜息をつく。

「わかった。これが終わったら資料を運ぶのを手伝え。それでプラマイゼロってことで。」

 セイブル王子がぼそりと「ったく、素直に手伝わせてくれればいいのに。」っと、呟いたが、その言葉は私の耳には届かなかった。

「? 今何か言われましたか?」

「何でもない。」

 セイブル王子はスピードを少し上げる。

「セ、セイブル王子、待ってください!」



3.書庫


「これで仕事は終わりか?」

「はい。本当にありがとうございました。」

 本当に最後まで付き合わせちゃったよ......。

「はい、これ昼食。今度は俺に付き合ってもらうよ。」

 そう言いながら、セイブル王子はパンを一つ渡してくれる。どこから出てきたんだろう? もちろん美味しかったけど。

 

「え~っと、セイブル王子。なぜ馬が必要なのですか?」

 私はセイブル王子がわざわざ連れてきた、黒馬を見上げながら言う。

「そうだな。理由は3つ。

 1、書庫がそれなりに遠いから。

 2、荷物が多くなりそうだから。

 そして3つ目は......。」

 そうセイブル王子が言っていると、黒馬がセイブル王子の顔に自分の顔を近づける。

「俺がクロアに会いたかったからだ。」

 クロアというのは、この黒馬のことだろう。セイブル王子は自分の額とクロアの額をくっつけ、子供みたいに、楽しそうに笑う。どうやら3つ目が一番の理由のようだ。

「さて、そろそろ行くか。」

 セイブル王子がクロアのたてがみを優しく撫でながら言う。

「行くぞ、アレク。」

 セイブル王子がクロアの背に乗り、私に手を差し伸べてくる。

「はい!」

 私は笑顔でそう言い、セイブル王子の手を掴んだ。

 

 馬の足は本当に速いもので。あっという間に書庫に着いた。

「クロア、少し待っていてくれ。」

 セイブル王子はクロアから降りてそう言い、書庫の方に向かって行く。

 私もクロアから降りる。

「痛っ......。」

 左足に激痛が走る。タオルを取るときに痛めたやつだろう。よろけるが、クロアが支えてくれ、転ばずに済む。

「ありがとう、クロア。」

 クロアがどこか心配そうに見つめてくるが、笑顔で返し、書庫へ向かった。

 書庫の中は何と言うか......。書庫と言うだけあって、書物が沢山ある。5つの大きな本棚にギッシリ詰まっている。

「凄いですね。」

「そうだな。まぁ、この中の5分の1はフリッシュの詩だったりするがな。」

 この中の5分の1...ってことは、この大きな本棚一つ分!? フリッシュ王子、いくら何でも書きすぎじゃ......。

 ん?

 紙やインクの匂いに紛れ、他の匂いを感じる。これは......、油!?

「まさか!!」

 私は後ろにあるドアに手を伸ばす。

ガチャガチャ

 鍵が閉まっている。

 最後に入ったのは私だが、鍵を閉めた記憶はない。つまり......。

「アレク、どうした?」

「セイブル王子......、その、落ち着いて聞いてください。実は......ですね、閉じ込められました......。」

「あぁ、なるほど。」

「いや、驚いてくださいよ。」

「お前が驚くなって言ったんだろ? ここはほとんどが木造だし、今は冬だから、下手したら凍え死ぬな。」

「びっくりするほど、とても冷静ですね......。

 でも、どうやら犯人の目的は凍死ではないようです。」

「っと言うと?」

「犯人は恐らく、炎により私たちを焼き殺すつもりです!!」

「なっ!?」

 おっ、初めてセイブル王子が驚いた。

 私がセイブル王子の反応を少し喜んでいるとき、外から書庫の一番奥に火を点けられた。 

 驚きつつも、冷静さを保っているセイブル王子は、ドアの外に向かって叫ぶ。

「クロア、いるかクロア!!」

 すると、クロアは一鳴きし、自分の存在を知らせる。

「よかった、お前は無事だな......。

 お前はフリッシュ達を呼んでこい!」

「ヒヒィーン!」

 クロアは返事をし、蹄の音をさせながら走って行く。

「これで一安心......ですか?」

「んなわけないだろ。」

 ですよね。

 何しろ、すぐに助けが来るとは限らない。

 自力で出る必要がある。

「アレク、そこを退いてくれ。」

「? はい。」

 私はドアの前から退く。

 すると、セイブル王子が思いっきりドアにその体をぶつける。

 ドアを破ろうとしているのだろう。

 セイブル王子はそれを2回、3回と続ける。

 メシッという音はしたものの、壊れる気配はない。

「アレク、手伝ってくれ。同時にすれば破れるかもしれない。」

「......ごめん、なさい......。を私には......無理です。」

「? なぜだ?」

「その、左足を痛めていて、立つだけでもキツいんです......。」

 無理したせいか、動かすのもままならない。

「まさか、俺とぶつかったせいで?」

「正しくは、タオルを掴もうとしたせいです。」

「歩けなくなるまで無理してたのか?」

「うっ......。」

 返す言葉がない。

 セイブル王子が溜息をつく。

「わかった。他に手は思いつくか?」

「そうですね......。」

 私はドアを見る。

 注目したのはドアの鍵。この書庫は外と中の両方に鍵穴があるため、ここにももちろんある。

 ......、もしかしたら、出来るかもしれない。

「1つだけ、思いつきました。」

「それは、鍵を開けるのですよ。」

 その時、私の額から汗がツーっと、滴った。

 

 意気込んだのはいいものの、なぜこうなる......。

 私は自分の髪に着いていたヘアピンを使い、鍵をこじ開けていた。

 そして、セイブル王子は、私の後ろに立ち、私を挟んでドアに手をついている。

 私を守るため......と、言ってくださったのは嬉しかったが、王子にこんなことをさせていいのだろうか?

