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笑う人体模型 1

私が情けなく気を失い、そして目が覚めた時にはもう日は傾いていた。彼女の方を見やるとくすくすと笑ってこちらに駆け寄ってくる。


「やっぱり貴方の恐怖心は最高よ。……それにしても、本当に退魔師には向いてないわよ。私より見た目が恐ろしい怪異なんていくらでもいるわ。」


「……面目ない。」


返す言葉もなく苦笑する。確かに私は怖がりで退魔師というのも親の跡を継いだだけだ。


私の表情が曇ったのを感じ取ると、彼女はフォローするように微笑む。


「退魔師の恐怖心なんて滅多に食べられるものでは無いわ。それに貴方は私だけのもの。他の怪異には指一本触れさせるつもりなんてないの。安心なさい。」


そして整った顔をこちらにずい、と近付ける。こうして見ると相当な美人なのだが、時折この世のものとは思えない凄まじい顔をするため気が気でない。


事務所で二人、そうして騒いでいると扉を叩く音がそれを遮った。


「ようこそ、影崎退魔事務所へ。」


彼女はまるで、創立から携わる人間のようにドアを開いて挨拶をした。そこに立っていたのは、スーツを着た中年男性だった。



✕✕✕✕



「夜な夜な人体模型が徘徊する……?」


彼の職業は小学校の教員である。青い顔をした彼はしきりに額の汗を拭い、今起こっている現象の説明をする。


「はい、最初は子供たちが好きそうな七不思議に尾ひれが付いたものかと……しかし最近は実害が出ているんです。宿直の先生が後ろから殴られて怪我をしたり、昼間なのに首を絞められたと証言する子供も……」


縋るような目で、私たちを見る。コトリバコは相槌を打ちながら考え込んでいるようだ。


「しかし人体模型が動いているとどうやって突き止めたのですか?普通なら不審者が入り込んでいる可能性の方を先に想定しそうなものですが……」


私の問い掛けに頷くと、彼はカバンからスマートフォンを取り出す。


それを見たコトリバコは見慣れないテクノロジーに興奮しているような様子だったが、小声で大人しくしているように頼んだ。


「監視カメラのデータを仕事用のスマホに保存して来ましたので、こちらをご覧頂ければ……」


映し出されたのは薄暗い廊下。すると奥から車輪が転がるような音と共に人体模型が現れた。


それだけではない。人体模型は監視カメラの方に首を曲げ、笑うように頭を震わせたのだ。


その恐ろしい風貌に思わず気を失いそうになるが、横にいた彼女が太ももをつねってくれたお陰でどうにか乗り越えられた。


「……行ってみる必要がありそうですね。」


私は覚悟を決め、依頼主にその旨を伝えた。



✕✕✕✕



「影崎先生、随分と大荷物ですわね。ふふ。」


その日の夜に出発した私は、人体模型を祓った経験など当然ないためありとあらゆる道具を鞄に詰め込んできた。


そしてコトリバコは事務所に置いてある私の名刺を見たようでわざとらしく私の事を先生と呼ぶ。


冷たい風を受けながら歩いていると、ある事に気付いた。


「そういえば君の呼称はまだ存在しない。まさか外でコトリバコなどと呼べるはずがないだろう、何か元々の名前などあるかい?」


彼女は首を横に振る。


「箱の中に私の名前も記されていたはずだけれど、血で読めないわ。私も名前なんて覚えていないもの。」


「……なら、小鳥なんてどうだろう。君に丁度似合う名前だと思うのだが。」


私が一つ提案すると彼女は嬉しそうに微笑み、自分の名前を反芻した。


「ええ、光栄ですわ。影崎小鳥として先生のお役に立てるように頑張ります。……なんて。」


「私の名字を名乗る必要などないだろう、夫婦でもあるまい……」


その言葉に些か不満なのか、彼女の声に圧が篭る。


「私は貴方のもの、そして貴方は私のもの。それならば名字を名乗る事の何がいけないのかしら?」


ただならぬ気配に思わず振り向く。そこに居たのは小鳥ではなく、ハッカイのコトリバコであった。


情けない声を上げて私が倒れた事は、自明だろう。

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