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小説家になりたい!! ―呆れるほどしょうもない小説醸成術―  作者: ヤバイ物書きさん (橘樹 啓人)
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第十六講 キャラクターと弁当

【本日の講義内容】

・キャラクターの重要性

 俺、東光才人は毎朝、弁当は自分で拵えることにしている。アパレル業界で働いている母親は夜中に帰ってくることが多く、朝にはまだ寝ているのだ。


 母親が脱ぎ散らかした服をまたいで台所へ行き、冷凍庫の中から適当なパックを選び、あとは電子レンジでチンするだけだ。手抜きとは言ってはいけない。自分で拵えるとは言ったが、誰も料理するなんて言ってない。


 ご飯と主菜を弁当箱に詰めると、冷蔵庫を開けて中から透明なボウルを取り出し、その中のレタスも一緒に詰めておく。適度に野菜を摂取することも忘れてはいない。俺ってえらい。


 弁当が出来上がると客間に行き、線香を上げる余裕はないので、兄の位牌の前で形だけ手を合わせておく。

 よし、これで俺の毎朝のルーティンはすべて完了だ。弁当を突っ込んだスクールバッグを肩にかけ、勢いよくドアを開けて戸締まりをし、駅へと向かう。


 冷凍品とはいえども、今日の主菜は好物の唐揚げだから昼食時が楽しみだ。どうも俺はひねくれたところがあるらしく、ちょっとしたことでテンションが上がるのだ。だが、それが悪いことだとは思わない。俺は今から昼休みに思いを馳せつつ、駅まで揚々と走るのだった。



 ということで、昼休みになりました。今日の午前も授業は平常運転、特にこれといって珍事じみたことはなかった。強いて言うなら、四限の体育でバスケの試合中、クラスのやつが何もないところですっ転んで、右足の小指を骨折したということくらいだ。


 俺は体操着袋を持って、教室に戻った。俺が一番らしく、まだ教室には誰も帰ってきていなかった。自分用のロッカーに体操着を放り込み、空っぽの教室に入る。


 腹が鳴る。さすがに前の授業が体育だと、腹の虫がうるさい。一足先に、食ってるか。俺は空腹に我慢できず、他のやつらが戻ってくる前に飯に移行しようと、自席に戻ろうとした。

 すると廊下から、誰かの話し声が響いてきた。それは瞬く間に、内容が聞き取れるほど近くなってくる。というか、丸聞こえであった。


「ね〜、それ何のオマケ?」


「大吉レストラン」


「わあ〜、ちょー可愛い――――!」


 聞こえるなという方に無理がある。


 あの金切り声は……きっと同じクラスの女子たちだろう。案の定、その後すぐに教室に顔を出したのは、クラスメイトの――御代みしろ早久さくきょう実菜子みなこの二人であった。


「あれ? 東光くん、一人!?」


 早速、御代が大声で尋ねてきた。御代は低身長で、髪を両肩の上でバッサリとボブカットにしている。


「おう、なんかみんな、まだ着替えてるみたいでさ」


 御代の声の大きさにやや圧されながらも、俺は男子としての威厳を保持すべく、普通の声量で返す。


 もう一人の女子、郷は御代とは反対に女子としては高身長で、すらりと足が長い。スカートの裾を折っているのがまた、膝上の腿が見えていてどこかエロい。何見てんだ、俺。

 今度はその郷が、俺に話しかけてくる。


「そういえば、東光くんって小説家なんでしょう?」


 俺が普段、話したことないやつから声をかけられる時は十中八九、この話題に尽きる。それも一学期終盤とあって、もう馴れてしまった。この女も、俺が小説家であることを聞き及んでいるのだ。


「えっ、そーなの!? もしかして、プロの!?」


 御代はまだ知らないのか、目をパッチリと開いて俺を凝視する。なんか、やりづらい。


「そうだよ。なんかね、出版社から出してるんだって。私は興味ないけど」


 郷は恬淡な口調で説明するが、最後の一言は余計だったな。面と向かってそんなことを言われようとは、ついぞ思いもしなかった。あと、思っていてもそれを本人の前で言うか? という思いもあった。

 だが、御代の方は興味津々に目を輝かせ、俺を見つめたままコチラへ詰め寄らんばかりの声で尋ねてきた。


「ねえ、じゃあ、東光くん、どんな小説書いてるの――――――――!!?」


「うるっせーよ、お前は! 聞こえてるっつーの!」


「ごめんごめん! でもなんか、気になっちゃって!!」


 注意しても、御代は音量を下げようとしない。一体どこから声を出しているのか、ききたくなるくらいだ。


 それはさておき、俺の小説に興味を持ってくれるのは素直に嬉しい。ここは、読者を増やす絶好のチャンスかもしれない。俺は作者として、あえて嬉しさをおくびにも出さず、ことさらに冷静を装いながら、答えた。


