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第46話 ゴーレムを倒した

つるの先がゴーレムの脚まで最接近したときにカシスは一瞬肩を震わせていたが、つるが遡上して胴体や腕を狙ったときは肩の力を抜いて落ち着いた様子だった。やはりカシスも、脚の異変には気付いている。私は無詠唱で、ゴーレムに魔法をかけた。

ゴーレムは、ハンナの放ったつるで胴体と腕をしばられ、身動きできない様子だった。


「‥‥驚いたね。木の魔法でつるを自在に操るなんて、成績上位者にしかできないよ」


カシスはどこか余裕ありげな表情をごまかしつつ、驚いた感じを見せた。


「ありがとうございます、カシスさま。ただ、わたくしの成績は学年51位でございます」

「おや、ずいぶん下位のほうじゃないか、確か学年は60人だから‥‥」

「はい、下のほうでございます。ですが、ある方に助けられ、無事5年生へ進級することになりました。わたくしはその方に大変感謝しております」


ハンナの言葉とともに私は前へ進み出て、ハンナに並んだ。


「‥私はハンナの友達です」

「そうか、あなたが教えたんだね。すごい」


カシスは少しの間、両手を叩いた。しかし叩き終わったと思うと、急に目を鋭くさせた。


「‥でも、僕のゴーレムはこんなものじゃないよ」


そう言った瞬間、ゴーレムは腕をばきばきと広げた。つるが音を立ててちぎれていく。


『オオオオオオオオオ!!!!!!』


ゴーレムは唸り声をあげた。火が燃えるときのように、音だけで空気がゆれているような気がした。胴体をひねらせて胴体のつるを振り切った後、まず左足を前に出して、大きな地響きを作ってきた。


「ひっ‥」


ハンナは思わず私の腕に抱きついたが、すぐに離れた。

ゴーレムは次の一歩のために右脚を上げたのだが‥‥。


「えっ?」


カシスは慌てた様子で、ゴーレムから距離を取り始めた。

ゴーレムの右脚は確かにあがったのだが、足が切断されたかのように地面に残った。右脚が想定より軽かったのか、ゴーレムはバランスをくずしてふらふらし始めた。


「くうう、壊れたか、まずい!」


カシスは追加で魔法をかけた。足が浮き上がって、右脚の先にくっついて戻った。しかし次の瞬間、ゴーレムの左腕がぼろっと、きれいに肩から離れて地面に落ちた。


「な‥!」


カシスが驚くか驚かないうちに、右腕も落ち、ゴーレムはまたふらつき始めた。

足くらいならまだいいのだが、両腕は巨大だし、片方だけくっつけようものならバランスが悪いので一度に両腕つけなければいけない。必然的にカシスの集中はそこへ向かう。すぐに両腕が再接続のために浮かび上がったが、肩に戻る前にまた足が抜けた。今度は両足だ。ゴーレムは大きくふらついた。


「き、危険でございます!」


ハンナがそう喋り始めた。ハンナの懸念通り、ゴーレムがこちらへ倒れ始めた。


「‥危ない、逃げて!」


さすがのカシスも私たちに向かってこう叫びだした。もうカシスになすすべはないということだろう。しかしこのゴーレムの倒れる速さだと、私たちが右に逃げても左に逃げても怪我する可能性は高い。


「大丈夫。私が結界で守る」

「む、無茶でございます、ユマさま‥」

「大丈夫!」


私はゴーレムに向かって腕を伸ばし、短く呪文を詠唱した。私、ハンナ、クレアを包む白く薄いドーム状の光が現れ、ゴーレムはその光の膜をなそるように崩れ、そして粉々に崩れ落ちた。

土煙がおさまってから、私は結界を解いた。

ハンナは、土の塊になったゴーレムを見るより先に、私を振り向いた。


「ユマさま、すごいです‥」

「えっ?」

「あれほどの大きさのゴーレムであれば、何十トンもの重さがするはずでございます。それを結界で防ぐなど‥‥」

「うん。プロならともかく、学生がやるのはとても危険」


クレアも話に割って入ってきた。2人とも私の判断に驚いているようだった。


「‥‥えっ、私、こういうときは結界だってすぐ頭に出てきたんだけど‥だめだった?」

「いえ‥とても驚いただけでございます」


そうハンナが補足したところで、ゴーレムだった塊の近くに立っているカシスのため息が聞こえた。


「‥あなたたち、すごいね。特にあなた」


そう言って、カシスは私を指差した。


「私‥ですか?」

「うん。あなたは2つもすごいことをしたんだよ。1つ目は、そのエルフの子が言った通り、月の重力でも大体10トンあるゴーレムを結界で防いだこと。そしてもう1つは‥ゴーレム相手に土の魔法を使ったこと」


