表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
じいやと私  作者: 海老茶
2/5

第2話

これは、一匹狼の令嬢の話である。


王立学院の平等制度は弱体化し、

生徒が等しく勉める学び舎も、ついに弱肉強食の時代に突入した。


その危機的な教育現場の暴発に現れたのが、

愚と賢の令嬢(トリックスター)

すなわち、一匹狼の女学生である。


例えばこの女。

群れを嫌い、権威を嫌い、束縛を嫌い。

魔道具士のライセンスと、上級魔法のスキルだけが、彼女の武器だ。


魔道具士ゾーイ・アーリントン、

またの名を「善と悪の魔女(ファタ・モルガナ)




★☆★




ゾーイは入学2日目にして、初登校を果たす。


学院は、ゾーイが思っていた以上に魅力的な魔道具、あるいは魔具が溢れている。


  説明しよう!魔具とは、

  魔法が恒久付加されたツールである!


寮から学舎への道すがらですら、光魔法が施されたランタン(火魔法じゃない!)や、風魔法と水魔法を掛け合わせたスプリンクラーなど、ちょっと改良して量産したい魔道具ばかりだ。


歩きながら、ゾーイは思う。


「もう授業に出てる場合じゃなくない?」


なくなくない。そうしたら、また兄とじいやの説教を喰らうぞ。


ゾーイはブツブツ言いながらも、辛うじて歩みは止めなかった。




何とか誘惑を乗り越えて、ゾーイは教室に着く。こう見えて彼女は優秀である。クラスは最高クラスのSクラス。

ーーと言うことは、クラスメートは身分・家柄の良いご令息とご令嬢ばかりであるが。


「…そういえば、私の席はどこかしら…?」


初日のサボりが響く。まあいいか。余った席に座れば。

そうして教室の後方で一人立って室内を眺めていると、もう派閥が出来ていることが分かる。


ーーあっちは公爵令嬢とその取り巻き、そっちは侯爵令嬢とその取り巻きね。


派閥は三つ…いえ、四つか。最大派閥の公爵令嬢と侯爵令嬢二人の派閥、そして無党派の私ね。


お、席が空いてる。そこかな?と眺めるのも飽きてきたゾーイが、空いた席に座った。

すると、控えめに声がかけられる。


「あ…あの…。そこは、その…私の席なのです、が…」

「あら?」


ここではなかったか!と声をかけてきた令嬢を見ると、お花のような愛くるしい女性だった。

大きな瞳は紫水晶(アメジスト)のようにキラキラ輝き、髪は珍しいストロベリーブロンド、肌はきめ細かく陶磁のように艶やかな白さだ。


ーーこれは、商売になりそうな!


ギラッとゾーイの瞳が光る。


「まあ、わたくしったら。ご迷惑をおかけして、申し訳ございません」

「い、いいえ…」


すぐに席からどくと、令嬢はホッとしたように肩から力が抜けた。

ゾーイはその隣の空いてる席に座り、改めて令嬢に挨拶をした。


「改めまして、わたくしはゾーイ・アーリントンと申します。どうぞおよろしくね」

「ご、ご丁寧にありがとうございます。わたくしはリリアンと申します」

「リリアン嬢はお美しいですわね」

「い、いいえっ!そんな!」

「もしよかったら、あとで…」


と、ゾーイが言いかけたところで、教室に先生が入室し、授業が始まる。そしてゾーイはリリアンに話しかけたことなど、すっかり忘れてしまうのだった。



授業は退屈極まりなかった。これならば、学院内をうろうろしていた方が有意義である。ゾーイはノートを出して魔道具の発明メモに時間を費やした。


お昼を告げるチャイムが鳴ると、ゾーイは伸びをしてじいやが作ってくれたお弁当を食べに、教室を出る。ーー行き先は、昨日兄に呼び出された場所だ。


ノックと同時に部屋に入る。「お兄様、失礼します」とだけ言って、ゾーイはソファに腰掛け弁当を広げた。


「…ゾーイ、お兄様の分は?」

「ありませんよ?」

「お前、何しに来たの」

「お弁当を食べに」


パクパクと弁当を口に運ぶ。じいやのお弁当は最高ね~!とゾーイは一人で弁当を食べきった。


その様子を恨めしげに見つめて、兄は言った。美しいそのこめかみがヒクついている。


「弁当は教室で食べなさい。ここで食べるなら、私の分も持ってきなさい」

「はーい」

「…私は機嫌が悪い」

「はーい」


機嫌の悪い兄に近寄り、ゾーイはその頬にキスをする。…これで、仲直りだ。


「お忙しそうですね、お兄様」

「何でか、ここで執務をさせられている」

「学生辞めちゃえばいいのでは?」

「あのね、ゾーイ。私は君のお目付役だよ?」

「…なら、ますます本邸へ帰ってほしいです」


ぷうと頬を膨らませて、ゾーイは不貞腐れる。子ども扱いされたことにではない。ーー本邸からの干渉ーーいや、監視されることに腹を立てているのである。


「言い直そう。君を守るために残っているんだよ」

「言い方変えても同じです。結局監視してるってことじゃないですか」

「君は、規格外だから」


頬に触れようとする兄の手を避けて、ゾーイはスタスタと扉へ向かう。「お邪魔しました」と悪態ついて出て行った。



☆★☆



それから丸五日。ゾーイは兄と会っていない。いっそもう一生会わなくても良いとさえ思っている。


だが、毎日会うお隣さんは、日に日に顔色が悪くなって行く。

今日は、ぎの教科書を使っていた。ーー誰かに破られたのだろう。


彼女ーーリリアンは名字を持たない。つまり平民である。Sクラスで平民は三人。彼女と金持ちの商人の息子だ。そちらは是非お近づきになりたいものだ。


リリアンは大層美しいが、これでは肖像画などは売れないだろう。商売のタネが一つ減った。残念だ。


商品にならないことが分かると、ゾーイはリリアンへの興味をなくす。隣で青ざめていようが、教科書が破れていようが、ゾーイには全く関係がなかった。


商売人としてのゾーイは、「善と悪の魔女(ファタ・モルガナ)」と呼ばれている。魔道具を善に属するもの、悪に属するもの、万遍なく販売しているからだ。


だが、彼女自身が善にも悪にも属さない魔女のようだから、そう言われているのかもしれない。


ーー他人の悪は、私の飯のタネ!


