6話 私、空を飛ぶのが楽しすぎます。俺、翼の性能が高過ぎてびっくりです。
「おお……」
部屋から出て、すぐに目に入った日本庭園。
実物を見るのは初めてだけど、周りに音が無いのも相まって風情がある。
それにしても、二人で住んでいるにしては整備が行き届き過ぎている気がするわね……何か秘密があるのかも。
次に目に入ったのは廊下。
とてつもない長さで、思いっきり走ったら気持ち良さそう。
一定間に部屋があったけど、彼と私以外の気配を殆ど感じない。
咲ちゃんと二人で住んでるっていうのは嘘じゃなさそうね。
天霧との事だし、親は戦場にいるのでしょう。
「そういえば咲ちゃんは?」
「咲は自室で歌ってるんじゃないかな? あいつ、歌うの好きだし」
「そうなの? 声は聞こえないけど」
「咲の部屋はそこの廊下を曲がって、次の廊下を右に曲がって、別館に入って階段を登って、正面の廊下を真っ直ぐに歩いた8番目の部屋だからな。遠くて聞こえないだけだ」
「…………」
お金持ちの家はこういうものなの? ……取り敢えず、今は受け入れる事にしましょう。
「そういえばこの翼、夜の霊装って認識でいいのよね?」
「あぁ、間違いない」
「能力は分からないの?」
「能力が分からない……というより、能力の発動条件が分からないっていうのが正しいと思う。例えばその翼、縮小出来るみたいなんだけど、やり方は分からん。視覚の共有は俺も知らなかった能力だから、知らない能力もあるとは思うけどな。それをここで試す」
「……合わないわね」
「俺もそう思うよ……」
廊下を歩く事ニ分。
私の前にはやたらとメカニックな扉が構えていて、道中の厳かな雰囲気とはかけ離れているわね。
夜が扉の横のパネルに触れると、ピッという音と共に扉が開く。
「触れば開くの?」
「そういう訳じゃないが、どうかしたか?」
「単純に気になっただけよ。気にしないで」
そうして、私達は部屋の中へと足を踏み入れた。
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「人間ってみんな白が好きなの? 目がチカチカするわ……」
部屋の中は白一面で、高さも広さも十分。霊装神殿の最奥を彷彿場所だわ。
でも各所にはカメラが設置されていて、壁の所々に穴や溝が空いている。
「この穴とかカメラとか、一体何なの?」
「それは実験を始めてからのお楽しみという事で。何から実験する?」
どうせ全部試すし、順番は適当で良いわね。
「じゃあ……飛行能力の実験でいい?」
「なら飛行速度と飛行時間の限界とか、その辺りを検証してみるか」
「私からお願いしておいてなんだけど、そんな実験できるの? 全力で飛ぶには、流石にこの空間は小さいと思うけど」
この部屋は確かに大きいけど、それでも全力で飛びまわるには小さい。
でも、彼曰く問題は無いそうだ。
「じゃあ早速飛んでくれるか?」
「……分かったわ」
独特のフワッとした感覚が身体を包み、私の身体が宙に浮く。
「な、慣れないわね。我ながら、よくあの土壇場で対応できたものだわ」
「空を飛ぶって楽しそうだな」
「ええとっても」
フフッと、思わず笑みが溢れてしまう。
「……いけないわね」
ここが敵陣の重要地点であることは分かっているけど、、思わず頬が緩んでしまった。
もっと気を引き締めないと。
「さ、そろそろ始めようか。シャル、今からこの部屋に強めの風が吹く。それに抵抗するように飛んでみてくれ」
「室内で風を起こせるの!?」
ホントに人間の技術って凄まじいわ。
この部屋の隅にある別室に移動して、何やら機械を弄り始める夜。
実験環境を整えているのかしら?
「私の事見えてる?」
『大丈夫だ。カメラで見えてるからな! じゃあ風流すぞー!』
そうして風が吹き始める。
といっても大した強さの風じゃなく、そよ風程度のものだわ。
『ここからはスピーカーで指示させてもらう。聞こえてたら身体のどこでもいい、二回叩いてくれ』
指示を聞いた私は、パンパンと右腰を二回叩く。
『了解、以降【はい】の時は右腰、【いいえ】の時は左腰を二回叩いてくれ。質問は【はい】か【いいえ】で答えられるものだけに厳選する。詳しい部分は実験が終わってから話す。それで大丈夫か?』
右腰を二回叩く。
確かに、この方が実験効率は良さそうね。
『了解、早速だが風を少し強くしてみる。抵抗するように飛んでみてくれ。キツくなったら左腰を叩いてくれ』
右腰を二回叩いて、そのまま風に抵抗して飛ぶ。
風が強くなったらしいけど……あまりそんな感じはしないわね。
『よし…………少し見た目が変わるかもしれないけど、気にしないで飛び続けてくれ!』
見た目が変わる?
取り敢えず右腰を二回叩いて、そのまま飛び続ける。
すると──
《立体映像起動 仮想:空》
「うっ!」
アナウンスと共に、この空間が眩い光に包まれる。
思わず目を瞑って、光の収束と同時に目を開けると──
「う、うそ……!」
そこに広がっていたのは空。
青い空、白い雲、緑に映えた森まである。
風も相まって、本物と錯覚しかねない程にリアルだわ。
『とてつもなく本物に近いけどあくまで映像だ。先行しすぎると壁にぶつかるから気を付けてくれ』
「了解……あ、いけない」
右腰を二回叩く。
確認作業を忘れる程に、その映像は素晴らしかった。
astoria'sView:end
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「……凄まじい性能だな」
最初の風の抵抗は20km/h。
大体自転車の走行速度と同じくらいだった。
でも、今は速度を上げ続けて80km/hにまで達している。
車の走行速度と同等にも関わらず、空中できりもみ回転をする余裕まで見せている。
「最奥での戦いで使った【飛翔】を見る限り、初速も問題なさそうだしな」
よし、一気に速度を上げてみるか。
『シャル、速度上げるぞ!』
右腰を二回叩いたのを確認して、風の勢いを更に強める。
──120km/h。
この実験室の出力限界であり、昔の人間界で使われていた鉄道がこのくらいだ。
でも、見ている限り、これでも余裕がありそうだ。
本当にとんでもない霊装だな。
シャルの適応力がとんでもないのか? 俺は使えないから分からないけど。
最奥での戦闘で魔法も使っていたし、空中でもある程度の戦闘能力は維持できるんだろう。
──そして、そのまま一分が経過した。
余裕のある表情は崩れなかったし、色々と分かった事もある。
『シャル、一旦休憩だ。ゆっくり風を弱めていくから降りれそうな時に降りてくれ』
右腰を二回叩くのを目にして、風を弱めていく。
俺の推測通りなら大丈夫だと思うが、違った場合、急に風を止めるのは危ないからな。
シャルが着地した所で俺も部屋を出てシャルの元へと走る。
【飛翔】の実験は終了だ。
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