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小説家になりたい!! ―呆れるほどしょうもない小説醸成術―  作者: ヤバイ物書きさん (橘樹 啓人)
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第十五講 口語と若者言葉

【本日の講義内容】

・推敲の大切さ

・文語(書き言葉)と口語(話し言葉)

・若者言葉

 六月下旬、今日はこの時期にしてはくそ暑い真夏日。日曜日ということが幸いだった。だが俺の場合は、残念ながら最高の休日とは言えなかった。

 ……そう、あやつが来るのだ。それも、朝の十時から。毎度のことだけど、ちょっとばかし気が重い。


 俺は颯夏が訪問してくるまでの間、あいつに買わされた本をテーブルに並べて整理していた。ちなみに、立て替えさせられた金は今日返済してもらえることになっている。


 それにしても、この作品群。

『二四郎』、『銀閣寺』、『伊勢の踊り子』……俺がリストアップした本が一つもない。あいつはやっぱり、ラノベよりも純文学の方を読みたいのか。……じゃあ純文学作家になれよって感じだけど、本人曰く、純文学を書く技量がないからラノベを書いてるんだと。


 その時、ブーンという振動音が鳴り、俺は卓袱台の上の携帯に目を移す。携帯と言っても、一般的にスマートフォンと呼ばれるやつだ。周りを見ればまだクラスの半分ほどがガラケーを使っているのだが、「流行に取り残される!」とか言って母親が奮発し、高校生活初のテストが終わってすぐに買ってくれたのだった。別に使えれば何でもいいと思うのだがな。


 そこに、颯夏の名前も登録されている。やつはまだガラケーみたいだが。俺はまだ馴れない指使いで待ち受けのロックを解除すると、メールフォルダにメールが届いていた。

 開くと、


『いま、師匠の家の前にいるよ!』


「メリーさんかよ!」


 俺はスマホを卓袱台の上に戻し、急いで部屋を飛び出した。


 玄関のドアを開くと、そこにいたのは……。


「おはよう、東光くん」


「は? なんで、お前が……?」


 古代が私服姿で、にっこりと微笑みながら玄関の前に立っていた。確か、あれは颯夏からのメールだったはずなのに、よくわからない。


 俺が首を傾げていると、開いたドアの裏からひょっこりと颯夏が顔を出した。


「師匠、どう? びっくりした?」


「何してんだよ、なんでさっさと呼び鈴を押さない?」


「だって、師匠が面白くないから」


「意味がわからん! 意味がわからんと言えば、なんで古代までいるんだよ!」


「それだけど、さっき颯夏くんと駅で会ったの。それで、東光くんの家に行くって言うから、ついてきちゃった」


 どうして古代がここに来たのかという謎は解けたが、あまり解決にはなっていない。一人、ただお客が増えただけだ。颯夏も勝手に連れてくるなよ。この後、あいつも来るのに……。

 しかし、ここで追い返すのも引け目を感じるし、ひとまず招き入れることにする。


「まあ、上がれよ」


 俺は二人を促し、家に上げた。


 今日は颯夏の頼みで、応募用の原稿を読むことになっている。この短期間で、颯夏は最後のシーンまで一通り執筆し終えたらしい。あとは推敲して、誤字や矛盾点を見つけるだけだそうだ。やはり、やればできる子だと思う。


「じゃ、とりあえず、その原稿とやらを見せてくれ」


 彼らを部屋に通した後、俺は早速そう言った。

 颯夏は恥ずかしげに頬を少しばかり染め、鞄からA4用紙の束を出す。それを差し出され、受け取るとそれなりの重量がある。……ざっと100枚くらいか。

 彼の隣に座っていた古代も、興味津々に首を動かしてその様子を見ている。


「颯夏くん、どこかの賞に出すの?」


「そうだよ。ネットにいる、タイトルだけで内容を判断するクソ読者と違って、基本的に最後まで読んでもらえるからね」


 またそんなことを言う。まあ、よっぽど悔しかったんだろうな。その悔しさは残念なことに俺にもわかるから、あまりぐちゃぐちゃ言えないんだけど。


 それでも颯夏の発言に内心げんなりしつつ、俺は目前の原稿に目を通し始めた。しかし一分ほどして、またチャイムの音が聞こえた。


 ……来た!

 俺は「悪い」そう一言言うと、再び部屋を出て一階に駆け下りた。玄関のドアを開けると、前に立っていたやつに俺は、笑いかけた。


「よく来たな。上がれよ」


 地味な服装の史真奈夫は、無表情、無言でこくりと頷いた。


 颯夏を家に呼ぶついでに、真奈夫にも声をかけておいたのだ。いつか互いの作家論をぶつけ合いたいと思っていた矢先だったから、この機会に誘ったというわけだ。真奈夫も嫌がることなくOKしてくれたから、俺としては有り難い限りだった。


 真奈夫を連れて二階へ上がると、颯夏と古代は二人そろって目を丸くした。こいつらは知らないだろうな。古代は別として、颯夏にも言っていなかったのだから。それに、真奈夫がここへ来ること自体、意外なことだろうと思う。俺も、誘う前は絶対に断られると思ってたし。ダメ元でも、言ってみるものだな。