ただひたすら自己中心的に生きる。それがゾーイという人間だった。






ある日、ゾーイが廊下を歩いていると、たまたま事件に出くわした。


「おっ!ネタの匂い!」


公爵令嬢withA・B・Cと、リリアンが近づく。ゾーイはポケットから魔道具を取り出し、現場に近寄った。


集団はリリアンとぶつかり、リリアンは持っていた書類を全てばら撒いてしまった。


「何をするの、この平民風情が!」

「ソーントン嬢に触れるなんて……!」

「許されることでは、なくてよ!」


キャンキャン喚くwithA・B・C(取り巻き)。その中心で、公爵令嬢が優雅に立っている。


「も、申し訳ございません…」

「あやまって許されることではありませんわ!」

「平民の臭いが、こちらに移ってしまうではありませんか!」


おお、臭い臭い…と顔を顰めるwithA・B・C。もう、取り付く島もない。


「…貴女、存外綺麗な顔をしているわね……」


くいっと扇でリリアンの顔を持ち上げる公爵令嬢。淡いブルーの瞳が、リリアンを糾弾するかのように鋭く光る。


「…貴女のような身分卑しい人間が、トップクラスにいるなんて…!」


憎々しげに公爵令嬢はリリアンを睨み、バシリ、と扇を翻してリリアンの頬を打つ。リリアンはよろめいて、片手を地面についた。恐怖で身体はカタカタ震え、紫水晶(アメジスト)の瞳が揺れる。



ーーよし!ネタ撮り成功!


ゾーイは満足して戻ろうとした時、withA・B・Cに掴まった。


あ、近づきすぎた、とゾーイが気付いたときにはもう遅い。公爵令嬢に冷たく誰何される。


「…貴女、名前は?」

「ゾーイ・アーリントン男爵(・・)ですわ」

「ふふ、男爵ね」


急に公爵令嬢の瞳が侮蔑の色に染まる。あ、そういう人ね、とゾーイにも蔑みの表情が浮かぶ。


「アーリントン嬢、貴女には関係ございませんでしょう?お戻りになって?」

「ええ、戻ろうとしたところを、そこのご令嬢方に引き留められましたの」

「……そう」


アゴを上げて、公爵令嬢はゾーイに「帰れ」と指示を出す。その仕草にカッチーン!とゾーイにスイッチが入った。


「…ソーントン嬢。クラスメイトがお世話になったようですわね」

「……貴女には関係ございませんでしょう」

「彼女は、Sクラスの人(・・・・・・)ですから。級友のことは、見過ごせませんでしょう?」

「……ッ!」


扇を持つ公爵令嬢の手が怒りに震える。ゾーイは彼女の劣等感をえげつなくついた。

だが、敵もさるもの。ふっとため息をついて逆襲する。


「そちらの方が、私にぶつかって来たので、たしなめただけでございますわ。Sクラスの方は、礼儀がなっておりませんわね」

「まあ!わざと体当たりすることが、“ぶつかって来た”ことになるんですの?Aクラスでは、常識が異なりますのね」

「な、なんですって…!」


カッと顔を赤く染める公爵令嬢。「し、証拠は?」などと苦し紛れに言うものだから、ゾーイは魔道具を取り出して見せる。


「もちろん、これが証拠ですわ」


そう言って取り巻きの一人ーーwithBーーに背中を向けさせ、そのブレザーに投影する。


「これは…」

「わたくし特製の魔道具ですわ。この水晶に光魔法を当てると、ほら」


ブレザーに先程のやり取りが映し出されると、公爵令嬢withA・Cの顔が歪む。(Bは“なに?なんなの?”とわめいている)


「どうです?」

「こ、こ、こんなもの!わたくしは認めませんわ!」


と、捨て台詞を残して公爵令嬢withA・B・Cは走り去っていった。あれほど急ぐとは、さぞややましかったに違いない。


ーーふふ、お宝ゲットだぜ!


学院生活も中々悪くないと感じるのは、こういう時だ。


「あの…ありがとうございました」

「いえ。貴女のためではありませんから」


ネタのためです。


「アーリントン嬢は…男爵様なのですね…」

「………」


おや、この娘は賢い。ヘタに近付くのはあまり得策ではないとゾーイは思った。

君子危うきに近寄らず。ーーくわばらくわばら。


「では、ご機嫌よう」

「あ…」


ニッコリ笑ってその場を去ろうとすると、ゾーイの腕を掴む人間がいた。


「…お前か?今魔法を使った者は…」

「げ!」


この学院内は、魔法の使用は御法度。使用すると、こうしてすぐに教師に掴まってしまう。


こうしてゾーイはずるずると教師に引きずられ、説諭室で散々説教を喰らった後、身元引受人(兄とじいや)が駆けつけ、さらに説教を喰らったのだった…。



じいやがいないと、パロディ少なめ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