第一章 ~2人の王子と1人の女スパイ~
白い馬に乗った王子様が・・・。っていう感じで、女の子が話しているのを聞いたことがあるだろうか......?
私は、そんな夢物語、あるわけないと思っていた。
この仕事をするまでは......。
1.任務
私の住む国のバルン王国と、その隣国のトライヤン王国は、昔から敵対関係にあった。
そして10年前、戦争が起きた。
結果はトライヤン王国の勝利─。トライヤン王国からバルン王国に、賠償金などの要求はなかったものの、戦争を始めた王様たちにとっては、屈辱でしかなかっただろう。
そして今年に入ってから、トライヤン王国の国王は体調を崩してしまったらしい。トライヤン王国で「次期国王を誰にするか」と言う話が出るほど、良くないとも聞く。
「つまり、今がチャンスって訳。
貴女にはトライヤン王城への潜入を頼みたいの。頼んだわよ、アレク。」
「御意。」
アレクシス・ベネット─。これが私の名前。
これが私のスパイとしての、最初の任務
2.2人の王子
そしてここはトライヤン王国。
私は無事、王城の使用人として雇われたのでした!!
まずは使用人としての仕事を全うしないと。「アレク、これを頼める?」
「わかりました。」
っとは言ったものの......。まさか、王子たちの部屋のすぐ近くの部屋にお使いを頼まれるとは思わなかったな~。良いのか、悪いのか......。
「フリッシュ、どういうつもりだ。」
20代ぐらいの男の人2人が話をしている。
私はとっさに近くの柱に隠れる。いや、普通に使用人の仕事をしてるだけだから、隠れなくても良いんだけどね...?
そう思いつつ、柱の後ろから話している2人を見る。
さっき「フリッシュ」と呼ばれていた男の人は透き通るような綺麗な白銀の髪をしていた。爽やかで、親しみやすそうなイケメン。多分、この人はフリッシュ・トライヤン─トライヤン王国の第1王子で間違いないだろう。
もう1人、フリッシュ王子を呼び捨てで呼んでいたのは誰だ?
その男の人は、フリッシュ王子とは対照的で、真っ黒な髪で、イケメンではあるが強面だ。
フリッシュ王子を呼び捨てできる身分......つまり、第1王子より上の身分という可能性が高い。だけど、第1王子以上となると国王陛下......いや、今は体調を崩しているらしいし......。
っというか、フリッシュ王子と同じぐらい若いのだから、国王陛下ではないだろう。
いや、もう1人いる。
身分は上ではないが、比較的フリッシュ王子と身分が近い王子─つまり第2王子が。
え~っと、名前は......
「そう怒るなよ、セイブル。」
セイブル王子が言う。
それを聞いた瞬間、ここまで出かかっていたものが何かわかり、つい
「そうか、セイブル王子だ!!」
と叫んでしまう。
ハッとしたときには時すでに遅し。
「誰だ。」
セイブル王子が、静かに言う。
私はビクッと体を震わせた。
そして私は柱の後ろから出て、姿を現す。
「も、申し訳ございません。王子の名を叫ぶなど、とんだご無礼を......。ほ、本当にごめんなさい。」
あぁ、ダメだ。声が震えてる。これはこれで無礼に値するのでは......。
「顔を上げろ。」
うっ......。まさか、首を斬るとかじゃ......。
「早く上げろ!」
「はっ、はい。」
声が裏返りそうになる。
私はビクビクしながら、顔を上げる。
するとセイブル王子が、私の目の前に手をもってくる。
まさか、たたく気じゃ......。
私は目をつぶる。
すると、私の目元に何かが当たり、涙を拭ってくれる。
私はそっと目を開く。
どうやら、セイブル王子がその手で私の涙を拭ってくれていたようだ。
「セイブル...王子......?」
「わっ、悪かったな。怖がらせて。」
「いえ、大丈夫です。元後言えば私が悪いので。」
セイブル王子は、軽くため息をつく。
「あのな~。自分の名前を呼ばれたくらいで、怒ったりするかよ。
俺がそんな風に見えるのか?」
「いえ、そういう訳では......。」
いや、見えなくはないかも。
「ごめんね~。コイツ、不器用なんだよ。
無愛想だけど、一応良い奴だから許してやって。」
フリッシュ王子が言う。
普通にディスってません?
