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小説家になりたい!! ―呆れるほどしょうもない小説醸成術―  作者: ヤバイ物書きさん (橘樹 啓人)
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第五講 東光才人と楽しいプロット作り!

【本日の講義内容】

・ジャンルを決める

・起承転結

「師匠、今日こそは、小説の書き方、教えろください」


「教えてください、な」


 今日も今日とて、俺は颯夏を自宅に招いてしまっていた。やつが目の前に現れて以来、俺は本気で自分の作品に全く手がつけられていない状態だ。


 まあ、いい。早速、今日の講義を始めよう。


「新米。今日からプロットを作ろう」


「その、プロット……? ってよく聞くけど、俺、そんなのは作ったことないんだ」


 作ったことがない?

 俺は呆気にとられ、しばらく颯夏の顔を見つめていた。そして、颯夏は話を続ける。


「頭の中に思い浮かんだネタは、いちいち書き出さなくても忘れないんだよ。それから、行き当たりばったりだと自分でもどういう結末になるのかわからないけど、でも逆にそれが面白いからね」


 というのが、颯夏の言い分らしかった。まあ、俺も納得できるけど……プロを目指すなら、初めのうちは必要な工程かもしれないとも思う。


 プロットは、いわば小説だけでなく、創作物ならどれにでも当てはまる設計図みたいなものだ。ただ、面倒な作業として忌避する者もいる。颯夏と同じように、プロの小説家の中にも執筆するまでは思いついたストーリーをわざわざ書き起こさないという人もいるらしい。

 しかし裏返して言えば、それさえあれば行き詰まった時や矛盾点がないか不安になった時、見直すものがあるので安心だ。そういう意味でも、やっぱり必要だと俺は思っている。


「お前がそうしたいならそうすればいいけど、初心者はやっぱり書いといた方が便利だと思うぞ。それがあれば見ながら書けるから、安心だしな」


 必要性を示唆してやると、颯夏も考えたように視線を俯けて、


「じゃあ……書いてみるよ」


 と、あっさりと了承した。


 俺はB5の大学ノートと筆記用具類を取り出し、卓袱台の上に置く。ちなみにノートは今日、講義用(颯夏に対しての)に新しく購入したものだ。弟子がどんな物語を書くか、俺も記録しないといけないからな。


 これから勉強会でも始まるような態勢で、互いに向かい合う。まあ、ある種の勉強会だからあながち間違いではないか。


 さて、それでは始めるとしよう。まず、新作の企画会議からだ。


「で、新米はどんな話を書きたいんだ?」


「やっぱり、流行に乗ってファンタジーかなぁ……」


「いや、別に流行りから外れててもいいぞ。今は、練習みたいなもんだからな」


「うーん。自分のために好きな小説を書くのと、読者のために嫌いな小説を書くのと、どっちがいいんだろうね。でもまあ、どうせなら読んでもらいたいし」


 颯夏は独り言のように言った。


「……じゃあ、とりあえずファンタジーでいくとして、細かいジャンルはどうする?」


「細かいジャンルって?」


 何を言ってるかわからない、といった表情を向けてくる颯夏。自分のことなのに何も考えてなさそうな颯夏。腹立つわあ。


「いや、ファンタジーにも色々あるじゃん。異世界とか、現代とか……」


「じゃあ、異世界にする」


 俺は目の前のノートを広げると、左手でシャープペンシルを握って1ページ目に「異世界」と書き、その三文字を丸で囲む。


「んで、どんな話にする?」


 作品を書くのはあくまでも颯夏だから、俺は詳細についても質問しておく。


 颯夏はまた「うーん」と首を傾げつつ、こう答えた。


「主人公が異世界に行って、冒険するの」


「もうちょい捻ろうよ。冒険っていっても色々あるし」


 颯夏はますます難しい表情になり、腕を組んで唸り始める。ちょっとわざとらしい。


 その状態から五分くらいが経過していることに、俺は部屋の時計を目にして気づいた。


「そんなに難しく考えるほどのことか?」


「師匠が見てるから、いい案が浮かんでこないの」


 こっちのせいにされた。まあ、ずっと見てたら気になって考えがまとまらないって気持ちはわかるけどさ。……どうしたものか。


 と、不意に妙案を思いつく。


「……じゃあ、こうしよう。俺は俺で何かしておくから、その間に浮かんできたアイディアをここにまとめて、それが書けたら教えてくれ」


 俺は、広げたノートを半回転させ、颯夏の前に差し出す。彼も鞄から筆箱を出すと、ノートに何かを書き込み始めた。よし、ひとまずこれでいいだろう。


 俺は時計を一瞥すると、何かやることはないかと思案する。やはり、自分の作品の執筆作業かなと思っていると、明日のテストのことを思い出した。経験上、執筆は夜の方が捗るし、今はテスト勉強でもして時間を潰そう。スクールバッグから英単語帳を出して開く。


