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きのまま錬金!1から錬金術士めざします!  作者: ワイムムワイ
錬金術士の弟子になる
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見習い/黒猫先生/梟じぃⅡ

 約束の話を聞いていけると考えたトラジは、再度エリィの元を訪れた。

 しかし、すんなり話が通ると思っていたトラジ達だったが、予想外な抵抗をエリィは見せた。


「わ、私の大事な酒代を奪われてたまるかい!帰りな!」


 そのエリィは前と違って、お酒の匂いを漂わせその頬は赤く染まっていた・・・・・・。


「え~、でも約束は――」

「酒の為なら私は死ねる覚悟さね!」


 もはや理屈は通じない。

 まるでお酒は神様とでもいいたいのか、お酒を理由にすべて断ろうとしていた。


「みっともないので、もうその辺にしておいてください」


 そこに黒猫が仕事を終えて戻ってきた。


  確かにな。

  ただでさえエリィ達には助けられてるのに、約束を口実にお金をよこせと言ってるんだ。

  そりゃあ、みっともなく見えるよなぁ。


 黒猫は賢い。トラジは分が悪くなるのを覚悟する。


「黒猫!あんたも言ってくれないかい?このままじゃ私のお酒が――」

「そうですね。お酒を控えて欲しいと思ってましたし、約束を守るのもいいかと」


 主人の味方をすると思われた黒猫だが、それがトラジ達の側に付いたのでエリィは慌てた。


「な、ななな何を言ってんだい黒猫!猫スケに惚れでもしたのかい!?」

「な、にゃにを言ってるんですか!そ、そんな事、ある訳ないじゃにゃい!」

「惚れたのか?」

「あなたは黙ってて頂戴!」

「お、おう・・・・・・」


 すごい剣幕で黙っててと言われたし、黒猫が説得してくれそうなのでトラジは成り行きを見守ることにした。

 心なしか黒いオーラのようなものが黒猫から見えた気がした。


「日頃から仕事に対して不真面目。隙を見つければお酒・・・・・・。少し強引ですが、私の権限でミィナさん達をご主人様の見習いとして正式に組合に登録します!」

「なっ、そんな勝手な――」

「日頃から仕事を私に任せすぎましたね。今の私ならそれくらいは可能ですよ?」

「そ、そんな事させるわけ・・・・・・。うっぷ・・・・・・」


 黒猫は怠ける主人の代わりにせっせと働くうちに、その賢さと真面目さから主人より周囲から厚い信頼を得ていた。

 その為、ここの職場の関係者の間では黒猫がエリィの本体とまで言われている。

 ちなみにエリィは気分が悪くなったのかトイレに向かった。


  ありゃ、吐きに行ったな・・・・・・。


「えっと~、見習いとして登録されるとどうなるんです?」

「簡単な事よ。見習いとしてここの仕事の一部を手伝えるようになるし、その分お金が貰えるわ(その分はエリィの給料から引かれる)。あと、次の試験次第だけどご主人様の弟子になる事もできるわね」

「その~、弟子を断ることは・・・・・・」

「勿論できるわ。でも、ご主人様は普段はああだけどとても優秀なの。この町でなら間違いなく1番の錬金術士だから断るのはオススメしないわ。その気持ちは・・・・・・、わかるのだけどね」


  優秀なのは黒猫がいるからじゃないのか?


