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小説家になりたい!! ―呆れるほどしょうもない小説醸成術―  作者: ヤバイ物書きさん (橘樹 啓人)
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第二十七講 料理シーンは入れすぎると作品を激マズくする究極のスパイス!?

【本日の講義内容】

・料理シーン

「師匠、今日は料理しよう!」


 部屋に来てすぐ、颯夏が言い出した。


「急すぎるだろ、なんでいきなり料理なんだよ」


 もうすっかり馴れてしまってあまり驚かないけど、一応きいておく。


「昨日、料理シーンを書こうと思って、でもあんまり上手く書けなかったんだよね。だから、実際に料理してみて、突破口を見つけようってワケ」


「いや描写したいだけなら、実際に料理する必要ないだろ」


「取材だよ。やってみないとわからないこともあるかもしれないよ?」


 これも、こいつなりの「創作術を磨く方法」なのかもしれない。トライ・アンド・トライだな。それなら、俺も付き合ってやってもいいかなと思う。


「わかった。じゃ、ちょっとだけだぞ」


「さっすが師匠!」


 最近、その日のメニューを考えるのが俺じゃなくて弟子の颯夏になってきているような気がしないでもないけど、深くは考えないでおこう。


 かくして、俺と颯夏は台所に移動した。今日も母は夜中まで帰らないだろうから、好き勝手に使える。


 家庭科用のエプロンを腰に巻き、キッチンに並ぶ。颯夏には、俺が中学の時まで使っていたエプロンを貸してやった。彼の身長は中学の頃の俺と一緒くらいなので、サイズ的にちょうどよかった。


 問題は、何を作るか、だ。料理と言っても色々ある。料理シーンは確かに、挿入すると作品がまろやかになる最強のスパイスと言っていいかもしれない。あと、普段の描写では忘れがちな「におい」に関する表現力も高まるかもしれない。料理といえば、においだからな。


 何かいい具材は残っていないかと、戸棚を開けて中を物色する。

 シンプルにカレーでも作るかと思ってルウを探すが、生憎切らしてしまっているみたいだ。そういや、数日前にカレー作ったっけ。


「師匠、何してるの?」


 颯夏が俺の後ろから、戸棚の中を覗きながら言う。


「カレーにしようかと思ったんだけど、ルウが切れちゃってるみたいでさ……」


「じゃあ、ルウの入ってないカレーは?」


「ルウの入ってないカレーなんか、もう完全にポトフじゃねーか!」


 ……ん? ポトフ?


 よし、決めた。コンソメならまだ残りがあったはずだ!


 こうして、一通り材料は揃った。ジャガイモ、ニンジン、タマネギ、固形コンソメ。それと、冷蔵庫の中に眠っていた賞味期限ギリギリのソーセージ数本。カレーの材料で家になかったのはルウだけだったようだ。


 料理法は、まあ大体わかるけど、ここで最新技術(当時)であるスマホの出番だ。俺は作り方をネットで検索し、それを口頭で颯夏に教える。基本は颯夏が作って、横で俺が手助けする……という流れになった。


「じゃあ、まずタマネギ切って」


「はーい」


 颯夏は元気よく、包丁を構えた。そして指を伸ばしたまま、タマネギを支えたのだ。

「こわっ」と思わず声を出してしまった、俺。


「いやいやいやいや、待て待て待て。お前、料理したことある? 猫の手っていうだろ」


 そう言ったら、颯夏は馬鹿にしたように笑った。


「師匠って馬鹿だね。人の手は人の手だよ」


「馬鹿はおどれや」


 俺は颯夏から包丁を奪い取ると、「猫の手」をしてみせた。親指を掌の下に潜ませて、残りの四本の指をすべて折りたたみ、切られる野菜を俎板の上で動かないようにしっかり固定する。これが「猫の手」だと教えてやると、颯夏は「なるほど」と言って、感心していた。こいつ、人生で一度も料理したことないのかな? なんとなく怖いからきかないけど。


 まあ、考えようによっては、「料理ができないヒロイン」という構想が俺の中で広がったからいいか。「猫の手」も知らないヒロイン、なかなか可愛いじゃないか。


 颯夏だけでは危ないので、俺も切るのを手伝い、煮る段階になった。まずは鍋に油を敷いてソーセージを炒め、次に水とコンソメを加えて野菜と一緒に煮詰める。


「これで完成?」


 颯夏は鍋にじっと目を凝らしつつ、尋ねた。


「まだだ、あともうちょっと煮るからな」


 そこでふと、俺はある案を思いつく。ここまで来たら、もう颯夏もわかるだろう。味付けは最終段階でやるから、しばらくは颯夏に煮えすぎないように鍋を監視してもらって、俺はその間に二階の自室に戻って執筆の続きをするというものだ。


