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じいやと私  作者: 海老茶
1/5

第1話

なるべく短い話にします。よろしくお願い致します。

これは、一匹狼の令嬢の話である。


王立学院の平等制度は弱体化し、

生徒が等しく勉める学び舎も、ついに弱肉強食の時代に突入した。


その危機的な教育現場の暴発に現れたのが、

愚と賢の令嬢(トリックスター)

すなわち、一匹狼の女学生である。


例えばこの女。

群れを嫌い、権威を嫌い、束縛を嫌い。

魔道具士のライセンスと、上級魔法のスキルだけが、彼女の武器だ。


魔道具士ゾーイ・アーリントン、

またの名を「善と悪の魔女(ファタ・モルガナ)




★☆★



アーリントン男爵家の一室で、ガタガタゴトゴトと何かを漁る音が聞こえる。


広い部屋の半数は何やら怪しい道具に埋もれ、一人の女性があーでもないこーでもないとぼやきながら、さらに道具を床に散らばしていく。


部屋の持ち主は、豊かな金髪を持ち、小さな顔にはエメラルドの美しい瞳と小さめの鼻に苺のような赤き唇、そのパーツ全てがバランス良く整っている。

控えめに言っても、相当な美人だ。


そんな家主に屈強のジジイがたしなめる。


「お嬢様、明日は学院へ出立する日ですぞ」

「オーケーオーケー、分かってる。これとこれを積めば終了よ」


パンパン!と手を叩き、「良い仕事した!」と誇らしげな顔を、執事(じいや)に向ける。

白いあごひげを軽く撫ぜて、じいやは言った。


「やり直しでございます、お嬢様。こんなに運べませんわい」

「頑張れ、じいや!何とかなるなる!」

「何ともなりません、お嬢様。ぎっくり腰の未来が見えますぞ」

「大丈夫!じいやは若い頃、『赤い彗星』って呼ばれるほどの騎士だったもの!」

「普通の騎士より三倍性能がよかったあの頃には戻れませんわい」

「は こ び な さ い」

「い た し ま せ ん」


しりとりか!とゾーイは腹を立てるが、段ボール30箱は、さすがに多すぎるかと思い直した。


「異次元ポケットがあればなぁ」

「異次元ポケットから道具の取り出しは不可能ですぞ」


なにせ異次元だから、どこに行った分からんくなるだろうて。とじいやから冷静な突っ込みが入った。


え?じゃあ4次元なら可能なの?て言うか、そもそも4次元ってどんなものなの?そんな次元で、道具の整理整頓をどうやってしてるのだろう。あれ?これって何かヒントにならない?新しい道具を自由に引き出せるポケットとか…。あったら私は欲しい!


何やらトリップしてしまったゾーイは、頭をスパンッ!と叩かれる。


ーーえ?スリッパ?なんでわざわざスリッパで叩くの?そういえばスリッパって『ス()ッパ』と『リ』を強く発音するの?『()リッパ』と『ス』を強く発音するの?あれ?これって何かヒントにならない?正確な発音を教えてくれる道具とか…。


と、またもやトリップしたゾーイの頭を、じいやはもっと強く叩く。


「片付けなされ」

「……………はい」


じいやの鬼の形相に、渋々ゾーイは段ボールの半分を片づけた。すかさず「15箱も無理だ、5箱にしろ」とじいやに言われ、泣く泣くゾーイは残りの10箱を片付けたのだった。



☆★☆



聖アンドレア学院。


この王立学院は、16歳から18歳の男女で魔力を持つ者ならば、貴族であれ平民であれ、広く門戸を開き無料で授業を受けられる。


王立学院の中では、どんな身分であれ規律により平等が定められている。

ーーのが建前だということは、誰もが分かっていて、厳密には身分の高い者が多額の寄附金等により、幅を効かせていた。



ゾーイは学院など行きたくなかった。そんな有象無象を相手にしている暇はないのだ。


ーー世の中は、お・か・ね♪


彼女は16歳にして高い魔力を誇り、国から『魔道具士』の国家資格(ライセンス)を得て、かなりお金を稼いでいた。


  説明しよう!『魔道具士』とは、

  魔力を動力源とする道具を作る

  職人のことである!


ーー幸せは金と健康だって、元暴走族の弁護士先生が言ってるもの!


だから彼女はせっせと稼いだ。自分のために。

それを、上から圧力がかかり、有無を言わさず学院への入学が告げられると、


「じぇじぇじぇ!」


……それが、彼女の一声だった。


どうせ学院生活を送らねばならないのなら、無駄には過ごせない。有象無象の強請ゆるりネタを探しまくる!じいやの名にかけて!