それを聞いて、ハンナとクレアはまた私に視線を集めた。


「土のゴーレムに土の魔法を使ったのでございますか‥?」


土に対して土を使うのは無意味だ。魔力の差があれば、相手に魔法を吸収されることもありうる。通常、先輩相手に使う手ではない。しかし私は、あの一瞬の間に、この魔法が最適だと判断したのだ。


「うん、私は土煙を操ってゴーレムの関節に潜り込ませて、中で固めて膨らませたよ。だから関節が切れてゴーレムは倒れた。弱った関節を利用するにはこれしかないと思ったけど、先輩に見つかったらまずいと思って、ハンナの魔法を囮にしたんだよ」

「そういうことでございましたか」


ハンナが羨望の眼差しで私を見つめている。


「ユマさまはお強いです。わたくし、ユマさまのおそばにいられて、幸せでございます‥」

「う‥うん、ありがとう」


女同士の恋愛に興味のない私にとって、それを聞かされてもなんとも微妙な気分だ。ただ、ハンナのことは親友だと思っているので、友達という意味では心地がいい。

粉々になったゴーレムの塊をかき分けて、次々と人が出てきた。ゴーレムから解放されたことに喜ぶ人たちの掛け声で、場は一気ににぎやかになった。それを私たちは、ほっと胸をなでおろして、笑顔になりながら眺めていた。

まだ土煙が残る中、こちらへ歩いてくる人影があった。カシスだ。私の後ろに体を隠すハンナをひと目見てから、カシスは私のすぐ前まで来た。


「あなたがやったことは、2つとも8年生にすらできない」

「2つとも‥?」

「うん。訓練用のメイジですら40トンだよ。あ、今のは地球の話だね、月では7トンくらいか。それを支えられるほどの結界を作れることがまず1つ。一般的な土の魔法は土をいったん塊にしてから操るんだけど、細かい砂を砂のまま操るには並のプロですら難しい高度な技術が必要なんだよ。それをやってのけたのが1つ。僕もこんなゴーレムを作れと指示されたときには反対したけど、さすがあのお方の見込み通りだ。あなたは強い」


私は身構えた。いちいち私の技術力の材料となるものを集めて、理論整然と私を評価した。まるで最初から私個人を評価する目的で、ゴーレムを作ったように聞こえた。


「‥‥あのお方とは、生徒会長のことですか?」


私が聞くと、カシスは明確にうなずいた。うなずいて顔を上げた後のカシスの目は純粋で、口元は小馬鹿にした笑みではなかった。カシスはもともと悪役ができるような性格ではなかったということだろう。

カシスは片手をポケットに突っ込ませて、片脚を崩してラフな姿勢で言った。


「‥‥戦いなさい。生徒会長と。あなたにはそれだけの実力がある」

「私は‥」


私が何か言いかけた瞬間、カシスはそれを無視するようにぷいっと後ろを向いた。それで私はしゃべるのをやめた。

カシスはゴーレムの残骸のところに戻って、まだ塊のまま残っていた部分に登って、大声で呼びかけた。


「ゴーレムに捕まっていたみんな、おめでとう。ゴーレムが倒されたから全員に1ポイントずつあげるよ。3人全員揃っていれば、1チームにつき3ポイントだよ」


その場は大きな歓声に包まれた。

ハンナは手を叩き、クレアは腕を組んで笑顔になっているのに対し、私はまだ唇を噛んで、少しうつむいたままだった。

第74話「気分が悪くなった」は、内容が過激すぎるにもかかわらず、ここで発生した事件がのちのちの展開に大きく影響を与える予定のため修正もできない状態ですので欠番とし、別途18禁小説として公開します。第73話の次は第75話になります。

第74話の公開場所は、第73話まで到達した時に改めて案内します。ご迷惑おかけいたしますが、どうぞご了承ください。

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