 そうトラジは思うのだが口には出さないでおいた。


「ご主人様~、どうします?」

「俺達にとってこれは渡りに船ってやつだ。見習い登録しようぜ!ミィナ」

「了解です~」

「ちっ。黒猫あんたねぇ、ちと強引過ぎやしないかい?」


 そこへ、エリィが戻ってきた。

 酒が少し抜けたのか言動はだいぶ落ち着いたようだ。


「正常な状態のご主人様ならこうしたはず、と思いましたので」

「酒代が減るのは困るが、確かにさっきの私はどうかしてたと思うしねぇ。いいさね、それくらいなら許可しようじゃないか」


 エリィはそう言いつつ、前から考えていた件についての手段にもなると思い許可する事にした。


「登録の方は私の方でやっとくさね。だから今日はコレ持って帰りな」


 そう言ってお金を渡してきた。

 金額はまぁ、一般的な一日の食費程度だった。

 トラジとミィナはその後、市場により買い物を済ませ帰路に付いた。

 家の前まで行くと、なぜか黒猫が日当たりのいい所で丸くなっていた。


「遅かったわね。待ちくたびれたわ」

「なんで黒猫がいるんだ?」

「い、いちゃ悪いのかしら!」

「いや、聞きたい事も多かったからな。いてくれて助かるくらいだ」

「ならもう少し嬉しそうにしても・・・・・・。な、なんでもないわ!」

「お、おう」

「えっと~、仕事やエリィさんの方はいいんですか?」

「あの後、ご主人様が珍しく後の仕事はやっておくからと言ったので任せてきたの。だから大丈夫よ」


 黒猫はそう言いつつも経験から、裏でエリィが何か厄介事を片付けようとしてるのを察していた。

 心配は勿論あるのだが、こういう時に傍にいようとするのをエリィが嫌がるのを知っているし、なんだかんだで主人であるエリィを信頼している為に任せてきたのだった。


「ホントにいらないんですか~?」


 昼ご飯を食べていたのだが、黒猫がいらないと言うのだ。

 まぁ、そのご飯というのも肉を一口サイズに切って掻き回しながら炒めた程度だが。

 ミィナの方はそこに野菜と塩を少量かけただけの簡単なもの・・・・・・、のはずなのだが手際も悪く見極めも悪い。トラジが見ていなければ炒めすぎでもっと黒くにがにがになっていた事だろう。


「私はすでにお昼は済ませているわよ。お金に困ってたあなた達から貰うような事はしないわ」

「なぁ、黒猫」

「なにかし・・・・・・ん!!」


 トラジは細かく切り分けられ焼かれた肉の一つを爪で器用に刺し、喋ろうとした黒猫の口に放り込んだ。


「この肉もお前のとこの主人から貰った金で買ったんだ。一口くらい喰らいっていきな」

「わ、私にはちょっと脂っぽいわねっ」


 黒猫は顔が見られないように反対側に顔を向けそう答えた。

 ちなみにオヤジギャグはスルーされた。


  この世界にはオヤジギャグはないのか・・・・・・無反応が悲しい。


「コホン。いまさらだけど、私がここに来たのは魔力について説明するためなの。人間であるミィナさんは、魔力を扱えるようになるのに相応の時間が要る筈。正直今からでは、足らないくらいかもしれないわ」

「訓練次第で人間でもいけるのか?」

「それは分からないわ。人間が使い魔なんて前例がないもの。でもね魔力の適正がほとんどない子でも、訓練さえ積めば多少は出来るはずなのよ。可能性はある、そう思って頑張って頂戴」

「その~、多少で錬金術士としてやっていけるのでしょうか?」

「正直な話、錬金術士としては最低ラインでしょうね。でも錬金術士になれるかどうかなら十分よ」


 その理由は単純だった。

 組合で保護してる使い魔候補の動物達の多くが、魔力適正的にはそれほど高くないからだ。

 ほとんどの錬金術士の候補生は、その組合で使い魔を選ぶため魔力適正が高くないと出来ないような試験は出来ないのだ。


「黒猫は組合で使い魔になったのか?」

「ちょっと違うわね。その話を説明すると、錬金術士達の闇にも少し触れてしまうのだけど・・・・・・。聞きたい?」

「ならいら――」

「聞きたいです~!」


 断ろうとしたトラジを遮るようにミィナが言った。


「説明していいの?」

「なぜ、俺に聞くんだ?」

「あなたが主人だから、ね」

「私バカですけど~、今はれっきとした使い魔ですから。聞いておきたいんです」


 ミィナはトラジが危ない事や良くない事に、触れさせないようにしている事に気が付いていた。

 だが、それではいけない。そういう気がしていたのだ。


「・・・・・・ミィナがそう言うならいいだろ。黒猫頼む」

「まず結論から言うと、私はご主人様の3代目の使い魔で使い魔を失ったご主人様に・・・・・・、半分無理やりだったかしらね?引き合わされて使い魔になったのよ」

「無理やりですか~?」

「順に説明するわ。組合で面倒みている候補生の使い魔は、ほとんどが元野生か元ペットで魔力の適正も高くないの。勿論、使い魔になる為の訓練をするからそこらの野生動物よりは当然上にはなるわね。私の両親はともに使い魔で、私は生まれてすぐ使い魔となるべく育てられたから、その適正はさらにずっと高いわけなの」

「つまり、黒猫は候補生用の使い魔とは違うと?」

「その通りね。私は錬金術士用に育てられた事になるわね。ここで疑問に思うのが、候補生は魔力適正の高い子を使い魔にしないのか?だけど、答えは簡単ね。候補生全員が錬金術士にはなれないからよ」


