7話 俺、失礼な事をしたら怒られました。私、機械と初めて会話しました。
「お疲れ様。早速で悪いが質問……シャル?」
なぜか恍惚とした表情をしている……が、俺に気付くと同時に表情を締める。
ゴホンと一息ついた後──
「凄い、凄いわ! 空を飛ぶのがこんなに楽しいなんて……映像も相まって、風を切る感覚が心地良かった、最高よ!」
興奮を隠さずに話してくる。
……ここまで楽しそうにされると俺も飛んでみたくなるな。
まあそれは置いておいて、さらっとシャルが気になる事を言っていた。
少し確かめてみよう。
俺はシャルの頬に手を伸ばして──
むにょーん。
「……はひふふほほ!」
頬を伸ばしてみたけど……普通に柔らかいな。
とんでもない風速で心地良いという感想をもったようだし、魔族の頬は分厚く出来ているのかとも思ったが、どうやらそういう事でも無いようだ。
「やっぱり翼の?」
「ひふはへはっへふほ!」
頬を伸ばし続けていた俺に、シャルの手刀が落とされる。
まあ失礼な事をした自覚はあるし、甘んじて受ける。
痛い。
「ちょっと確かめたい事があってな。それと、いくつか質問良いか?」
頬を膨らませながらも頷くシャル。
「じゃあ早速、飛んでる時に魔力は使ったか?」
「魔力は使ってないわ」
「そうか、まあそりゃそうだよな」
俺は人間だから分からないが、魔法の同時使用は基本的に厳しいらしい。
確か脳や魔臓に凄まじい負担が掛かるんだったか?
仮に飛翔に魔力を消費するとしたら魔法の同時使用と理屈は同じだろうし、魔力消費は無いと予想していた。
その予想は合っていたようだ。
「じゃあ飛んでる時の翼の感覚はどうだ?」
「足を動かして歩くのと同じ感じね。長年使ってきた身体の機能の一部みたいな? すごく説明しづらいけど、取り敢えずなんの問題も無く動かせるわ」
「了解、とりあえず、現時点でわかってる事を纏めると──」
①風圧を軽減
②飛行中の魔力消費は無し
③少なくとも30分は飛行可能
④壊れない
⑤大きさをある程度変えられる
⑥魔力溜まりの役割を担う
「こんな感じだな」
このまとめと、実験の詳細を記録した紙をシャルに渡す。
実験の詳細を記した紙には、風の変化等、実験室の環境の変化が事細かに書かれている。
目を通しいくつかの疑問が生まれたようで、俺に質問してくるシャル。
「④や⑤はいつ分かったの? 少なくとも、この実験で分かるような事ではないと思うけど」
「これは翼を生成した時に頭の中に浮かんだ」
「なるほどね。④と⑤はそれで良いとして、②と⑥は私も実感してるからOK。①と③はこの実験でわかった事?」
「ああ、と言っても、③は分かってるんじゃないか?」
「え? 私30分も飛んでたわけじゃないし、分からないわよ?」
「いや、飛んでたぞ。30分ずっと」
「え?」
「え?」
「「……」」
ほんとに気付いてないらしい。
確かに楽しそうに飛んでたけど、時間を忘れるほどか……
「嘘ぉ……?」
ポケットに入っているタイマーをシャルに見せる。
「一応計測しておいた。最初は5分くらいでしんどくなるかと思ったんだが、そんなこと無かったな」
「そ、そんなに飛んでたのね。でもまだ余裕あるわ。体力的にも、風の強さ的にも」
──飛翔
体力の消費そのものが無いのか、それとも効率が良いだけなのか。
……分からないが、どちらにせよ常識外れの力なのは確かだな。
「……その事については後で考えよう。取り敢えず①について説明させてくれ」
「そうね、お願いするわ」
「風圧と風速って知ってるか?」
名前は知っているらしいが、説明しろと言われて出来る程でもないらしい。
一応解説しとくか。
「当然風速が強ければ強いほど風圧も増すわけだが、シャルの飛翔中に部屋に流した最大風速は120km/h。人が平気で吹き飛ぶレベルの風だ。笑顔のまま飛び回れるとしたらシャルの顔の皮がとんでもなく分厚いか、翼が風圧を抑えている以外に考えられない」
「なるほど、だから私のほっぺたで遊んでたのね」
シャルは笑顔を浮かべているが、目が笑ってない。
神殿を襲われた時を思い出し、思わず身の毛がよだつ。
「か、風を遮断したのは翼の効果だ。間違いない、うん」
怖いからとっとと話を進めてしまおう。
「風を切った感覚があるようだし、風を全て遮断する訳じゃなさそうだけどな。まあこの辺りは追々調べていけば問題ないだろう」
「じゃあこれで飛翔の実験は終わり?」
「そうだな」
シャルは休憩を提案してきたので、10分程休憩を挟むことにした。
シャルが疲れているようには見えなかったが、俺も休憩を取っておきたかったし丁度いい。
本来の計測であれば30分位大したことないが、大人が数人で扱う機械を一人で操作するとなれば話は別だ。
それに伴って、今回は実験中に指示を出し続けていた。
流石に集中力が保たない。
このまま休憩無しで次の実験に移ったら、実験結果の観測に失敗しかねないからな。
「……それで、あの、お花畑って何処かしら?」
花畑に行きたいのか?
まあ女の子だし花は好きか。
見てると和むしな。
「花畑なら……」
花畑への道のりを口頭で教えたら、急いで駆け出してしまった。
……そんなに走って行くほどか?
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
AnotherView:Shall Astoria
教えてもらった道を進んでお花畑に着いたのは良いけど……
「本当のお花畑な訳ないでしょうがー!!」
忘れてたわ、この家とんでもなく大きいのよ……本物のお花畑だってあってもおかしくない。
というか、ここの花も日本庭園と同じ様に整備されてるのね。
すると──
「あ、なるほど」
小さな機械が花壇の周りを動いている。
どうやら、この機械たちは花壇の整備や水やりをしているみたい。
日本庭園も彼等が整備しているのかも。
「……お疲れ様」
『アリガトウゴザイマス』
「わわっ!」
し、喋るのね……ビックリ。
って事は──
「ねぇ、一番近くのお花畑、何処にあるか分かる?」
『ソチラノツウロヲ、ミギニマガッタトコロニゴザイマスヨ』
「ありがとう、助かったわ!」
『イエイエ』
まさか本当に教えてくれるなんてね。
私は教えてもらった道を進み、色々とした後にそのまま実験室に戻った。
最後まで読んでくれてありがとね。
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