「そうだな、やっぱりファンタジー系が多いかな。異世界モノとか」


「イセカイモノ? 何それ、ウケるうぅ――――――――――――!!」


「だから、うっせーよ!」


 お話にならない。そして、俺はなんとなく察してしまった。こいつも全然本を読まない種類の人間なんだな。悲しいことに。


「ねえ、そろそろお昼買いに行こうよ」


 俺の小説に興味のない郷実菜子が言った。御代も「そうだね」と頷き、二人も各々のロッカーに体操着袋を入れると、再び去っていった。俺はまた一人、部屋に取り残されてしまった。



 数分もしたら、教室は再び騒がしくなる。目の前には、雑にナフキンで包装された弁当箱が置かれてある。さっきの一件で、俺の食欲は失せてしまった。俺は、ちょっとしたことでテンションが上がる反面、ちょっとしたことで落ち込むくせがあるみたいだ。あの女子共、許さん。

 と思っていると、後ろから声がかけられた。


「東光くん、今日も一人?」


 振り返る間もなく、古代が俺のそばを通り過ぎるや、前の席に着席した。


「も、で悪かったな」


 俺ははからずも、憮然とした態度をとってしまう。そんな俺を見ても古代は気にする素振りを一切見せず、こう切り出した。


「今日は颯夏くんと一緒じゃないんだ?」


「なんで、俺とあいつがセットみたいな言い方するんだ」


「だって、いつも一緒にいるから」


「そんなにいるか? いや、まあ、学校ではよく会うけど……」


「会う」というよりも「絡まれる」と表現した方がこの場合、適切かもしれない。俺が会いに行くわけじゃなく、あっちが勝手に寄ってくるのだ。


 俺は内心、ひどく嘆息したが、ようやく昼飯を食べようと思い直し、弁当に手を出した直後――。


「しっしょー!」


 場違いなほど溌剌とした中性的な声が、背後から飛んできた。


「ひぃっ!」


 びっくりして弁当箱を机から落としかけるも、咄嗟に手を伸ばしてそれを受け止める。

 ……せ、セーフ!


 振り返れば、案の定、やつがいる。


 颯夏は満面の笑みで、こちらに歩み寄ってきた。マジでこいつ、名前を出したら登場するのか? 名前を口にして現れなかった例が、これまでにないように思うんですが?

 颯夏の特性、ユニークスキル『噂をすれば必ず目の前に現れる』だ。


 困惑する俺を颯夏は無視しつつ、俺の隣の席から勝手に椅子を引きずり出すと、俺の席の脇に置いて、そこに腰かける。まったく、図々しいやつだ。


「師匠は、今日は唐揚げ?」


 颯夏がきいてくる。が、俺はまだ包みを解いていない。


「鼻いいな、お前」


 俺はやつを気にせず、ナフキンを広げて箱のフタをとった。あらわになった弁当には、雑に詰め込まれて萎びてしまった唐揚げが数個あった。


 いただきます、と心の中で手を合わせ、それを箸で突こうとしたら、頻りに視線を感じるので、顔を上げると颯夏がこちらをガン見しているのであった。いや、正確に言おう。颯夏は、俺の弁当の中身に興味津々だった。


「お前、もう弁当食ったのか?」


「食べたよ。でも、物足りないから」


 なるほど、「物足りないからもっとくれ」と遠まわしに言っているのだ。何故か最近、颯夏の考えていることがわかるようになってきてしまった。わかりたくもないのに。


 ここで、俺は咄嗟に妙案を思いついた。


「よし、1つの質問につき一個だ」


 颯夏はふと顔を上げた。構わず、俺は続ける。


「最近、創作のことで困ってることはないか? あるなら、俺が今ここで講義してやろう。お前がそれをおとなしく聞いていれば、これをやる」


 俺は、箸で一個の唐揚げを突いてみせる。


「あ、さすが東光くん。面白いこと考えるね!」


 古代も振り返り、口を挟んでくる。何も考えてないな、この人。まあ、いい。

 どんな質問が来ようとも、俺が的確なアドバイスをしてやろうではないか。かかってこい。と、心中で身構えていると、颯夏は即座に口を開いた。


「師匠。読みにくいキャラ名についてどう思う?」


「は?」


 リアルに、頓狂な声を上げてしまった。


 颯夏の話の聞くと、応募用に書いた新作を知人に読ませてみたら、どうもそこに出てくる「すもも」というキャラが初め中国人だと思われたらしい。理由は、「」=「中国人の名字」というイメージがあったからだという。