 もちろん例外もある。例えば、親が錬金術士だったり錬金術士の知り合いがいて、そういったコネで使い魔を得る場合だ。

 だが、使い魔が優秀でも錬金術士になれない場合も普通にある。


「使い魔を育てる側から見ればアタリとハズレがある・・・・・・、と言っていいのかしらね。せっかくの適正の高い子を候補生の使い魔にするのは勿体無い。ハズレの使い魔になった子が可哀相だ。そんな感じかしら?だから私のような子は、錬金術士で使い魔を失った人に引き合わされるのよ。相手が錬金術士で地位や名誉もある人なら高額で売られたりもするの。私も売られたから拒否権なんてなかったのよね」


 高額で売られる魔力や知能に長けた子の中には、元々魔力適正と知能に優れた魔獣を違法に捕まえて売るやつも存在していて、それを利用する悪党な錬金術士もいる。

 当然捕まれば厳しく罰せられる。


「ここからが闇にあたる部分なのだけど、錬金術士になった人の中にはそれを知っていて、わざと自分の使い魔を殺してしまう人がいるの・・・・・・。錬金術士になれなかった人の中にも似たようなケースがあって、錬金術士になれなかった原因をすべて使い魔のせいにして暴力を振り死なせてしまう人もいるの。候補生から錬金術士になるまで、最短でも1年以上生活を共にするはずなのにね。簡単に殺してしまうなんてね・・・・・・」


 黒猫は使い魔の候補生の面倒をみていた側で、使い魔を送り出してきた側だ。

 自分が面倒を見て送り出した子がそういう目にあったら・・・・・・、その時のその感情は語る必要もないだろう。


「あなた達は知っているでしょう?ミィナさんが先無しと呼ばれていた事を・・・・・・、使い魔を目指す子達はそれだけ必死なの。恨まないであげてね」


  そういやミケが言ってたな『使い魔に成れるの一度だけにゃ。一生ものにゃ』だっけか。

  エリィのやつは『どん底を一生付き合う事になるんだよ!』とも言ってたっけな。

  今になって本当の意味で理解した気がする。


「ご主人様は~、私を見捨てたりは――」

「するわけないだろ。元々ダメなやつだと知った上で使い魔になろうとしたくらいだぞ」

「えへへ~」

「ダメなやつはスルーしていいのかしら・・・・・・?」


 安心したのかミィナは平和ボケしたかのような笑い方だった。


「そういや黒猫。梟じぃはどうなんだ?」

「そうね、梟じぃの話はまだしてなかったわね。梟じぃは主人に捨てられてしまった使い魔なの。もう何年前の事か私も知らない、ずっと前からあそこにいるのよ」


  捨てられた、か。

  なるほど『アナタの未来かもしれない』ってのはそういう事か。


「これは又聞きだけど、錬金術士を諦めた後に梟じぃの主人は牧場を経営し始めたらしいの。最初はうまくいってたけど、ある時ネズミが異常発生して経営が悪化。旗色が悪いと早期に見切りをつけて、あっと言う間に牧場を畳みこの町から出て行ったらしいわ。梟じぃにあの空き家を守るように言いつけてね」


  一人で空き家を何年も守り続けるか。

  流石に俺には真似出来そうにないな。


「生活が苦しくて梟じぃの面倒が見切れなくなったのか、あるいは一緒に暮らすのが嫌になってしまったのか。そんな風に言われているわね」

「梟じぃには聞いたのか?」

「もう、覚えてないそうよ。相当なお歳なはずだから仕方ないわね。未だにネズミに対しての執着は強く、町で見つけては駆除していて町の守護者と呼ばれるほど喜ばれてるわ」

「あの~、いいつけを無視する事はできないんですか?」

「できないわ。主人が命令として言った言葉を使い魔は断る事も無視もできないの。命令の内容次第では一生解けない呪いの様に縛られる。梟じぃのようにね。あなた達はそうならないといいのだけど・・・・・・」


 黒猫はトラジに言いたかったのだ。主人の身勝手や命令一つで使い魔は地獄を見るという事を。

 だが、トラジは元々ミィナを助けたいが為に今の状況に飛び込んだ。その信念は今も変わってない事を黒猫に伝える。


「ならねぇよ!俺は助けるためにここまで来たんだからな!」


  ・・・・・・ちょっと、格好つけ過ぎたかもしれん。

  呆れられてないよな?


 トラジはミィナと黒猫の方みやる。

 ミィナは顔を赤くしていて、なぜか黒猫はこちらに背を向けていた。


  やべー、やっぱ恥ずい台詞だったか!

  くそーー!穴があったら入りたい気分だ!


 トラジは頭を抱えて蹲る。


「ご主人様素敵です~」

「なぜかしら、やっぱりちょっとカッコイイ・・・・・・」


 トラジに聞こえない程度の声で、黒猫とミィナは呟やいた。

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