「そういえば君、見ない顔だね。」
「そうなのか? 女好きのお前が知らない女もいるんだな。」
「セイブル、その言い方はやめてくれる?
それにわからないよ。もしかしたらこの子、スパ」
もちろんここで言葉は終わっていない。
だが、私はここであえて止めたのだ。
もしこの後が「イ」だった場合、私がスパイだとバレていることになる。ヤバいかも......。
「ー使用人かもしれないじゃないか。」
私は目が点になる。
つまりフリッシュ王子は「スーパー」と言ったのだ。
スとパの間に「ー」が入っていたことを、私は動揺しすぎて気づけなかったらしい。
「いえ、私はそれほど出来るわけでは......。」
「そうだぞ。俺の名前を叫んで泣くぐらい抜けてるんだ。それはないだろ。
っというか、普通に考えて新入りだろ。違うか?」
「いえ、当たってます。昨日からここで働かせていただいているんです。」
「あぁ、そうなんだ。」
フリッシュ王子も納得したように頷く。
どこかガッカリして見えるのは気のせいかな?
「そうだ、名前を教えてくれる?」
フリッシュ王子が、笑顔で言う。
「はい。私はアレクシス・ベネット。アレクとお呼びになってくださって結構です。」
ここは本名を名乗るべきだろう。その名で使用人として雇われてるし。
「アレク......ね。
知ってるだろうけど、ボクは第1王子のフリッシュ・トライヤン。よろしくね。」
「俺は第2王子のセイブル・トライヤン。よろしくな、アレク。」
「はい、よろしくお願いします。」
私も笑顔で返す。
「にしてもアレク、グレーの綺麗な髪だね。
触ってもいい?」
「......? 構いませんが。」
とりあえず私は、王子2人と接点を持つことに成功した。
3.国王陛下の体調不良
翌日─。
フリッシュ王子とセイブル王子、それと政治の中心とも言えるお偉いさんたちが、会議室に入って行った。
この城は渡り廊下を挟んで2つに分かれている。王族やそれに直接仕える人が住む「本城」と、政治の中心として国を支配している人が住む「副城」である。(ちなみに私は本城に住み込みで働いている。)
今日は会議があり、会議室は本城にあるため、あまり本城に来ない副城の方々が、本城に来られている。
だから人通りも多い。
今日は何回、頭を下げたっけ......。
私は今、頼まれた荷物を両手に抱え、運んでいる。
見た目は重そうだけど、案外軽い。それとも私が力持ちなだけ?
会議室の前を通る。
まだ会議は終わって......あっ、終わったみたい。
重たそうなドアを開け、人が出てくる。
私は足を止め、頭を下げる。
出てくる人の数もだんだん減ってくる。
そろそろ頭を上げようかと思ったその時、
「あっ、アレクじゃないか。」
声を掛けられる。
この声は......。
「フリッシュ王子。会議、お疲れ様です。」
「ありがと。セイブルにも言ってやって。多分ボクより疲れてる。」
そう言って、中を見るように言われる。
私は言われた通り、中を見る。
会議室の中は思っていた以上に広い。読者の方にわかりやすく言うと、学校の体育館ぐらいの面積はあるだろうってぐらい広い。あれだけの人数、余裕で集まれるのも納得できる。
そして、一番奥に、書類を整理しているセイブル王子が座っている。
「あの、セイブル王子、お疲れ様です。」
「あぁ、アレクか。ありがとう。」
そう言うと、また書類に目を向ける。
「えっと、フリッシュ王子は手伝わなくてよろしいのですか?」
「うん、ボクが手伝うと邪魔になるってさ。」
そういえばフリッシュ王子は、あまり頭が良くなかったんだっけ?