 しばらくすると、前から颯夏が話しかけてきた。


「師匠は、モニテの勉強?」


「まあな。時間は有効活用したいし」


 うちの高校では週に三回、朝礼の前に小テストが行われる。それを生徒たちは『モーニング・テスト』(略して『モニテ』)と呼ぶ。教科は日替わりで英語、国語、数学。いずれも20点満点。


 それだけでも厄介なのだが、もっと厄介なことがある。1教科ごとに、合格点が定められているのだ。それを下回れば、居残りで再テストを受けさせられる。しかも、合格点に届くまで永遠に。そのシステムには、「エンドレステスト」という俗称までついている。その間、対象者は帰宅できず、部活にも行けない。まさにエンドレス地獄なのである。


 俺は帰宅部だから部活への支障は気にしなくていいものの、自由を奪われるという意味では皆と同じだった。小説も書けない。だが教師からしてみれば、そんな生徒の都合など知らぬといった感じなのだ。


 しかし明日の英語は単語が中心だから、覚えればなんとかなる。だから俺は、颯夏が大まかな設定を書き終えるまでのこの時間を、有効活用しているというわけである。


 一区切りつき、単語帳を閉じて時計を見るとあれから一時間近くが経過していた。いつの間にか、颯夏の手も止まっている。彼はじっとノートに目を落としている。

 悩んでるのか? と思って、そっと声をかけてみる。


「なぁ……新米、できたのか……?」


 俺の声に反応し、颯夏も顔を上げた。


「うん、できたよ」


「言えよ!」


 俺は初めから勉強する気なんて毛頭なかったんだから、途中で声をかけられても文句は言わなかっただろう。明らかに時間の無駄じゃないか。


「だって師匠、集中してるみたいだったから、話しかけづらくて。だから、師匠が顔を上げるのを待ってたんだよ」


 申し訳なさそうに、両の眉を下げる颯夏。反省はしてるみたいだけど……。


「いや、それでも声くらいかけてほしかったわ! っていうか、俺が待ってたんだよ! お前からアクションがあるのを!」


 完全にデッドロック状態じゃないか。でもまあ、颯夏にも悪気があったわけじゃないっぽいし、これ以上とやかく言うのはよそう。


 それより、彼の考えた新作の設定が見たい。


「じゃ、ちょっとそれ、見せてくれ」


 ノートを指さしながら俺は言うと、颯夏は照れくさそうに俯きつつ、それを差し出してきた。恥ずかしがり屋さんかな?


 俺によって「異世界」と書かれた行から数行空けて、大筋というか、その物語の粗筋らしきことが数行に渡って書かれていた。




『数年前、一世を風びしたRPGゲームがあった。元ゲームユーザーの少年が偶然そのゲームを部屋で見つけ、久しぶりにプレイしようとしたら、爆発とともにゲームの中に吸い込まれてしまう。目を覚ますと、一人の少女から状況を告げられ、少年は彼女と一緒に旅をすることになる……』




 なるほど。異世界といっても、VRMMO的な物語のようだ。これだけ読むとよくある話だとも思えるが、ここからどういう冒険が展開されていくのか、ということが肝になりそうだ。


「よっし。じゃあ、これでひとまずは採用にしよう。俺もこういう話は書いたことないから、なかなか興味深いな」


「……えっ、ホント?」


 颯夏の目が一気に輝く。やっぱり、少し口は悪いけど、内面は純真無垢なのだろうか。


 ここで、ようやくプロット作りに入ることができる。


「そしたら、起承転結から考えなきゃな。創作をする上で一番と言っていいほど重要なやつだからな。結末はまだ考えてないなら、そこまで重要じゃないけど」


 自分で言っていて、「どっちやねん」と思ってしまった。セルフツッコミというやつだ。

 ネット小説といえば、わりと見切り発車で始める作者が多い印象がある。かくいう俺もそうだった。書籍化とか、出す前はあまり意識してないから、実は書き始めは結末が漠然としすぎていたりする。