 しかし、颯夏は納得がいかないみたいだった。


「普通さ、三人称とはいえ、ラノベでヒロインの名前を名字で記載する人っている? しかも日本が舞台なのに中国人とか、読解力なさすぎじゃね?」


 颯夏は不機嫌そうな顔を隠さず、そうまくし立てる。かなり怒っているようだ。ただ、俺も校正のために読んでいて、ちょっと読みにくいな、とは思った。中国人とは思わなかったけど。


「まあ、読みにくいかそうでないかを決めるのは読者だからなあ、なんとも……」


 と、つい曖昧な言葉を返してしまう。さっきまでの意気込みは何だったのか。


 颯夏は頬を膨らませながら、さらに言い募る。


「でも、出版後に振り仮名振るならいいじゃん」


「うん、まあな。でも、いちいち振ってると時間かかるぞ?」


「そうね。出版社の人に迷惑かかっちゃうもんね」


 またまた、俺らの会話に割って入るように、前方から古代ふるよ瑠美衣るびいが言った。

 それも無視して、颯夏は開き直ったように、


「だけど、キャラってあんまり重要じゃないと思うんだ。俺の作品の場合はね。それよりも、ストーリーとか文章に力を入れた方がいい気がする」


「でもそれだと、キャラに魅力が……」


「キャラに魅力なんていらないんだよ! 話が面白かったらいいの!」


 なんでこのタイミングでの逆ギレなのか、さっぱりわからん。しかし、ライトノベルは別名『キャラクター小説』とも呼ばれており、キャラクターは作品を通してかなり大事な要素だと一般的には言われる。


 ラノベに必要な四大要素、すなわち『テーマ』『世界観』『ストーリー』と同じくらい重要なのが『キャラクター』なのだ。

 それを是非ともこの子にわからせてやりたいのだが、どうしたらいいものか。


 その時、俺は不意にまたいいことを閃き、颯夏に再び弁当の中を示した。


「颯夏、いいこと教えてやろう」


 俺は颯夏の売り文句を盗み、一枚のレタスを箸でつまみ上げながら、続けた。


「この弁当箱が、世界観だとしよう。そして、このレタスがストーリーだと思ってくれ」


 颯夏は、なんのこっちゃわからないという顔をしていたが、特に言葉を返してはこなかった。


 次に、レタスを離して一個の唐揚げを箸で挟み込む。


「この唐揚げがキャラクターだ。もしもこれがなくて、レタスだけだったら、この弁当は弁当の意義をなさなくなる。つまり、一気に味気なくなっちゃうわけだ」


「ところで、その唐揚げ、いつくれるの?」


 颯夏はあまり聞いていないみたいだった。うまい例えだと思ったんだけどなあ……。


 しかし。


「要するに、キャラが欠けるとその分、物語に味がなくなるってことだね!」


 幸い、主眼とすべき点については伝わっていたらしい。まさかキャラの名前からこんな話に発展するとは、自分でも少々驚いている。


「それでだな……」


 と言いつつ、俺はまた弁当箱に視線を落とすと、ある異変に気づいた。1つ減ってる……?


 恐る恐る横目で颯夏を見ると、やつが上を向いて、手で掴んだ「俺の唐揚げ」を食っていた。


「まだ許可してねーだろ、ボケ!」


 俺が怒鳴るや、颯夏は素早く立ち上がって椅子を元の場所に戻し、脱兎の如き身のこなしで、そそくさと教室を出ていった。


 あいつ……。怒り心頭に発した俺は、睨むようにしてやつの後ろ姿を目で追った。まだ話したいことがあったのに、それすらも消し飛んでしまった。

 しかし、まあ、言いたいことは伝わったようなので、今回は特例として許してやらなくもない。次やったら、くすぐりの刑に処してやろう。

【まとめ】

キャラ名が読みにくいかどうかは正直読者次第なので、あまり気にしないようにしましょう。(あまりにも突飛なものでなければ……)

キャラクターは結構重要な要素。



【用語解説】

・登場人物名:ダジャレ。

・御代早久:こういう声の音量が無駄に大きい女子、クラスに何人かいました。

・ラノベに必要な四大要素:第十一講参照。

・隣の席から勝手に椅子を引きずり出す:やる人よくいるんですよね。特に女子。

・「李」というキャラが中国人だと間違われた:本当にあった話。反論しましたが、結局漢字だけを変更することにしました。宜しければ、『ツンデレ男子』とタイトルの頭にある作品を参照してください。(宣伝)

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