第一幕:飯と寝床
四度目の任務から十日が過ぎ、女達が大勢いた部屋から小さな屋敷の一室移り。
動きやすい、サッパリとした簡素な女物の着物に身を包み。少女、紫葵は与えられた蒸かしたサツマイモの前で動かずにいる。
「あら?食べないの?おイモ嫌い?」
少女のいる部屋の開けられたままの襖から、紫の衿の大きく抜けた着物を着て若い女が声をかける。
「美味しいよ?・・・ん。ダメ?
葵様がいないと食べないってホントなのね」
女はそう言って、小さく切られた芋を紫葵の口元に持っていった後。自分の口に入れた。
「うん。美味しい、はいっ!あーん」
もう一度、女は紫葵の顔の前に芋を人差し指と親指で縦に挟んで持っていく。
「んー。ダメ?葵様は今日も帰られないの。
食べないと、呼ばれた時に直ぐ傍に行けないけどいいの?」
「・・・?」
「そっか。まだ葵様の物になったって自覚がないのね・・・あなたは」
「・・・(あおい様のもの?)」
「葵様に殺される所を、今、こうしているでしょう?あなたの命は、あの時終わったの。」
「・・・」
「選択肢はないの。食べなさい。葵様がわたすとたべるんだから、懐いていると思うのだけれど?」
女は首を傾げながら紫葵の左の頬をつつく。
じっと紫葵の目を見つめ、芋を口に持っていく。
「例え、毒が入っていても。食べるのでしょう?口を開けて、飲み込みなさい」
女は視線を外さず、紫葵を見ている。
芋を手に取り、口に入れる。甘くて、苦くなかった。
何故、自分に苦しくない食べ物をくれるのか。
何故、手を引き。同じ家へ入れ、畳のある部屋に置かれているのか。
紫葵はわからずに戸惑い、芋を食った。
先程の女の言った言葉。「葵様の物」とは、なんの事だろう。あの場で殺されなかったなら、また。元の場所に戻り仕事をする。葵のいないうちに外に出て戻ることが必要なはずだ。それが「焔」としての意味のはずだ。
わからずに、まだ自分の前にいる女を見て声を出そうとして、口を噤む。それを3度繰り返し、女がまだそこにいることに戸惑い、声をかける。
「・・・あおい様のもの。・・・私が?」
小さく、短く、問いかけ。女が首を縦に振り、肯定の意味を示すのを見る。
「葵様の為に生き。葵様の為に働き。葵様の為に死ぬ。それだけでいいの、簡単でしょう?」
「・・・簡単・・・」
「そう。あなたは葵様に殺されず、葵様に生かされたの。あの時終わって、もう無いのだから。全ては葵様の物でしょう?」
(※まだ途中です)