スライムも積もれば結構やる
教会での儀式が終わったあと、そこには【剣士】のワンランク上の【剣豪】を授かり得意気な少年の姿があった。
普通は【剣士】が鍛錬を重ねて【剣豪】になるのだが、100万人に1人くらいの割合で最初から【剣豪】を授かる子供もいる。
「やっぱりリュートなんかより俺様の方が100倍すごいんだよ。俺様は選ばれし【剣豪】、それに比べてあのカスは前代未聞の雑魚ジョブ授かって逃げ出すなんていい気味だ」
「ちょっとマルコ!その言い方はないでしょ!」
と咎めたのはリュートの幼馴染のアイカ。赤い髪をセミロングに伸ばした美少女である。
「うるせえ、【魔法使い】の分際で俺様に指図するな。せめて【剣豪】と並ぶ【魔術師】になってから言うんだな。まあ、その頃には俺は【剣聖】になってると思うが」
「…」
基本的に職業が上の人間と戦っても勝てない上、平民同士なら地位が高いと言う暗黙の了解もあるためアイカも強く出れないのであった。
「まあいい、まずはリュートの野郎にこれまで恥をかかされた落とし前をつけてやるか」
マルコはこれまで悪さをしようとするたびに、鍛錬していたため腕っぷしで勝っていたリュートに抑えこまれていたのである。
しかし、強い【役職】を得た今ならリュートをボコボコにできる。そう思っていた。
「ちょっとマルコ…え、なにあれ!」
アイカがマルコを静止しようとした時、前の方に大きな青い塊が見えた。次第に近づいてくるにつれて、よく見るとたくさんのスライムだとわかった。
そのスライムの大群の前に1人の少年が立っていた。リュートである。
「なんだ、雑魚ジョブのリュートと雑魚スライムの大群かよ、驚かせんなよ。ちょうどいい、これからお前をボコろうと思ってたんだよ」
そう言ってマルコは剣を持ってリュートに近づいて行った。
「ようマルコ、お前はなんの【役職】だったんだ?」
マルコの敵意に気づかず、呑気にリュートはマルコに尋ねた。
「俺様は雑魚のお前とは違って【剣豪】なんだ、マルコ様と呼びな。それはそうと、今まで俺様を侮辱した落とし前をつけてやる。」
そう言うとマルコは突然リュートに斬りかかった。リュートはこれまでの10倍くらいの速さで斬りかかってきたマルコに反応できなかったが、スライムの一体がリュートの前に立ちはだかり代わりに剣を喰らって煙となった。
通常、魔物は絶命するとき煙となり、魔石とドロップ品を残す。
「てめえ、殺す気か…ていうかよくも俺の可愛いスライムを」
リュートは怒って「【スライム合体】」と唱えた。
すると299匹のスライムが合体して体長8メートルくらいの巨大なスライムになった。あまりにも巨大なスライムにビビるマルコであったがなんとか剣を振る、しかし…
「な、なんだと…」
マルコの剣はポヨンと言う音とともに跳ね返された。もともと物理耐性が強いスライム、数匹程度では【剣豪】のマルコの剣を受ければひとたまりもないのだが、299匹分の物理耐性を持つ巨大スライムにはほぼ効かなかった。
「ふふ、次はこっちの番だな、【スライム体当たり】」
その瞬間巨大スライムがマルコに向かって突進した。299匹分の質量を持ったスライムの突進によりマルコは吹っ飛ばされた。
「てめえ…覚えとけよ…」
20メートルほど吹っ飛んで地面に叩きつけられたマルコはそう言うと気を失った。