「最後は一応、ゲームクリアってことになってるんだけど」


 颯夏が言う。それもそうだな、と俺も納得。


 じゃ、とりあえず一つひとつ説明していくとするか。基本的なことかもしれないけど、これを知らないとやはりいい作品は書けないもんな。


 俺はノートをこちらに引き寄せると、新しいページを開いた。そこに「起」「承」「転」「結」というワードを数行間隔で縦に書いていく。そしてまず、最初の「起」についての説明を始める。


 多くの作品でそうなのだが、この「起」には世界観の説明をするという役割がある。ここがどういう世界で、どんなキャラクターが出てくるのか。それによって、読者は大まかな設定を把握する。


 次いで、「承」は「起」で話した内容を掘り下げてさらに深く語り、物語自体にリアリティーを出す役割を持っている。


 そして最も重要なのが「転」だ。これによって、それまで単調だった話が大きく変化する。ある秘密が明らかになったり、何か事件が起きたりと、これまでの話とは想像もつかない展開を用意しなければならない。ここで、いかに読者の予想を裏切り、期待に応えることができるかが、作者の技量の見せ所でもある。


 最後、「結」は全体における一番の盛り上がりを描く。いわゆる、クライマックスというやつだ。バトルものであれば、最終決戦だったり、ボス戦だったり、かなり重要なシーンを持ってこられる。そうして決着したのち、読者に満足感を与えることもこれの目的である。


 と、そんな感じの説明をざっくりしたわけだけど、伝わっただろうか。颯夏は俺の雑な書き込みを覗きながら、しきりに頷いてくれているが、あまり伝わっていないようにも見える。


「……わかったか?」


 念のため、そうきいてみる。


「師匠は、当たり前のこと言うんだね。そんなの、誰でも知ってるよ」


 その言葉が妙に癪に障ったが、確かにそうだという気持ちもあった。でも、これができていない作家志望者は多いと聞く。まあ、こいつもわかってるのならいいか。時間を損しただけだ、ということにしておこう。軽く十分以上は喋り続けてた気がするけど、気にしない。




起:部屋を掃除していた主人公が、昔のゲームを発見する。


承:久々にプレイしてみようと思い、それをテレビにセットする。


転:プレイ開始後、急に画面が切り替わり、テレビが爆発する。

  気がつくとどこかの森に倒れている。


結:目の前に現れた一人の少女からこの世界の危機を告げられ、二人は一緒に旅をすることになる。




 これは颯夏の書いた、冒頭場面の起承転結である。この先の出来事は追々決めていくとして、プロットの作成はこんな感じで進めることになった。


 今はまだ、長い道のりをやっと一歩踏み出したくらいだろうけど、基本はやっぱり大切だし、まだそんなに焦る必要もない。でも、いつか、新米颯夏を小説家としてデビューさせたい、という願望が俺の中に確かに芽吹いていることに、ようやく気づき始めたのかもしれない。

【まとめ】

プロットはあると便利。

起承転結は小説の基本的な書き方。「起」では世界観を説明し、「起」で話した内容を「承」で深掘りし、「転」では事件を描き、「結」では一番の盛り上がりを描く。


ようやくノウハウ的なことが書けた!! ……って言っても、毎回こんな感じじゃないと思うんですけどね。

また、馴れないうちは「起承転結」を意識して書いた方がいいかもしれません。



【用語解説】

・左手:才人は左利きです。

・デッドロック:互いに相手のデータを要求し、永遠に待っているという意味の情報専門用語。中二病が好きそうなワードの一つ。知らんけど。

・風び:「靡」という漢字が難しいので、颯夏は書けなかったのです。そんなところでもリアルさを出せるなんて、さすが私。

・VRMMO:小説のジャンルの一つ。「ゲーム世界に入って冒険する」というような解釈で、ここでは使用しています。因みに、仮想現実大規模多人数オンライン(Virtual Reality Massively Multiplayer Online)の略らしいです。(出典:ニコニコ大百科)

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