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第40話 歓迎会の宝探しゲーム

歓声があがった。宝探しと聞いて心昂らぬ男子はいないだろう。私はやれやれと思って、ふうっと息をついた。

ここでオードリーがまた前に出て、カタリナからマイクをもらうと続きを説明し始めた。


「お前ら、この宝探し企画自体は毎年のものだ。宝物を求めて森を何度も探し、時には森のあちこちに待ち構えている先輩と対決することにもなる。3人1組で行動することになる。だが今年の企画で特筆すべきところは、今年の宝は指輪のような無機物ではない。生徒会長自身だ」


その発表と同時にカタリナにまぶしい照明が当たり、会場はどよめきに包まれた。


「‥えっ?」


私は思わず、かじっていたクッキーを落とした。

カタリナを探すの?


「それに加え、ただ生徒会長を見つけて終わりではない。生徒会長を捕まえて連れてこい。生徒会長も抵抗するが、お前たちが片腕でも手首を掴めば捕まることになっている」


そして、オードリーからもらったマイクで、会長が意気満々に堂々と言った。


「はい、わたしは全力で抵抗します。みなさんが死なない程度に。怪我はするかもしれませんが、始業式までに治ることは保証します」


そうして、軽くウィングした。こころなしか、カタリナの瞳は私に向かっているように見えた。


「‥‥え、え、えええええええええええ!!!!!!」


新5年生たちの悲鳴が会場中にこだました。


◆ ◆ ◆


「大変なことになりましたね‥」

「うん」


会場の照明が戻って、また辺りは明るくなった。

ルールでは3人1組で行動するとあるが、私、ハンナは当然のように同じチームでいるつもりだ。残り1人を探そうという段階になっても、私とハンナはまだ、カタリナが今回の標的だということに驚きを隠せないでいた。

技力では先輩すら圧倒し、学生としては異例中の異例、軍からも表彰されたことがある。その名は地球キャンパスでも広がっている。そのようなカタリナと喧嘩しろと言われて、やる気になる人はいないだろう。


「一応、副賞もあるようでございますが‥」


ハンナはそう言って、新5年生のスマートコンに配信された催しの説明画面を私に見せた。

確かにこの催しには副賞もある。カタリナの他に、森には20人の先輩が配置される。木に隠れたり、地面の中に埋まっていたりしている。先輩たちは私たちの宝探しを妨害する。時には先輩と戦うこともあるだろう。その先輩たちと、あるルールに従って戦う。ルールは先輩によってまちまちだ。そして、勝ったチームには1ポイント入る。これが5ポイントたまれば副賞をもらえる。今年の宝がいわゆる無理ゲーだと知ったことで、周りにいる殆どの人達はこの副賞を狙うことが主目的になっているようだった。


「‥ユマさまは、あくまでやりますか?」


ハンナがおそるおそる聞いてきたが、私はしばらく考えてから首をひねった。


「‥‥まさか。まさか」


そうして無理に作り笑いを見せてから、自分のスマートコンをテーブルに置いた。


「‥あれ?」


テーブルの向かい側には、1人の少女がじっとこちらを見つめている。碧玉のようなきれいな緑色のウェーブかかったセミショートをのばして、明らかに私たちを敵視しているようにガン見していた。それで私は一瞬震えたが、隣りにいるハンナが声をかけた。


「ラジカさま、どうなさいましたか?」

「‥あっ、クレアだね」


ものすごい剣幕だったので気づくのに時間がかかったが、クレアだった。


「‥わえもあんたらのチーム、入っていいか?」


私はちらりと隣りにいるハンナを見てから返事した。ハンナの体は嘘をつかない。


「うん、いいよ」

「ん、ありがと」


私とクレアはあまり話したことがない。クレアは人見知りのハンナと最近仲良くなったらしく、どのような人か興味があった。クレアはテーブルを回って、ハンナの隣に来てスマートコンを取り出した。


「‥副賞は会長手作りのお菓子とかそんなんくらいだけどさ‥ユマ、あんたは副賞とお宝、どっちが欲しいん?」


表現はぼかしているが、副賞とカタリナ、どちらが大切かということだろう。ハンナはわかりやすくそっぽを向いている。


「‥‥」


正直、私もカタリナと戦うのは怖かった。カタリナとのデートで、ヤクザ相手に無双しているのを見た。桁外れの運転技術も見た。キャッチャーの操作も上手い。カタリナは全てにおいて、私より上手かった。あれを見たあとでは、いくら憧れの姉であろうと戦うことは躊躇してしまう。


「私も‥副賞がいいかな」

「へえ、戦わないんだね」

「やっぱりね」


いきなり後ろから声がしたので、私はびくっと肩を震わせて振り返った。セレナとアユミだった。


「今まで生徒会長と戦ったことはないんでしょ?」

「えっ、そんな、戦うなんて‥」


確かにこの学園では、学業成績の比較だけでなく、模擬戦闘で生徒同士で戦うこともある。しかしそれは同学年同士の話だ。先輩と、それも幼い頃からずっと一緒にいたカタリナと戦うなんて、私にはイメージできなかった。


「生徒会長は私よりも実力があって‥この学園始まってから何人いるかわからない能力だと聞いたことがありますし、私ではかないませんから‥」


気がつけば、私は細い声で弱音を並べていた。


「ふうん‥」


セレナは腕を組んで鼻を鳴らした。私も、セレナの隣りにいるアユミも、顔には不安しか書かれていなかった。


「ユマ、無理に戦うこともないんじゃないかな‥」

「戦う価値、あるよ」


アユミの発言を遮るように、セレナははっきりと宣言した。


「生徒会長から聞いたよ。キミは、生徒会長に比肩するほどの実力を持っている。生徒会長は技力、キミは魔力で、周囲どころかベテラン軍人さえ圧倒する力がある。世界を変えるほどの力がある」


冗談には聞こえなかった。セレナはしっかりと目を見開いて、私を見ている。私は思わず目をそらした。

以前、カタリナとデートに行った時にも同じことを言われた。世紀を変えるほどの力だと言われた。しかし現に私に、そんな実感はない。地球キャンパスではもちろん魔法の授業があったし、私はそこで1番を取った。その1番も、カタリナのように2番3番だけでなく先輩やベテラン軍人を圧倒するようなものではない。2番とギリギリの成績だった。もちろん、カタリナのように周りから慕われたことも、軍人から評価されたこともない。なのに、どう自信を持てというのだろうか。根拠がない。

私が言うより先にアユミが口を開いた。


「お言葉ですが、いくら姉妹とはいえ、生徒会長と比べるのはどうかと思います‥」

「冗談ではないわ。生徒会長の言うことはいつだって事実よ」


セレナはそうやって押し切ったが、アユミはまだ不安そうな表情を浮かべている。


「それで、キミはどうなの?ユマ」

「‥買いかぶりすぎです」


私は返答した。


「私は生徒会長ほどの実績も評価もないし、魔法の授業でも2番とそれほど差はなかったので、生徒会長どころか他の先輩にも負けると思います」

「それはキミが自分の実力に気付いていないだけ。大丈夫、そのうち目覚めるわ」


そう即答するセレナは、あたかも自信を持っているかのようだった。でも私はセレナと目を合わせず、うつむいていることしかできなかった。

しばらく間を置いて、セレナは語気を弱めて言った。


「‥まあ、無理強いすることはないし、嫌なら戦わなくてもいいんじゃない。でも気をつけて、何もしなくてもカタリナの方から襲ってくるから」

「‥えっ?」


私の周囲に、一気に不穏な空気が流れた。

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