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きのまま錬金!1から錬金術士めざします!  作者: ワイムムワイ
使い魔と契約
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逆転

 クオの森と町のちょうど中間点。


 すでに日も暮れて暗くなった夜道を歩く女の子。

 一歩、一歩足を進めてはいるがその歩みは遅い。

 服は泥と埃で汚れ、膝を擦りむいてもいた。

 もう泣きそうなほど、打ち付けた所が痛みだした。

 女の子は『魔獣のゴハンになってでも』そんな覚悟までしていったのに、この程度で泣きそうな自分の弱さを思い知る。


「私って~、ほんとダメダメですね・・・・・・」


 足取りは重く、より歩みが遅くなる。

 やがて女の子はその場で蹲ってしまう。

 すすり泣く声があたりの空気に交じっては消えた。




 クオの森と町のちょうど中間点より少し町側の位置。


 今もなお猫になった男が首輪を咥えて走っていた。


  くっそーー!どんだけ遠いんだクオの森はっ!

  首輪を咥えたまま走るのきちー。

  黒猫に頼めば・・・・・・、いや、そこまでしてもらうと流石に男として・・・・・・。


 男は走っているつもりだが、これを黒猫が見たら早歩きじゃないかと言われそうな速さだ。

 それがこの男の今の限界だ。少しでも急ぐべきなのは百も承知なのだが体がいう事をきかない。

 黒猫は既にいない。男のペースでは間に合わない事を悟り、猛スピードで先に行ってしまったからだ。


  マジやばい、足が重い。

  足がふらふらしやがる。


 そして、バランスを崩し横倒しに倒れる。

 疲れからか、痛みからか、このまま寝てしまいたくなる。

 だが、女の子の事を思うと到底寝ることなど出来なかった。


  とてもつらい・・・・・・。

  俺はなんでこんな事してるんだろう。決まってるあの子を助ける為だ。

  人間だった頃は楽だった。まじめに授業受けてまぁまぁな成績とって、先生や周りに勧められた進学先選んで、周りに勧められるままそこに就職して・・・・・・。ほんと、ほんとに楽な流される人生だったな。


 そのかわりに、男は誰かに特別必要ともされてなかったようでもあった。代わりは他にもいる。俺である必要は無かったなと、男は今になって思った。


  だが、今回はそうはいかない。俺じゃなきゃ助けられない。俺が動かなきゃあの子が死ぬ。


 結論は出ていた。


  俺は必要とされたかったんだな。それが無かったから本気にもなれず流されるまま・・・・・・。

  やるしかない。


 少しだけど、前より手足に力が入る。

 少し押されただけで簡単に倒れてしまいそうだけど、また立ち上がれる気がした。

 男は再び走り出した。


「こ、こりゃ・・・・・・。ぜぇ、たぃ。筋肉痛なる、なァ・・・・・・」


 しばらく進むと女の子のすすり泣く声が聞こえてくる。

 男は力を振り絞って走り、ようやく女の子の前までたどり着きあぐらみたいな感じで座り込んだ。


「ハァ・・・・・・、ハァ・・・・・・」


  黒猫の姿が無いな。足止めに成功したから帰ったのか?

  にしても、これはやりすぎだろう!後で文句言ってやる!


 女の子は男に気がつかないようで泣き続けている。

 自分より辛そうに泣いている子を前に男は、なんとかしなければ!という想いで呼吸を無理やり鎮めて女の子に声をかけた。


「だ、大丈夫か?」

「ぐすっ・・・・・・。猫、ちゃん・・・・・・?」


 残念だが言葉は通じるわけもない。

 それでも、女の子には目の前の猫が自分を気遣ってくれているように見えた。気のせいだとしても嬉しかったようで、顔を上げて涙を流しながら少しだけ笑ってくれた。


  良かった。大きな怪我とかはなさそうだ。


 男はひと呼吸おいて話を続けた。


「いいか?俺がお前の使い魔になってやる。だからもう泣くな、な?」

「私を~、慰めてくれるの?ありがとう猫ちゃん」


 言葉はやはり通じない。

 男が使い魔の候補生の中にいた猫だと分かれば、感づく事も出来たかもしれないが日は既に落ちて辺りは暗く月は雲に隠れていた。そうなると判別は難しい。


  こうなりゃボディランゲージしかないな!