「俺、実は今、颯夏の原稿チェックしてんだよ。だから、もうちょっと待っててくれ。何なら、その辺から適当に何か取って読んでくれててもいいぞ」


 部屋の本棚を指しながら、俺は真奈夫に言った。

 せっかく来てもらったのに悪いとは思いながらも、颯夏との約束も果たさないといけない。しかし、真奈夫は意外な反応を示した。


「ボクも、彼の原稿を読みたいな」


 落ち着いているが、相変わらず口調が堅い。


「えっ、マジ? それだったら大助かりなんだけど」


「もうちょっと」とは言ったものの、やはり一人で100枚ものワープロ原稿を読むとなるとかなりの時間を要することは明白である。真奈夫が手伝ってくれるなら、だいぶ有り難い。


「あ! じゃ、私も読む!」


 ここぞとばかりに古代も手を挙げ、「読みたい」アピールをしてきた。


 というわけで、三人で颯夏の原稿を読み、修正箇所を洗い出していくという流れになった。


 最初に気になる点を見つけたのは、真奈夫だった。彼が示したところには、「大河(主人公)は何気に歩を進めた」とあった。

 それを見た颯夏は、


「どこがおかしいの?」


 と、小首をかしげる。だが、俺もすぐに気がついた。


「何気に、っていうのは口語だろ? 地の文で使うのは、少し違和感がある」


「そうなの? 私もよく使うんだけどなぁ」


 古代も言うが、まあ確かに口語は普段喋ってる言葉だから、なかなか気づきにくいものかもしれない。一人称のラノベであれば、多少の口語は許されるだろう。しかし颯夏が書いているのは三人称なので、どうしても違和感が先に出てきてしまう。


 颯夏にそれを指摘したところ、


「俺、ずっと正しい日本語かと思ってた」


 と言う。やはり、口語と文語の区別がついていないようだ。ただ、例に上がった「何気に」のように、本来の日本語としては間違っているものもあるから、気をつけた方がいいだろう。よって、「何気なく」が正解だ。


 そんでもって、他にもないかと探してみたら、指摘箇所が口語だけでもわんさか出てきた。それらを期日までに修正してくるように、と宿題を出したら颯夏はあからさまに嫌そうな顔をしたが、最終的には渋々ながらも頷いていた。


 これは余談だが、台詞を書く時なども、必ずしも口語でいいとは限らない。普段使っている話し言葉をそのまま書くと、それはそれで読みにくくなるのだ。かと言って文語で書くと今度は堅苦しくなるので、口語を意識しつつ、「ある程度読みやすく」することが大事なのだ。


 自分で推敲するだけでは、なかなか気づかないこともあるものだ。他人に見てもらう、ってことも重要かもしれない。



 颯夏と古代は一緒に帰り、その後に真奈夫も帰っていった。俺が見送りに出ると、真奈夫にこんなことを言われた。


「いつも、あんな感じでやっているんだね。少し、羨ましいな」


「そんなら、いつでも来ていいぞ。まあ、しょっちゅう来られたらそれはそれで迷惑だけど」


 真奈夫は微笑しつつ、本当に羨ましそうな視線を俺に向けてきた。


 そして、


「じゃあ、また」と背を向け、歩いていった。


 出会った頃は色々あったが、最近はかなり仲良くなってきていると実感する。

 やっぱり、同人誌とか、一緒に出せたらいいなあ。そんなことを思いながら、俺は真奈夫の後影を見送っていた。


 ……あっ。颯夏に金返してもらうの、忘れてた。




※おまけ


 ここで、代表的な口語を紹介しておく。



・「い抜き言葉」

「〜している」と書くところを「〜してる」と書くのは、文章としてはあまり相応しくないと言われる。台詞で書く場合はあまり問題ないが、たとえ一人称作品であっても、地の文で多用するのは控えたい。



・「ら抜き言葉」

 こちらも上記と同様、多用してしまいがちな表現だ。だが、これも話し言葉としてならアリだが、地の文で書く時は気をつけよう。



・「〜けど」

 これが一番有名な「文語と思われがちな口語」ではないだろうか。「〜ものの」が正しい文語らしい。



・「全然〇〇」

 近年は肯定の意味としても使われるが、本来は否定の意味で使うのが正しい。わかってると思うけど(口語)。



・「そんでもって」

「それで」の軽い表現。さっき使っちゃった。




 続いて、「若者言葉」と呼ばれるものについても記しておこう。若者言葉の多用(特に地の文で)も、あまり読者にいい印象を与えないことがあるので、気をつけたい。

 代表的なものをいくつか書き出してみる。



・「何気に」

 前述の通り、「何気なく」が正しい日本語である。



・「地味に」

 上記とほぼ同じ意味で使われる表現。



・「ディスる」

 代表的な若者言葉。もともとはネット用語。語源は「ディスリスペクト」から。



・「わんさか」

 人や物がたくさんあること。さっき使っちゃった。




 ついでに、いらない気もするが、「標準語かと思いがちな関西弁」についても紹介しよう。



・「こける」

 正しくは「転ぶ」。



・「しんどい」

「疲れた」「だるい」という意味合いで使われる。



・「こそばい」「こしょばい」

「くすぐったい」が正しい標準語。



・「大学◯回生」

 おそらく関西の人にしか通じない。




 ……色々書いてみたものの、まあ、多少は使っても全然問題ないのだが。そこは作者の判断次第ということだろう。

【まとめ】

自分で読み返しただけでは口語と文語の違いがわかりにくいこともあるので、公募に出す場合も応募前に誰かに読んでもらうことがオススメです。



【用語解説】

・颯夏の買った作品名:ツッコまないで。

・メリーさん:都市伝説の人。

・い抜き言葉:第八講も参照。

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