逆にセイブル王子は頭が良い。
だから第1王子であるフリッシュ王子を次期国王にするか、それとも第2王子であるセイブル王子を次期国王にするか、意見が分かれてるって話。今回はその話し合いだったのだろうか?
「えっと、少し質問してもよろしいでしょうか?」
「ん? 別に良いぞ。」
セイブル王子が手を止めてくれる。
「ありがとうございます。
あの、今回の会議はどのようなものだったのですか? 答えない方がよろしいものでしたら、別に答えて頂かなくても好いのですが......。」
「あぁ、そりゃ気になるよな。
会議の内容はいろいろあったが、まぁ、主に次期国王についてだ。どうやら陛下の体調があまり良くないらしい。そろそろ真面目に考えようだってさ。」
「あまり体調がよろしくないとは、その、どれくらいなのですか?」
「......緊急会議が行われるくらいっと答えておく。」
セイブル王子が比較的優しく言う。この言い方だけで、ことの大きさや緊張感が伝わってくる。
「結果はどうなったのですか?」
「保留だよ。」
フリッシュ王子が言う。
「そうですか......。
確かにすぐに決められないですよね。国の一大事ですし......。」
私だったらどちらを選ぶだろうか......。
いくら考えても、次元の違いが邪魔をする。
すると、ポンッとセイブル王子が私の頭の上に手を置く。
「お前が心配する必要はないよ。」
「そうそう、なるようになるって。」
「お前はもう少し心配しろよ......。」
こうやって話していると、普通の兄弟にしか見えない。いや、兄弟ではあるけど、王子であるという意味で、普通とは違うというか......。
「あっ、そうだ。
これから城下町の視察に行くんだ。アレクも一緒に来ない?」
「え? 私もご一緒しても、よろしいのですか?」
「うん。いいよな、セイブル。」
「あぁ、別に構わない。俺とフリッシュだと、花が足りないからな。」
花?
「あ、多分この『花』は比喩だよ。」
4.白馬の王子と黒馬の王子
私は、城門でフリッシュ王子とセイブル王子を待っていた。ここで待ち合わせる約束になっているからだ。
もちろん、使用人の仕事は全部終わらせたよ。
「アレク!」
この声はフリッシュ王子だ。
私は振り返る。
その時に一つの噂話を思い出す。いや、城下に広まった話ぐらいにしておこうか。まぁ、取りあえず思い出したんだ。
白馬に乗った王子様が、白銀の髪を輝かせながら颯爽と現れる。その少し後ろを、黒馬に乗ったもう1人の王子様がその黒髪に太陽の輝きを浴びながら、一緒に来るよう手を差し伸べてくる。その手を掴めば、世界は一瞬にして変わるであろう。
「どうした? アレク。」
セイブル王子が不思議そうに言う。
「いえ、何でもありません。」
私は差し伸べられた手を掴み、セイブル王子の黒馬の乗せてもらう。
それだけで、見える世界は、一瞬にして変わったように見えた......。
どうもこんにちは。
今回、初めて小説家になろうに作品を投稿してみたあぷりこっとです。
最近、身分差ラブコメみたいな作品に触れる機会があり、自分でも書きたい!っと思って描いてみました。まだ、第一章なので、恋もほとんど発展していませんが、いつかは誰かと誰かがくっつく予定です。はい、予定です。
っと、いうのも、恋愛ものを描くのは初めてでして。今後の流れも脳内でザックリ考えているのですが、いつも通り?事件が起きそうです(笑)。小学校の頃から小説を趣味として描いていますが、大体が事件が起きてます(笑)。もう癖ですね。
次は第二章。頑張ります!
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。次は第二章でお会いできたら、うれしいです。