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如月(0)



彼女は、所謂エリートだ。

類稀なる才覚で数多の怪異を蹴散らし、出世への階段を駆け上がった。一刻も早く退魔省の実験を握り、全ての怪異を消し去る事が最善であると信じて疑わなかったからだ。


怪異に救いなど必要ない。怪異に情けなど必要ない。怪異の存在は許されない。正面から打ち倒し、息の根を止める。それだけを信念として今まで生きてきた。


だからこそ、彼の存在は極めて不快なものだった。


退魔師としての才能も凡、挙句怪異に対して無防備に気絶。その割に怪異を救う等と理想だけは高潔。そんな人間、影崎が気に食わなかった。


「貴様の退魔師としての人生も今日限りだ、影崎。」


退魔省の足を引っ張るような素人は必要ない。今日こそ、引導を渡してくれる。



× × × ×



「久し振りに仕事が取れたわね、最近は退屈過ぎて私が暴れてやろうかと思うくらいだったわ。」


「勘弁してくれ、小鳥が暴れると退魔省が総掛かりで退治しに来てしまう。」


「退魔省のお陰で私たち個人の退魔師の仕事が掠め取られてるのよ、鬱憤くらい晴らさせなさいよ。」


くねくね事変から半年、私たちを取り巻く環境は大きく変わった。昔から存在こそすれど目立った動きが無かった退魔省。それが急に活発な動きを見せ始めた。


実力の足りない退魔師からライセンスを剥奪、日本の退魔師は半数ほどに減少した。また、変異した大型な怪異は退魔省の獲物となった。


「貴方が神崎家に大型怪異の報告をしたのも一つの要因かもしれないわね。退魔省は神崎家と密接な関係があるもの。」


「でも神崎さんたちがこうして……本気で取り組んでくれるとなると助かる。現に市民への被害も減っている。」


「あんまり彼らが頑張り過ぎると私たちの食い扶持が無くなってしまうけれどね。」


小鳥は溜め息を吐くと、先程受けた依頼を書類に纏める。確かに最近の怪異も小物ばかりになって稼ぎは減ったが、気絶するような恐ろしい怪異と対峙しなくても良いのはメリットだ。


それに退魔省の傘下に入り、公式退魔師という立場になると安定した給料だけでなく霊コロリなどの消耗品も経費で使い放題だ。


実の所、非常に魅力的な条件だ。現に消耗品を自腹で買うと低級怪異に使った場合赤字も有り得る。


すると私の思考を見透かしたように小鳥は口を開く。


「私は退魔省のやり方、好きじゃないわ。確かに怪異は敵なのだろうけど……効率重視、祓うのも作業。あれじゃ救える怪異も救われない。私たちは退魔省のノルマの為に存在する訳じゃないのよ。」


怪異本人の言葉は、重い。それに私も、苦しむ怪異を解放する為にこの事務所を設立したのだ。だからこそ、怪異の殺戮を第一に考える退魔省に勤める気にはならなかった。


「安心してくれたまえ、私は……私のやり方で怪異を救ってみせるさ。」


それを聞くと小鳥は、


「だからこそ貴方に惚れたのよ。」


と嬉しそうに笑った。


その時だった。滅多に鳴らないチャイムが連打されれば、急いでドアの鍵を外して来客を迎える。しかしドアの向こうに立っていたのはあまり喜ばしい顔ではなかった。


「……退魔省、怪異対策局次長の一之瀬(いちのせ) (ひな)だ。影崎先生と少し話がしたい。」


黒い艶やかな髪を後ろで纏め、やや目付きが鋭いながらも目鼻の整った綺麗な女性。同い年故に面識はあるが、彼女が退魔省に勤めてからは初めて会うことになる。


「なら、応接間で話しましょうか。お茶でも淹れて来ますよ。」


「必要ない。すぐに話は済む。」


彼女は鞄から一枚の紙を取り出し、私に突き付けた。


「心苦しいが、影崎先生。貴方の退魔師ライセンスは剥奪だ。」


次の怪異は他の怪異を予定してましたが没にしちゃったので遅くなってしまいました。すごく短いのでプロローグとして投稿します

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