「…私は、犯罪の片棒を担ぐつもりはありませんぞ」


荷解きしながら、呆れた声でじいやは言った。






翌朝、快晴。


胸のリボンをキュッと結び、ゾーイは「行ってきます!」と勢いよく学院の寮を出た。


聖アンドレア学院は全寮制。ゾーイの部屋は、そこそこ大きな部屋だった。ーーそれは、寄附金がそこそこだからだ。


「いってらっしゃいませ。途中、寄り道してはいけませんぞ。真っ直ぐ入学式の会場に行って下されよ」

「はいはーい!」


子どもじゃないんだから、ちゃんと式典に出ますよぅ!とゾーイはのんびり歩く。



すると、学院のシンボルである大きな時計台が目に付いた。


ゾーイは好奇心に駆られるまま、時計台に近づく。寄ると、ゾーイの2倍くらいの大きさだ。でかい。

カチカチ、と振り子が揺れる。振り子時計自体は珍しくないが、この時計台には魔力が込められている。振り子の永続運動か?と思ったが、この魔法は雷だ。


「うわあ…!」


時計盤の下、振り子の上に、キレイに輝く石英(クオーツ)が見える。あれだ!魔力の正体は、あれだ!


クオーツに雷魔法をかけた魔具で、振り子は動き時を刻む。でもそれだけじゃないな。圧力を生じさせているのは何だ?風魔法か?雷魔法と風魔法の融合?……すごいな。

風と雷の掛け合わせ魔具でクオーツを振動させ、振り子を一定に動かしているんだ。


え?でもどうして時間は60進法なんだろう?まあ天文学とか混ざってくるんだろうけど、10進法にしようとしなかったのかな?ああ!10進法の無意味な時計とか作ってみようかな?動力ななにが良いかなぁ…。


とゾーイはすぐにトリップしてしまう。しかも現況突っ込み役(じいや)がいないから、無限ループだ。


次はあっちを見に行ってみよう!とじいやの忠告虚しく、ゾーイは入学式をサボり、クラスの交流会もサボったのだった…。



★☆★



いま、ゾーイは呼び出しを喰らって、冷たい大理石の上に正座している。


ーーしまった…。


やっちまったなぁ!と杵を持つあの人が脳内で騒いでる。ーー女は黙って、土下座!


「申し訳ございませんでしたぁ!」


ゾーイは深々とまず謝った。先手必勝である。


謝った相手は、艶やかな金髪、深い海色の瞳、真っ直ぐ通った鼻筋、長い脚に均整の取れた体格。

この世の美を結集したかのような、美青年だ。


ゾーイの謝罪を受け、向かいのソファに座る美しい青年は、青筋を立てながらニッコリと笑った。


「ゾーイ、何を謝っているのかな?」

「に、入学式に出席しなかったことです」

「おや、それだけかな?」

「く、クラスの交流会も欠席しました」

「ーー結局?」

「1日サボりましたぁ!ごめんなさい!」


そして土下寝。ーー土下座よりも深い謝罪の表現である。残念ながら、傍目はためから見たらただのギャグだ。


「ゾ・オ・イ?」

「ヒィィッ!」


頭上からツンドラのような氷の声が聞こえる。ーー寒い。ていうか痛い。しかも、「ゾーイ」ではなく「ゾオイ」って言った!これは兄の最上級のお怒りを表している。


ガタガタと震えるゾーイを見て、彼はふぅと息を吐いた。


「こちらを向いて」

「無理です」

「いいから、向いて」


恐る恐る、ゾーイは兄を見上げる。兄はヒョイと軽々ゾーイを抱っこして、己の膝に座らせた。


「…心配したんだよ」

「…はい、ごめんなさい、お兄様」


コツンとおでこを兄の胸に当てて、小さくゾーイは謝った。ーーゾーイを心配してくれる、数少ない味方だ。ゾーイは大いに反省した。


「もうしません。仲直りです」

「うん」


ゾーイは兄の頬にキスをする。ーーこれが、兄妹の仲直りの方法だった。

そして兄はゾーイを抱きしめる。


「全く。初日をサボる馬鹿がどこにいる」

「ここに…」

「『ここに…』ではない!お仕置きだ!」

「ぐええ…!ギブギブ!」


そのまま抱きしめる腕の力を強くする。エビ反りになったゾーイが、苦しげに兄の腕をタップした。


「寮に戻ったらじいやの説教だよ」と帰りしな言われたゾーイは、「…ここに泊まってもいいですか?」と聞いて、兄から部屋をつまみ出されたのだった。



「セバスチャンと私」の最初のプロットを、手直しして始めました。5・6話にまとめたいと思います。日常を描くので、ほぼ無限に書けてしまうので。

コメディ一色です。パロディの出典が分からなかったら、掲載します。何だか歳がバレそうですね。

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― 新着の感想 ―
[一言] 冒頭の部分ドク◯ーXのパクリだよね?
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