 俺にも、俺の都合がある。というわけで、そのことを颯夏に伝える。


「新米。俺、ちょっと部屋戻ってるから、二十分くらい経って戻ってこなかったら呼びに来てくれ。俺もできるだけ、すぐ来るようにするからさ」


「オッケイ」


 颯夏は快く了承してくれた。


 言ってから、本当に大丈夫かと気になったが、多少煮崩れたとしても特に問題はない。味をつけてしまえば、大きな差異はないだろうから。


 俺はキッチンに颯夏を残し、二階へ上がった。自分の机に向かい、パソコンを開いて今日の分の執筆に取りかかる。


 そうして一段落ついて顔を上げ、時計を見ると、俺は若干後悔した。よっぽど集中していたらしく、あれから一時間近くも経っていたのだ。

 しまった。颯夏は大丈夫だろうか? というか、呼びに来いって言ったのに。


 俺は部屋を飛び出し、急いで一階に駆け下りた。リビングのドアを開けると、すぐに異変に気づく。なんか焦げ臭い匂いが、鼻をついたのだ。


 キッチンでは、颯夏が意気揚々と菜箸で鍋の中を突っつき回している。


「おい、大丈夫か?」


 颯夏のところへ駆け寄ると、俺は鍋の中を覗き込んだ。そこには、ドス黒い液体の中で踊るように煮えている野菜たちの姿があった。


 真っ黒。しかし、焦げているわけではないみたいだ。しかも妙に臭い。どこかで嗅いだことのある、刺激の強い匂いがキッチンに充満している。

 俺は換気扇を「強」にし、颯夏を問い詰めた。


「お前、何入れたんだ?」


「えへへっ、何だと思う?」


 颯夏は、勿体ぶるように問い返してくる。だが、色々匂いが混ざりすぎててわからない。


 この色は……醤油? いや、それにしては匂いがきつすぎる。多分、洋食用のソースか何かだな……。


「まさか……焼きそばソースとか?」


「オシイ!」


「惜しいも何も、レシピにそんなこと書いてあったか?」


「俺のオリジナルの味付け」


「だから、何入れたんだよ!」


「正解は、コチラ!」


 颯夏はエプロンのポケットから、あるものを取り出した。それがあの色の正体らしい。

 俺はじっとやつの手の動きに注目した。そして出てきたのは……。


 ……まさかのウ◯ターソース。


「アフォか! なんでそういう余計なことするんだよ!」


 俺が怒ったのがそんなに予想外だったのか、颯夏は心持ち凹んだように、先ほどよりも張りのなくなった声で、こう言い訳した。


「だって……、隠し味入れた方が料理してる感あるじゃん」


「隠れてねーよ! むしろ丸見えだっつーの!!」


「師匠、怒りすぎ」


「そりゃ怒るわ! ちょっと目を離した隙にこんなことになってたら! そこんとこどうなんだよ、おう?」


 俺が脅嚇してみせると、颯夏は腕を組んで考える素振りを見せつつ、舌を出してこう言うのだった。


「うーん……テヘペロ☆」


「うっせーよ!」


 こいつを相手にすると、こうも疲れるのか、……今に始まったことじゃないけど。


「でも、せっかく作ったんだし、とりあえず味見してみてよ」


 俺の小言を悉く受け流し、それだけでなく颯夏は子供みたいな目をいっそう輝かせながら、俺に味見を勧めてくる。しかしそれを見ていると、俺も何故だか断わりにくくなる。

 仕方なく、レードルでその黒い液体を小皿に少し注いで、意を決してすする。


 結論からいうと、ソースの味しかしない。そして辛い。お世辞にも、「美味い」とは言い難い代物であった。


「美味しくない」


「それは、美味しいの裏返しってこと?」


「いや、そのまんまだ。作り直しだな、これは」


「え〜。だって、せっかく作ったのに〜」


「お前がいらんことするからだろ!」


 しかしながら、全部捨てるのも勿体ないので、鍋ごと冷蔵庫に入れておいた。あとで母親が帰ってきたら食べさせよう。母は疲れると味がわからなくなるのだ。


 その後、別の鍋を用意して、今度は俺も一緒にポトフを作ることになった。次はしっかりとやつを見張っておかなくてはいけない。


「そういえば、お前はさっきの、味見したの?」


「してないよ」


「人にだけさせるな!」


 こいつ絶対、不味いの知ってて俺に食わせただろ。


 今日の一件で、一つだけわかったことがある。小説に料理シーンはあってもいいと思うが、入れすぎると作品自体がまずくなる恐れがある、ということだ。書きながらバランスを調整しつつ、程よい量を探し出して作品を美味しくすることが大切だと思う。

【まとめ】

料理シーンは入れすぎるとこうなります。



【用語解説】

・彼の身長は中学の頃の俺と一緒くらい:颯夏と才人の身長差は結構あります。この設定、描写しましたっけ?

・おどれ:「お前」という意味。

・「猫の手」も知らないヒロイン、なかなか可愛いじゃないか:偏見だと思うけど、わかる人いない?

・当時:いつやねん。

・アフォ:アホと同義。

・テヘペロ☆:もはや死語。

・レードル:お玉と同義。

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