 っというか、少し荒れている息が私の髪にかかって、なかなか集中できない。

「どうだ? 出来そうか?」

 耳元で囁くかのように言われ、心臓が跳ね上がる。

 「今、探っているところです。」

 集中出来ないのもそうだが、城の鍵と言うだけあって、複雑でなかなか開けられない。

 一刻も早く脱出しないといけないのに......。

 すると

ガラガラガラ・・・

 っと、何かが崩れ落ちる音が耳に入る。

 そして、少し遅れて

「くっ......。」

 という、セイブル王子の声が聞こえてくる。

「セイブル王子!?」

「だ、大丈夫だ。それよりもお前は、そっちに集中しろ......。」

 どっからどう考えても大丈夫そうな感じはしないんですけど!?

 心の中でツッコミを入れていると、やっと鍵の構造がわかる。

「セイブル王子、もう少しで終わります。」

ガチャ

 待ち望んでいた音が聞こえるとすぐ、ドアを開ける。

 ドアという支えがなくなったセイブル王子は、そのまま力なく倒れる。

「!?」

 つまり、私の上に倒れてきたのだ。

 私の耳元で行われるセイブル王子の呼吸は荒く、とても苦しそうだ。

 私は、セイブル王子の腕を自分の肩に掛け、どうにか書庫から脱出する。

 少し遅れて

ガラガラガラ・・・・・・

 っと、書庫が崩れていく。

 少しでも脱出が遅れていたら......、考えたくもない。

 私は気持ちを切り替え、上着を脱ぎ、近くの池で濡らす。軽く絞り、セイブル王子の上着を脱がしてから、その背中に当てる。

 直接背中にした方がいいかもするが、素人がして悪化させるかもしれない。

 本当は流水や氷で冷やしたいが、それがないため、これは応急処置でしかない。早く診てもらわないと。

「セイブル、アレク。無事か?!」

 少し遠くからフリッシュ王子と少数の兵(?)がそれぞれの馬に乗り、彼らを先導するようにクロアが走ってくる。

「ケホケホ......、フリッシュ王子......。」

 喉の痛みを感じ、咳き込む。

 一気にくる安心感と、疲れにより、体の力が抜け、その場に倒れる。

 あれ? おかしいな。体が動かない......。

 私はそのまま意識を失った......。



4.治療室長


 待って、ここどこ?

 私が目を覚ましてまず思ったのはこれだ。

 多分、私じゃなくても絶対こう思うと思う。

 私はベッドに寝かされ、その隣のベッドに、セイブル王子が寝ている。

 しかも、私のベッドの脇で、自分の両手を枕代わりにして頭をのせ、寝落ちたであろうフリッシュ王子がいる。下半身は、ベッドにのっていないものの、これはフリッシュ王子と同じベッドで寝たと言えなくもない......。

「あっ、お目覚めですか? お嬢さん。」

「わっ?!」

 いきなり声を掛けられて、跳ね上がる。

「痛っ......。」

 左足首に激痛が走る。

「あぁ、ダメですよ。

 捻挫して、かなり腫れてるんですから。

 まったく......、セイブル王子といい、貴方といい、無理しすぎです。」

 ......普通に私と話しているこの人は、一体誰なんだろう?

 どう考えても、18の私よりも若い。この男の子は誰?

「え~っと、あなたは......?」

「あ、まだ自己紹介をしてませんでしたね。

 自分はヒルナ。

 この治療室の室長をしてます。歳は15です。」

「じゅ、15?! 若くないですか!?」

「セイブル王子に気に入られまして......。」

「お、お前の腕は確かだったからな......。」

 この声は......

「セイブル王子!?」

「あぁ、世話を掛けたな、ヒルナ。」

「いえ、これは自分の仕事ですので。それと、セイブル王子の方は比較的重症なので、くれぐれも無理をしたいようにしてくださいよ。」

「わかった......。悪い、もう少し寝る......。」

「永眠はやめてくださいね。」

 ヒルナさんが冗談を言うと、セイブル王子は軽く笑みを浮かべ、眠りに落ちる。

「あ、お嬢さんも、安静にしててくださいね。

 足もそうですが、煙をかなり吸っておられるので、喉を痛められています。話しすぎると、声が出なくなりますよ。

 あと、言葉を崩して貰えませんか? 自分の方が年下ですし。」

「了解。」

 確かに、声が少し掠れている。

 あっ、そういえば

「あの、私の机の上に、家族への手紙が置いてあるの。郵便屋に持ってってくれるかな?

 定期的に送ってるから、心配させたくなくて......。」

「そうですね~。自分は忙しいですから、フリッシュ王子にでも頼んでおきますよ。」

「いや、王子をパシリに使うのは......。」

 一体、ヒルナはセイブル王子とフリッシュ王子とはどういう仲なんだろうか......?

 

 私とセイブル王子は、一ヶ月後に完治し、各々の仕事に戻った。

 どうも、こんにちは。

 新キャラを頑張って登場させたあぷりこっとです。

 今回、アレクの年齢もさらりとバレましたが、いかがでしたでしょうか? 

 本当に、自分でもびっくりするほど、「さらりと」でしたね(笑)

 では、ついでにフリッシュ王子とセイブル王子の年齢を紹介したいと思います。

 え~っと、フリッシュ王子は22歳、セイブル王子は19歳です。

 意外と、アレクと歳が近いですね。これは実は今後の展開にも関連する……かもしれないので、心に留めて頂くと幸いです。

 ここで、簡単な次回予告。今度は誘拐されます!


 ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

 次回もお楽しみに!


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