「いいか?俺は!お前の!使い魔になりに来たんだ!」


 まず座った状態で自分を右手で指し、次に女の子の方を同じ右手で指す。

 そして地面に置いてた首輪を咥えて軽く投げるように目の前の女の子に放った。

 女の子は、男と首輪を交互に見てついに察した。


「・・・・・・私にくれるんだね~?」


 男はそうだと言わんばかりに頷いて見せ、首輪をつけやすいように顔を空へ持ち上げた。


「でも~、首輪をつけるなんて、まるでペットみたいだね」

「いや、使い魔だから!」


 そう言って女の子は手にした首輪を自分の首につけた。


「まぁ~、今の私にはお似合いかもね・・・・・・」

「なんでそうなる!契約の首輪だっつの!錬金術士目指しててなんで知らないんだよぉぉぉ!」


 その時、契約の首輪が眩いほどに光って女の子の首へと溶ける様に消えた。

 その首には、首輪にあった植物みたいな模様が黒い刺青のように残っていた。

 お互い何が起こったのか分からずに少しの間沈黙したが、それもすぐに終わった。


「何がどうってんだー!」

「え~?猫ちゃんが喋った!」

「あれ?俺の言葉分かるのか?」

「え~と。そうみたい、です・・・・・・」

「じゃあ、成功したんだな。聞いてたのと違うから戸惑ってしまった」

「成功~?」

「ああ、さっきの首輪な。あれは契約の首輪で使い魔と契約する為のもんだ」

「・・・・・・わ、私の使い魔になってくれるの?」

「おう!」

「うわぁぁ~ん!」


 女の子は泣いた今度は嬉し泣きだ。

 目から涙が止まらずに次から次へと溢れ出る。


 錬金術士になる事を決めはしたが使い魔が見つからずに、使い魔を丸一年探し続けていた。

 同期の子達はみなすぐに使い魔を得て次のステップに進み、使い魔すら見つからない女の子は毎日のように内心焦りながら探し続けていた。

 錬金術士になるには5つの試験を突破しなければならないのだが、受けれる年齢も決まっていて失敗も基本1度しか許されない。

 女の子は使い魔が見つからずに1年を棒に振り、試験を受けれずに失敗してるのと同じ扱いだ。

 ほんとに後がなく追い詰められていた。


「もしかして、使い魔がただの猫でガッカリしたとか?」


 涙が溢れ続けて声を出そうにもうまく出てくれない。


「ちが、違います・・・・・・」

「なら良かった。俺は・・・・・・」


  同じ名前だとちょっと浮くし少し変えとくか。

  シャ・・・・・・、は古傷が痛むしやめておこう。

  そうだな、安直だが虎と次郎でトラジと名乗るとしよう。


「俺はトラジって名前だ。で、お前の名前は?」

「わ、私は、ミィナ。ミィナ・クロウディー・・・・・・です」

「ミィナ・・・・・・。いや、ご主人様だな。これからよろしくな」

「よ、よろしくです~。トラジさん」

「トラジでいいぞ」

「は、はい~」


 この時の二人はまだ知らなかった。本来あるべき関係が逆転している事に・・・・・・。

 泣き止んだミィナは、疲れ切って動けなかったトラジを背中の鞄に入れ家を目指す。

 町が近くなるとトラジの耳には動物の鳴き声が聞こえてくるようになった。それも様々な。


「こんな時間に何かあったのかな~?」


 ミィナは不思議そうに首を傾げた。


「だな。色んな動物の声がするなぁ」

「動物さんなんですか~?誰か人の言葉に聞こえますけど・・・・・・」

「ちょっと待った。人の・・・・・・、言葉・・・・・・?」


  なんだろう、スゲー嫌な予感がする。

  そういや黒猫の奴が、梟じぃとかいうのに何か頼んでたな。


「なぁ、人の言葉って言ったよな?」

「ですね~」

「分かる範囲でいいんだけど、何を言ってるのか教えてくれないか?」


 トラジは嫌な予感がしつつ、恐る恐るミィナに聞いてみる。


「えっと~。こっちにはいない!とか、こっちもだ!とか、先無しっ子どこー!ですね」

「そういう事かよ!!」

「どういう事~?」


 何が起きてるのかさっぱりなミィナに、どう告げるか迷うトラジ。


「何か分かったんですか~?」

「まぁ、大体はな・・・・・・」

「猫ちゃんなのに~、すごく頭いいんですね」


 とりあえず詳しい事や今後の事はあの黒猫の主人に話を聞く他ない。

 なので、トラジはその他のハッキリしてる部分を教える事にした。


「先無しっ子はミィナの事だよ・・・・・・」

「ん~?」


 事態についていけず疑問符を浮かべる女の子。

 さらにもう一つ告げる。


「俺が使い魔になった・・・・・・。そう思ったんだがなー。どうやら、ミィナの方が使い魔になったみたいだぞ・・・・・・?」

「ええっ~!?ど、ど、どうしたらいいんですか!」

「俺が聞きたいくらいだよ。ほんとに」


 ミィナの家には、既に何匹か使い魔らしい動物達が待ち構えていた。

 トラジには猫語しかわからないが、先無しっ子がいた!と連呼していた。

 先無しっ子の意味とか途中で教えたからか、ミィナの顔は引きつっていた。


 朝になったクオの森の前。


「んーーー!よく寝たぁ!」

「ふわぁ・・・・・・」


 女は寝てスッキリしたのだろう起きて背伸びをしていた。

 だが、対照的に黒猫は寝ないで辺りを警戒していたのだろう、眠そうに欠伸をした。


「そういや。あの猫スケには契約の首輪を教えたけど、あの娘には教えてなかったような・・・・・・?」


  まぁ、大丈夫かねぇ。両親も錬金術士だったんだし元から知ってるだろうさ。

  それより、腹も減ったし何か入れたいねぇ・・・・・・。


「よし黒猫!帰ったら飲むよ!」

「ダメです。仕事してください!」


 何も知らない女と黒猫は今日も平常運転だった。

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